監修医師:
高宮 新之介(医師)
目次 -INDEX-
肺化膿症の概要
肺化膿症は、肺に膿がたまり、組織が壊れてしまう感染症です。
この病気は、肺の中に細菌が入り込み、感染とともに膿(うみ)が形成されることが原因です。膿は体が感染と戦う過程でできるもので、細菌や白血球、死んだ細胞などが集まったものです。初期の肺化膿症は、一般的な風邪や肺炎に似た症状を呈するため、見逃されやすい病気です。しかし、進行すると呼吸が苦しくなり、重篤な状態を引き起こすことがあります。
肺化膿症は、特に誤嚥(食べ物や唾液が間違って肺に入ること)によって起こることが多いです。これにより、口腔内に存在する細菌が肺に入り込み、炎症を引き起こします。高齢者や免疫力が低下している人は特に注意が必要です。肺化膿症が進行すると、肺組織が壊れ、空洞ができることがあります。これを「空洞性病変」と呼び、胸部の画像検査で診断されることが多いです。
最近の医療技術の進歩により、適切な抗生物質治療や外科的処置によって、多くの患者さんが回復しています。感染の初期段階で診断と治療を受けることが重要です。一般的な風邪や肺炎と思って放置すると、状態が悪化することがあります。日常的な健康チェックや体調管理を怠らず、早期発見に努めることが肺化膿症の重症化を防ぐカギとなります。
肺化膿症の原因
肺化膿症は、主に細菌感染によって発生しますが、その原因にはいくつかの要因があります。
主な原因
誤嚥性肺炎
これは肺化膿症の最も一般的な原因です。誤嚥とは、食べ物や飲み物、唾液が正常な飲み込む道筋を外れて肺に入り込むことを指します。高齢者や飲み込む力が弱くなっている人、脳梗塞後の後遺症がある人などは、特に誤嚥しやすく、リスクが高まります。
口腔内の細菌
口の中には、偏性嫌気性細菌(酸素が少ない環境で生きる細菌)が多く存在しています。これらの細菌が誤嚥によって肺に入り、感染を引き起こします。歯周病や口腔衛生が悪い場合、細菌の数が増え、感染リスクが高くなります。
免疫力の低下
糖尿病、HIV感染症、長期のステロイドや免疫抑制薬の使用による免疫機能の低下も、肺化膿症を発症しやすくします。免疫力が弱いと、体が細菌を撃退する力が低下し、感染が広がりやすくなります。
その他のリスク要因
慢性的な呼吸器疾患(例えば、気管支拡張症や慢性閉塞性肺疾患〔COPD〕)がある場合、肺の防御機能が低下し、細菌が侵入しやすくなります。これにより、肺化膿症を発症するリスクがさらに高まります。
肺化膿症の前兆や初期症状について
肺化膿症は初期症状が一般的な風邪や肺炎と似ているため、見過ごされがちです。しかし、早期発見が大切となるため、症状を把握し、早めに医師に相談することが大切です。
主な症状
発熱
38度以上の発熱が数日間続くことが多く、感染症を示す重要な兆候です。特に、夜間に発熱し、寝汗を伴うこともあります。
咳と膿性痰
膿の混ざった痰が出ることがあり、悪臭を伴う場合もあります。痰が血を含むこともあり、感染が進行していることを示唆します。
胸の痛み
肺内の炎症が進むと、深呼吸や咳をする際に胸に痛みを感じることがあります。これは胸膜(肺を覆う膜)に炎症が起きて刺激されるためです。
全身の倦怠感と体重減少
食欲が減り、体全体にだるさを感じることがあります。長期間この状態が続くと、体重減少を引き起こします。
寝汗
夜間に大量の汗をかくことが多く、感染が進行しているサインです。
診療科の選択
これらの症状がある場合は、呼吸器内科を受診することが推奨されます。呼吸器内科では肺や呼吸に関する専門的な診断と治療を受けることができます。
肺化膿症の検査・診断
肺化膿症の診断は、症状の評価とともにいくつかの検査を組み合わせて行われます。
主な検査方法
胸部X線検査
肺内の異常を確認するために行われる一般的な検査です。膿がたまっている部分は、X線画像で白く映ります。特に、air-fluid level(空気と液体の境目)が見られると、肺化膿症の可能性が高いです。
胸部CTスキャン
X線よりも詳しい画像が得られ、肺の内部構造を詳細に観察できます。これにより、空洞影の位置や範囲が確認され、診断がより正確になります。CTスキャンは、肺化膿症と他の肺疾患(肺結核や悪性腫瘍など)との鑑別にも役立ちます。
喀痰検査
