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粟粒結核
山形 昂

監修医師
山形 昂(医師)

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京都大学医学部医学科卒業。田附興風会医学研究所北野病院 臨床研修。倉敷中央医療機構倉敷中央病院 呼吸器内科、京都大学大学院医学研究科 呼吸器内科などで経験を積む。現在はiPS細胞研究所(CiRA)で難治性呼吸器疾患の病態解明と再生医療に取り組んでいる。専門は呼吸器疾患。研究分野は難治性呼吸器疾患、iPS細胞、ゲノム編集、再生医療。日本呼吸器学会呼吸器専門医、日本呼吸器内視鏡学会気管支鏡専門医、日本内科学会認定内科医。

粟粒結核の概要

粟粒結核(ぞくりゅうけっかく)は、結核菌に感染することで発症する「結核」の病態の1つです。

結核では、肺に発病する「肺結核」がよく知られていますが、肺以外の臓器に感染する「肺外結核」もあります。

粟粒結核も肺外結核の一種で、他には「髄膜結核(結核性髄膜炎)」や「泌尿生殖器結核」「心膜結核(結核性心膜炎)」「腹膜結核(結核性腹膜炎)」「皮膚結核」「リンパ節結核」などが知られています。

粟粒結核は結核菌が血流に乗って全身に広がり、複数の臓器に病変が形成されることで発症します。結核の病態の中でもより重篤な経過を辿ることが多く、注意を要する疾患です。

結核は感染している人のくしゃみや咳に含まれる結核菌を吸い込むことで感染することがあります。感染しても必ずしも発病するわけではなく、免疫力の低下などを機に一部の人のみが発病します。

粟粒結核では、体内に侵入して増殖した結核菌が血流に乗って脳や肺、腎臓、肝臓などに運ばれます。その結果、複数の臓器で粟粒のような小さな病変を形成します。発症後は38度前後の高熱が続き、食欲の低下や全身倦怠感などの症状を認めることもあります。治療開始が遅れると、脳や脊髄などの中枢系が障害されて意識障害を来し、命に関わることもあります。

したがって、粟粒結核はできるだけ早期の発見と治療が望まれますが、初期の病変は画像検査で発見しにくく、気付かないうちに進行してしまうこともあるため、注意が必要です。

粟粒結核の治療は主に、多剤併用による化学療法が行われます。

出典:一般社団法人日本呼吸器学会「Topics4 粟状結核-多彩な画像と臨床像-」

粟粒結核

粟粒結核の原因

粟粒結核の原因は結核菌です。
結核菌の感染経路は主に「空気感染(飛沫核感染)」で、結核に感染している人の咳やくしゃみから出たしぶきに含まれる結核菌を吸い込んで感染します。

ただし、結核菌に感染していても、必ずしもすべての人が結核を発症するわけではありません。健康な人の多くは感染していても発症せず、新たに別の人へ結核菌を感染させることもないとされています。

感染者が小児や高齢者の場合、あるいは健康な人であっても免疫力の低下があった場合に、感染していた結核菌が体内で増殖し発症に至ります。粟粒結核では、体内で増殖した結核菌が、血流に乗って脳や肺、腎臓、肝臓などに運ばれ、病巣を形成して発症します。

粟粒結核は、特に免疫力の低下している人が発症しやすい傾向があります。高齢者や小児のほか、免疫抑制薬や副腎皮質ステロイド薬を内服している場合には発症のリスクが高くなります。また、健康であっても生活習慣の乱れなどから発症しやすくなることがあるため、注意が必要です。

粟粒結核の前兆や初期症状について

結核は、一般的に感染から6ヶ月〜2年ほどの潜伏期間を経て発病します。粟粒結核も同様に潜伏期間を経て発病すると考えられています。発症初期には38度以上の高熱が出ることがあるものの、結核菌による病変が特定できずに、結核の発症が見落とされるケースもあります。

その他の初期症状もはっきりとは現れにくいのが特徴で、食欲が低下したり体重が減ったりするのみのケースもあります。症状が進行すると、悪寒や全身倦怠感、呼吸困難を認めることもあるほか、病変が脳に形成された場合には意識障害を呈することもあります。

出典:東京都感染症情報センター「結核」

粟粒結核の検査・診断

粟粒結核が疑われる場合には、結核菌の感染を確認するための検査と、各臓器の結核病変の有無を調べる検査が行われます。

結核菌の感染を確認するためには、痰などの検体から結核菌の有無を確認する検査や、「インターフェロンγ遊離試験」などが行われます。

インターフェロンγ遊離試験は、結核感染の有無を評価する検査法ですが、過去に感染したことがあれば陽性となるため「過去の感染」か「新規の感染」かを区別することができない点には注意が必要です。

