監修医師:
渡邊 雄介(医師)
所属
国際医療福祉大学 教授
山王メディカルセンター副院長
東京ボイスセンターセンター長
目次 -INDEX-
ポリープ様声帯の概要
ポリープ様声帯は、声帯全体がむくむように腫れ、声のかすれや喉の痛みを引き起こす病気です。喫煙の習慣がある方や声を酷使する職業の方に生じることが多く、とくに中年以降の女性に多く発症する傾向があります。
「声帯ポリープ」と混同しがちですが、ポリープ様声帯とは別の病気です。声帯ポリープは、声帯の一部が腫れて小さな突起(ポリープ)があらわれる病気ですが、ポリープ様声帯は前述したように声帯全体が腫れます。
ポリープ様声帯が悪化すると、声を出すたびに痛みが走ったり、声の音量を保つのが難しくなったりします。
軽度の場合は生活習慣の改善などの保存的治療が基本となりますが、保存的治療で改善がみられない場合や腫れが大きい場合は手術を検討します。
ポリープ様声帯の原因
ポリープ様声帯の主な原因は喫煙です。他にも声の酷使や慢性的な喉の炎症などが影響することもあります。
そもそも声帯は、左右2つのひだのような構造が向き合い、それぞれが振動することで音を出しています。ひだ部分に過度の負担がかかり続けると、声帯が腫れて、柔軟性が失われることにより、正常な振動ができなくなります。その結果、声がかすれたり、かすれ声や低音しか出なくなったりするのです。
喫煙
ポリープ様声帯の原因は、ほとんどが喫煙だといわれています。タバコの煙に含まれる「タール」と呼ばれる化学物質は、喉や声帯に炎症を起こしやすく、長期的な喫煙は声帯の粘膜を傷つけ、ポリープ様声帯のリスクを高めます。
また、タバコを吸うと喉が乾燥しやすくなるため、声帯の粘膜を傷つける一因となります。
声の酷使
声を頻繁に使う仕事や環境だと、声帯に負担がかかりやすくなります。例えば、教師や営業職、アナウンサーなどの職業の方は、長時間にわたって声を張り続けることが多いため、発症しやすいです。しかし、普段から正しい発声訓練をしている歌手などは発症しにくいのが特徴です。
ポリープ様声帯の前兆や初期症状について
ポリープ様声帯は、喉奥の違和感や乾燥感、声を出したときの違和感によって気づく場合が多いです。
一時的な喉の不調だと思いがちですが、一定期間症状が続く場合はポリープ様声帯の可能性があるため注意が必要です。該当する場合は、早めに耳鼻咽喉科を受診して検査を受けましょう。
喉奥の違和感、乾燥感
ポリープ様声帯は、初期症状として喉の奥に違和感や乾燥感を覚えることが多いです。さらに、声を出す際にも違和感を覚えることもあります。
声がかすれる、低音になりがち
声帯が腫れると声の振動が阻害されるため、声がかすれやすく、普段よりも低い音域でしか声が出せなくなります。歌手やアナウンサーなど、声を細かくコントロールする必要がある方の場合、声の微妙な変化でポリープ様声帯に気づくこともあります。
声の疲労感、声がすぐに途切れる、痛みを感じる
普段よりも声を出すのが疲れる、声がすぐに途切れるといった症状も初期段階であらわれることがあります。
特に、会話中や話し続けることが辛くなるといった症状が見られる場合には、ポリープ様声帯を発症している可能性があります。加えて、声を出す際や唾液を飲み込む際に、喉の痛みを感じることもあり、日常生活でのストレスとなりやすいです。
ポリープ様声帯の検査・診断
ポリープ様声帯は、主にファイバースコピーで声帯の状態や炎症の有無を確認し、診断が下されます。
ファイバースコピー
ファイバースコピーは、鼻から細いカメラを挿入して声帯の状態を観察する方法です。この検査で、声帯の構造や腫れ具合がわかるため、ポリープ様声帯の診断が可能です。患者の負担も少なく済むメリットがあります。
音声検査
音声検査は、声の周波数や強度、音質などを測定し、声に異常があるかを調べる検査です。例えば、声がかすれる、声量が出ないといった声質の異常がある場合、程度を測定して診断の参考にします。
また、音声検査は声のデータを数値化することで、治療効果の評価や経過観察にも役立つのが大きなメリットです。
ポリープ様声帯の治療
ポリープ様声帯の治療は、症状の重さや原因に応じて異なります。一般的には、生活習慣の改善から始め、必要に応じて手術や音声治療が行われます。
保存的治療
軽度のポリープ様声帯の場合、生活習慣を見直すことで改善されることがあります。禁煙や過度な飲酒を控え、喉を潤すための水分補給を心がけることが基本です。また、日常的に声を使う頻度を減らし、声帯が休まるように心がけましょう。
薬物療法
消炎薬やステロイドホルモンの吸入療法を行う場合もあります。消炎薬やステロイドホルモンの吸入療法は、喉や声帯の炎症を抑える効果があり、ポリープ様声帯を改善できることがあります。
ステロイドホルモンの吸入療法は、短期間での症状の改善が期待できますが、副作用のリスクをともなうため、医師の指示のもと適切に行いましょう。
手術治療
腫れがひどい場合や、保存的治療で改善が見られない場合は、声帯の粘膜の腫れた部分を切除することでポリープ様声帯の改善を図ります。繊細な手術になるため、声帯を立体的に見ることができる顕微鏡を使って行う場合が多いです。術後は、しばらく声を出すことを控える必要があります。
音声治療
音声治療は、発声の正しい仕方を言語聴覚士から学ぶことで、声帯への負担を減らす治療法です。とくに手術治療後に行われることが多く、職業上声を使うことが多い人は、症状の改善や再発予防のために効果的だといえます。
ポリープ様声帯になりやすい人・予防の方法
ポリープ様声帯は、職業上声を酷使する人や、喫煙の習慣がある人、慢性的に喉が炎症している人に発症しやすいです。
そのため、日常生活を見直すことがポリープ様声帯の予防に直結します。具体的な取り組みとして、喫煙習慣がある方は禁煙に取り組むことが重要です。タバコを吸うことで喉が乾燥し、声帯が炎症を起こしやすくなるため、禁煙によりポリープ様声帯の発症リスクを大きく下げることができます。
また、声帯の乾燥を防ぐために、こまめな水分補給(コーヒーやアルコールの摂取は控える)、適度な湿度を保つといった対策が挙げられます。
これらの予防策を講じたうえで、長時間大きな声を出さない、無理に声を張らないなど、声帯にかかる負担を減らすことも大切です。