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肺アスペルギルス症
高宮 新之介

監修医師
高宮 新之介(医師)

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昭和大学卒業。大学病院で初期研修を終えた後、外科専攻医として勤務。静岡赤十字病院で消化器・一般外科手術を経験し、外科専門医を取得。昭和大学大学院 生理学講座 生体機能調節学部門を専攻し、脳MRIとQOL研究に従事し学位を取得。昭和大学横浜市北部病院の呼吸器センターで勤務しつつ、週1回地域のクリニックで訪問診療や一般内科診療を行っている。診療科目は一般外科、呼吸器外科、胸部外科、腫瘍外科、緩和ケア科、総合内科、呼吸器内科。日本外科学会専門医。医学博士。がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会修了。JATEC(Japan Advanced Trauma Evaluation and Care)修了。ACLS(Advanced Cardiovascular Life Support)。BLS(Basic Life Support)。

肺アスペルギルス症の概要

肺アスペルギルス症は、アスペルギルス属(空気中に存在する一般的なカビの一種)によって引き起こされる肺の感染症です。
特に、アスペルギルス・フミガータスという種類のカビが原因であることが多く、自然界に広く存在しています。このカビは土壌や腐葉土、建物内の空気中にも見られ、日常生活の中で簡単に吸い込むことができます。多くの人は、アスペルギルスの胞子を吸い込んでも、体の防御機能(免疫システム)が働き、感染を防ぐことができます。
しかし、免疫力が低下している方や既に肺に何らかの疾患を抱えている方は、このカビに感染しやすくなります。免疫力が低下していると、体が外部からの病原菌やウイルス、カビなどに対する防御力を発揮できず、感染しやすくなるのです。例えば、がんの治療中や臓器移植後、または免疫抑制剤(免疫の働きを抑える薬)を長期間服用している方などは特にリスクが高いとされています。
また、過去に肺結核にかかったことがある方や、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの既存の肺疾患を抱えている方も、肺アスペルギルス症にかかるリスクが高まります。COPDは主に長期にわたる喫煙や有害物質の吸入によって起こり、気道が狭くなり呼吸がしにくくなる病気です。

肺アスペルギルス症の原因

肺アスペルギルス症は、空気中に漂うアスペルギルスの胞子を吸い込むことが主な原因です。これらの胞子は、自然界に広く存在しているため、日常生活の中で吸い込むのは避けられません。しかし、健康な人の免疫システムはこのような外部からの侵入者を排除する能力があるため、感染が成立することはほとんどありません。
感染のリスクを高める要因には以下のものがあります。

免疫抑制状態
がん治療中に使用される化学療法(抗がん剤)や臓器移植後に使われる免疫抑制剤によって免疫力が低下すると、体は病原菌への抵抗力を失います。また、HIV感染者も免疫力が低下しているため、肺アスペルギルス症のリスクが高まります。

既存の肺疾患

過去に結核を患ったことがある場合、肺の組織に既に傷跡(瘢痕)が残っているため、アスペルギルスがその部分に侵入して感染を引き起こしやすくなります。さらに、気管支拡張症(気管支が拡張してしまう病気)や、慢性閉塞性肺疾患(COPD)もリスク要因です。これらの病気があると、肺の防御機能が弱くなり、アスペルギルスの感染が容易になります。

環境要因

建設現場や農業作業を行っている場合、カビの胞子が空中に多く舞うため、リスクが高くなります。湿度が高い環境や、埃が溜まりやすい場所もカビの増殖を助長します。
免疫力の低下や肺疾患の有無がリスクを高めるため、予防や早期の対応が重要です。

肺アスペルギルス症の前兆や初期症状について

肺アスペルギルス症の初期症状は、ほかの呼吸器疾患と似ているため見逃されることがありますが、以下のような症状が見られることがあります。

持続的な咳
初期には乾いた咳が多く見られますが、進行すると痰が出るようになり、時には血が混じることもあります。これは、肺に炎症が生じることで気道が刺激されるためです。