一方、結核病変の有無を調べるためにはレントゲン検査やCT等の画像診断が行われます。粟粒結核を発症している場合には、レントゲン画像で粟粒状の小さな病変が確認されます。ただし、粟粒結核の初期では病変を確認できないこともあります。

粟粒結核の治療

粟粒結核の発症を認める場合には、主に多剤併用による化学療法が行われます。

一般的に、治療は6ヶ月以上の長期間に渡って行う必要があります。標準的な治療として、最初の2ヶ月は抗結核薬の「イソニアジド」に加え「ピラジナミド」「リファンピシン」「ストレプトマイシン」または「エタンブトール」の4種類の薬剤で治療を行い、その後4ヶ月間はイソニアジドとリファンピシンの2種類か、イソニアジド、リファンピシン、エタンブトールの3種類の薬剤で治療を行います。

出典:NIID国立感染症研究所「結核とは」

粟粒結核になりやすい人・予防の方法

通常の肺結核とは異なり、粟粒結核は全身的な感染症であり、特に免疫力が低下している人々に発症しやすいとされています。以下のような人々が粟粒結核になりやすいとされています。

  • 免疫力が低下している人
    HIV感染者:HIVに感染して免疫力が低下すると、結核にかかりやすく、特に粟粒結核のような全身性の結核が発症しやすくなります。
    免疫抑制治療を受けている人:例えば、ステロイド薬や免疫抑制剤(抗がん剤、免疫不全治療薬など)を使用している場合、免疫系が抑制され、結核に対する抵抗力が低下します。
    臓器移植を受けた人:移植後に免疫抑制薬を使用している場合、結核菌に対して感受性が高くなります。
  • 高齢者

    高齢者は免疫機能が低下しているため、結核菌に感染しやすく、また、既に体内に潜伏していた結核が再活性化するリスクが高まります。特に体力が衰えていると、粟粒結核のような重篤な結核が発症しやすいです。

  • 慢性疾患を持つ人

    糖尿病患者:糖尿病は免疫系を弱めるため、結核にかかりやすくなります。特に糖尿病がコントロールされていない場合、感染のリスクが高くなります。
    腎不全や肝不全などの慢性疾患を持つ人:これらの病気も免疫力を低下させ、結核に感染しやすくなります。

  • 栄養状態が悪い人

    栄養不良は免疫力を低下させ、結核にかかりやすくなります。特に飢餓状態や慢性的な栄養不足にある人々は、結核菌に対して抵抗力が弱くなります。

  • 感染症が持続している人

    結核の菌は潜伏感染している場合が多いため、例えば慢性の呼吸器感染症や他の細菌感染症を繰り返し患っている場合、免疫力が低下し、粟粒結核を含む結核が発症しやすくなります。

  • 結核の既往歴がある人

    過去に肺結核にかかったことがある人は、結核菌が体内に潜伏していることがあり、免疫力が低下したときに再活性化することがあります。特に免疫力が低い状態では、粟粒結核として再発することもあります。

予防法

粟粒結核の予防には、結核の感染リスクを減らすことが重要です。
感染予防のために、手洗いやうがいの励行、人混みでのマスクの着用を心がけましょう。高齢者や小児、免疫抑制薬等で治療中の人は特に入念に感染対策を心がけ、結核患者との接触を避けることが重要です。

また、万一結核菌に感染しても、必ずしもすべての人が発症するわけではありません。
生活習慣を整え、免疫力の維持・向上に努めましょう。適度な運動や規則正しい食生活を心がけ、十分に睡眠をとって体を休めたり、シャワーではなくゆっくり入浴したりすることも効果的です。

定期的に健康診断を受けることで結核の早期発見と早期治療が望めます。健康な人や成人であっても、年に1度は健康診断を受けるようにしましょう。

このほか、結核の発病を予防するための方法として、BCGワクチンがあります。BCGワクチンは、特に乳幼児期に接種を終えた場合に、粟状結核に対して高い発病予防効果が期待できるとされています。


関連する病気

  • 結核
  • 肺外結核
  • 泌尿生殖器結核
  • 髄膜結核(結核性髄膜炎)
  • 心膜結核(結核性心膜炎)
  • 腹膜結核(結核性腹膜炎)
  • リンパ節結核(結核性リンパ節炎)
  • 皮膚結核

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