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過敏性肺炎
山形 昂

監修医師
山形 昂(医師)

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京都大学医学部医学科卒業。田附興風会医学研究所北野病院 臨床研修。倉敷中央医療機構倉敷中央病院 呼吸器内科、京都大学大学院医学研究科 呼吸器内科などで経験を積む。現在はiPS細胞研究所(CiRA)で難治性呼吸器疾患の病態解明と再生医療に取り組んでいる。専門は呼吸器疾患。研究分野は難治性呼吸器疾患、iPS細胞、ゲノム編集、再生医療。日本呼吸器学会呼吸器専門医、日本呼吸器内視鏡学会気管支鏡専門医、日本内科学会認定内科医。

過敏性肺炎の概要

過敏性肺炎とは、環境中の特定物質に対するアレルギー反応を原因として発症する肺の疾患です。
鳥の糞・カビやキノコの胞子などの有機物、あるいは粉末状の化学物質などを繰り返し吸入することが発症リスクを高める要因と考えられています。

過敏性肺炎を発症すると、咳や息切れ、発熱などの症状が出ます。痰を伴わない乾いた咳がみられるのも、この疾患の特徴です。

生活環境や職場環境に起因するケースが多く、30~50歳代に好発するとされています。日本国内では、特に夏季に発症例が増加する傾向が報告されています。

過敏性肺炎の治療では、急性の症状に対しては薬物療法や酸素吸入などで対応します。多くの場合、原因となる物質を避けると症状は軽快することが知られています。

しかし、原因物質への暴露を続ける限り、再発や慢性化のリスクは高いままです。
進行して肺組織が線維化(固くなって機能を失う)してしまうと、治療がより難しくなり、重篤な呼吸不全なども引き起こします。

したがって、過敏性肺炎では、原因物質の特定および環境条件の改善が、予防と治療の両面において重要になります。

過敏性肺炎の原因

過敏性肺炎では、身の回りの環境に存在する物質が発症の引き金となります。
過敏性肺炎をはじめとするアレルギー反応において、このように引き金となる物質のことを「抗原(アレルゲン)」と呼びます。
過敏性肺炎の抗原としては、たとえば、カビの一種であるトリコスポロンや、鳥の糞に含まれるタンパク質、キノコの胞子、ポリウレタンの原料となる化学物質などが知られています。

空気中に浮遊し、吸入する可能性のある物質なら、抗原となる可能性があります。ただし、同じ物質でも、ある人には抗原となり、別の人には影響を与えない場合もあります。

体内に入った抗原に対して、免疫系が過剰な反応をしてしまい、炎症などを引き起こすアレルギー反応が、過敏性肺炎の原因です。

過敏性肺炎の前兆や初期症状について

過敏性肺炎に明確な前兆はありませんが、日常生活あるいは職場環境において、抗原になりうるものを吸い込む可能性が高い場合、体調不良等の前兆を感じることもあるでしょう。
過敏性肺炎の症状は大きく分けて、「急性」と「慢性」に分類できます。

急性過敏性肺炎

急性過敏性肺炎は、抗原にすでに感作されている(アレルギー反応をしている)人が発症する可能性があります。比較的大量の抗原に短時間で曝露された場合に発症しやすくなります。
急性の場合、短期間に激しい症状が現れるのが特徴です。
症状は、抗原に曝露されてから数時間以内に発熱、筋肉痛、全身のだるさ、そして咳や呼吸困難といった呼吸器症状が現れます。

慢性過敏性肺炎

慢性過敏性肺炎は、比較的少量の抗原に長期間曝露されているような場合に起こりやすく、乾いた咳が続くことや、次第に悪化する息切れが特徴です。
慢性型の病状を放置すると、肺が不可逆的に硬くなる「線維化」が進み、呼吸不全などのより深刻な症状をきたすようになります。

過敏性肺炎の検査・診断

過敏性肺炎の検査・診断では、まず問診で症状や病歴を確認します。疑わしい場合は、血液検査、肺機能検査、胸部X線や胸部CTが行われます。

患者が抗原を吸い込むような環境にあったかどうかを知ることは、過敏性肺炎の検査・診断において重要な手掛かりとなることがあります。長期間フィルターが清掃されていない空調機器を原因とするカビ、ペット(鳥)の飼育、キノコ栽培や畜産といった職場環境などはそうした情報の一例です。

胸部X線や胸部CT検査をおこなうことで、病変が確認できます。身体診察では過敏性肺炎に特徴的な異常な呼吸音、ばち指(指先が膨らむ)などが観察される例もあります。ただし、画像検査の結果や身体所見だけでは、過敏性肺炎と他の肺疾患との区別をするのは難しいケースもあります。

血液検査では、抗原に対する抗体、炎症反応に対する白血球の増加などをみます。
肺機能検査(呼吸機能検査)などをおこなうと、病勢の進行具合を評価できます。

より詳しい検査としては気管支鏡検査、外科的肺生検などの追加検査をおこなって病態を評価するケースもあります。

過敏性肺炎の治療

過敏性肺炎は症状が軽いうちに診断され、早期治療ができれば回復が期待でき、予後がよいとされています。
一方、重症であったり慢性化して症状が進んでしまうと、治療が難しくなることも知られています。

また、過敏性肺炎が診断された場合は治療とは別に、できるだけすみやかに原因物質(抗原)とそれに晒されやすい環境を特定し、抗原の発生源を排除するか、あるいは接触を避ける工夫が必要です。

軽度の過敏性肺炎の治療

症状が軽度の場合、抗原を避けるだけでも症状が改善することがあります。
抗原を避けることで症状が軽快したのであれば、過敏性肺炎の可能性が高くなるとも言えます。
軽症であっても急性の症状がみられる場合は、ステロイドなどの投与や酸素吸入で症状の緩和をはかることがあります。

治療を受けて症状が良くなったとしても、自宅や職場に戻って再び同じ物質(抗原)に触れると再発する可能性があります。
そのため、再発や慢性化を防ぐうえで、発症原因の特定と環境改善が不可欠です。

重症・慢性型の過敏性肺炎の治療

重度の呼吸不全が見られる場合は、ステロイドなどによる薬物療法や酸素吸入を継続的におこないます。
慢性化して肺の繊維化が進んだ重症例では、治療がより難しくなります。
抗原への接触を避け、治療を継続することで病状の進行を止められる可能性はあります。
必要に応じて抗線維化薬や免疫抑制薬の使用も検討されます。

過敏性肺炎になりやすい人・予防の方法

過敏性肺炎になりやすい人は、この病気の発症原因となるカビ、鳥の糞、キノコの胞子、ポ化学物質などの抗原に対し、常にさらされる環境に身を置いている人です。

30代から50代が好発年齢とされ、日本国内ではカビ胞子による発症例が多く、夏場をピークに発症例が増えるという報告もあります。

抗原になりうる物質の対象は広いものの、他のアレルギー性疾患と同様に、すべての人にとってそうした物質が抗原となるわけではありません。

発症を予防する方法は、抗原との接触をできるだけ避けることです。

加湿器やエアコンのフィルターなど、清掃を怠ったためにカビが発生している環境は、清掃などで改善できるでしょう。排除可能な抗原については、発生源を断つことでこの病気を予防できます。
職業上、回避しづらい抗原の場合は、防護マスクの使用なども検討しましょう。

また、この病気は早期発見であればすみやかな回復も期待でき、抗原の特定にも役立ちます。気になる症状があれば早めに医療機関を受診するようにしましょう。


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