痰を採取して、細菌の種類を特定するために行います。これにより、最も効果的な抗生物質を選択することができます。喀痰のグラム染色(染色して顕微鏡で観察する方法)により、細菌の形状や特徴も把握できます。
血液検査
白血球数やC反応性たんぱく質(CRP)の値を調べ、体内の炎症の度合いを確認します。これらの数値が高い場合は、体が感染と戦っていることを示しています。
気管支鏡検査
口から細いカメラを肺に挿入して直接観察する検査です。診断が難しい場合や治療がうまくいかない場合に実施されることもあります。
肺化膿症の治療
肺化膿症の治療は、主に抗生物質を使用して感染を抑えることを目的とします。早期の適切な治療は、病状の進行を防ぎ、肺機能の回復を促進します。治療方法は、感染の重症度や患者さんの状態によって異なります。
抗生物質療法
第一選択薬
通常、アンピシリン・スルバクタムやペニシリンGが使用されます。これらは細菌の細胞壁を破壊し、増殖を抑える効果があります。これにより、感染の進行を早期に止めることが期待されます。
広域抗生物質
症状が重い場合や耐性菌の関与が疑われる場合は、バンコマイシンやピペラシリン・タゾバクタムなどの広範囲に効果を持つ抗生物質が使用されます。これにより、一般的な細菌だけでなく、多様な病原体にも対応できます。
治療期間
抗生物質の投与期間は通常4〜6週間です。初期は点滴で投与し、症状が改善すれば内服薬に切り替えます。投与期間は患者さんの状態や治療の進行状況に応じて調整されます。長期にわたる抗生物質投与は、副作用のリスクも伴うため、医師の指導のもとで慎重に行われます。
外科的治療
ドレナージ
膿が大量にたまっている場合や、抗生物質のみでは症状が改善しない場合は、皮膚を通して膿を排出する治療(経皮的ドレナージ)が行われます。この方法は膿を体外に排出することで、炎症の軽減を図ります。
手術
膿が広範囲に広がっている場合や抗生物質に反応しない場合には、外科手術で感染した組織を取り除くことがあります。肺葉切除術が一般的で、感染部分を除去することで症状の改善が期待されます。
補助療法
酸素療法
呼吸が困難な患者さんには酸素を吸入する治療が行われ、呼吸をサポートします。これは、肺の酸素供給を改善し、体全体の酸素レベルを維持するのに役立ちます。
栄養管理
感染症が進行すると体力が消耗されるため、適切な栄養管理が必要です。バランスの取れた食事を摂取し、免疫力を維持します。これにより、体力の回復が促され、治療効果が高まります。
肺化膿症になりやすい人・予防の方法
肺化膿症は特定の人々にとって発症リスクが高くなりますが、日常生活の中で予防策を講じることにより、リスクを軽減できます。
肺化膿症になりやすい人
高齢者
年齢を重ねると体力や飲み込み機能が低下し、誤嚥のリスクが高まります。これにより、肺化膿症の発症リスクも増加します。
慢性疾患を持つ人
糖尿病や慢性閉塞性肺疾患(COPD)、気管支拡張症などの病気がある人は肺の防御機能が低下しており、感染しやすいです。これらの病気を抱える人は特に注意が必要です。
免疫力が低い人
HIV感染者や臓器移植後に免疫抑制薬を使用している人など、免疫機能が弱い人も肺化膿症のリスクが高くなります。
口腔衛生が悪い人
歯周病や虫歯が多いと、口腔内の細菌が増えやすくなり、誤嚥時に肺に細菌が入りやすくなります。
予防の方法
口腔ケア
日々の歯磨きやうがい、定期的な歯科検診によって口の中を清潔に保つことが重要です。口腔内の細菌を減らすことで、誤嚥による肺化膿症のリスクを減らせます。
ワクチン接種
肺炎球菌ワクチンやインフルエンザワクチンを接種することで、肺炎の予防が期待でき、それにより肺化膿症のリスクも軽減されます。特に高齢者や慢性疾患を持つ方は、予防接種を受けることをおすすめします。
嚥下リハビリ
飲み込み機能が低下している方は、専門的な嚥下リハビリを受けることで誤嚥のリスクを減らすことができます。理学療法士や作業療法士の指導を受けることで、嚥下機能を改善し、誤嚥を防ぐ効果があります。
バランスの取れた生活
適度な運動、十分な睡眠、バランスの良い食事を心がけることで、体全体の免疫力を高めることができます。これにより、肺化膿症を含むさまざまな感染症に対する抵抗力が強化されます。