発熱
微熱から高熱まで様々です。発熱は体が感染と戦っているサインであり、アスペルギルス症の初期段階で見られることがあります。

呼吸困難
肺に炎症やカビの塊があることで、肺が正常に機能しにくくなり、呼吸が苦しく感じられます。

体重減少と食欲不振
感染が体に負担をかけることで、食欲が低下し体重が減ることがあります。これに伴い、慢性的な疲労感も感じられることが多いです。

胸の痛み
深呼吸や咳をする際に胸が痛むことがあり、これは胸膜炎などの炎症によるものです。

これらの症状は慢性化することが多いため、持続的な症状が続く場合は早めに呼吸器内科などの医療機関を受診することが大切です。特に、既存の肺疾患を持つ方や免疫力が低下している方は、注意深く症状を観察する必要があります。

肺アスペルギルス症の検査・診断

肺アスペルギルス症の診断は、以下のような方法を組み合わせて行います。

画像診断
胸部X線やCTスキャンを使用して、肺に空洞や異常な陰影があるかを確認します。空洞は、カビの感染によって肺の組織が損傷を受けて形成されるもので、これが見られる場合、肺アスペルギルス症の可能性が高いです。

血液検査
血液中のアスペルギルス抗体を調べることで、体がアスペルギルスに対する免疫反応を示しているかを確認します。この検査は非侵襲的で、比較的手軽に行えます。

喀痰検査
患者さんの痰を採取し、その中にアスペルギルスの菌が含まれているかを調べます。これにより、実際に肺の中で感染が起きているかどうかを確認できます。

気管支鏡検査
細いカメラがついた管(気管支鏡)を使って肺の内部を直接観察し、組織を採取して細菌検査や病理検査を行います。これにより、肺の組織が実際にカビに感染しているかを調べることができます。

検査の組み合わせによって、肺アスペルギルス症を診断し、感染の有無や重症度を判断します。

肺アスペルギルス症の治療

治療法は患者さんの状態や感染の重症度によって異なります。一般的な治療法は次のとおりです。

抗真菌薬の投与

肺アスペルギルス症の治療には、アスペルギルスを殺菌または抑制するための薬が使用されます。ボリコナゾールやイトラコナゾールなどが一般的に用いられる抗真菌薬です。これらは錠剤や注射によって投与され、治療期間は数週間から数ヶ月に及ぶことが多いです。治療の効果を確認しながら、必要に応じて投与量を調整します。

手術

抗真菌薬の効果が十分でない場合や、肺の中に大きなアスペルギローマ(カビの塊)が形成されている場合には、手術によって感染部位を除去することが検討されます。手術はリスクを伴うため、全身状態やほかの病気の有無を考慮して決定されます。

免疫力の改善

感染が起こる背景には免疫力の低下があるため、基礎疾患の治療や、適切な栄養摂取や休養を通じて免疫機能を改善することも重要です。栄養状態を改善し、適度な運動を取り入れることで、体全体の抵抗力を高めることが目指されます。

肺アスペルギルス症になりやすい人・予防の方法

肺アスペルギルス症になりやすい人

肺アスペルギルス症になりやすい人は、以下の特徴を持つ人です。
免疫力が低い方
がん治療中や免疫抑制薬を使用している方は特にリスクが高いです。また、HIV感染や高齢など、免疫機能が低下している方も感染しやすくなります。

肺の病気を抱えている方
結核の既往やCOPD、気管支拡張症などの病気を持っている方。

高齢者
加齢により免疫力が低下するため、感染リスクが高くなります。

予防の方法

予防方法は次のとおりです。
環境の管理
カビの多い場所を避け、湿度を適切に管理し、室内を清潔に保つことが重要です。エアコンや加湿器のフィルターは定期的に掃除し、カビの発生を防ぎましょう。

免疫力の維持
栄養バランスの良い食事、適度な運動、十分な睡眠を心がけることで、免疫力を高めることができます。

定期的な健康診断
リスクが高い方は、早期発見のために定期的な健康診断を受けることが推奨されます。特に、肺疾患の既往がある方は注意が必要です。


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