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航空性中耳炎
渡邊 雄介

監修医師
渡邊 雄介(医師)

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1990年、神戸大学医学部卒。専門は音声言語医学、音声外科、音声治療、GERD(胃食道逆流症)、歌手の音声障害。耳鼻咽喉科の中でも特に音声言語医学を専門とする。2012年から現職。国際医療福祉大学医学部教授、山形大学医学部臨床教授も務める。

所属
国際医療福祉大学 教授
山王メディカルセンター副院長
東京ボイスセンターセンター長

航空性中耳炎の概要

航空性中耳炎は、飛行機の離着陸時や急な高度の変化によって、中耳と外耳の気圧差が生じることで起こる耳の病気です。飛行機に乗っていると耳が詰まったり、痛くなったりする経験をしたことがある方も多いかと思いますが、それも航空性中耳炎の軽い症状の一つです。

航空性中耳炎は、繰り返して発症することも多いため、急激な気圧の変化が起こると予想される場合は事前に予防策を講じておくことが大切です。

航空性中耳炎

航空性中耳炎の原因

航空性中耳炎は、気圧の急激な変化が生じた際に、気圧差の調整が上手くいかないことが原因で発症し、主に飛行機の離着陸時に生じます。

耳の仕組みとして、耳管という部分が中耳と鼻をつなぎ、状況に応じて耳管を開いたり閉じたりすることで鼓膜の内側と外側の気圧を一定にしています。しかし、急激な気圧の変化が生じると耳管が閉じたままとなり、気圧差がうまく解消されずに耳に強い圧力がかかります。その結果、耳に痛みや詰まり感、場合によっては聴力の低下が生じるのが航空性中耳炎のメカニズムです。

鼻炎や風邪を引いていると、耳管の働きが悪くなるため重症化しやすいです。また、小さな子どもや耳管が未発達な人、耳管の構造に問題がある人も航空性中耳炎を発症しやすい傾向があります。

航空性中耳炎の前兆や初期症状について

航空性中耳炎の前兆や初期症状は、飛行機の離着陸時や急な高度の変化に伴ってあらわれることが多いです。耳が詰まったような感覚や軽い耳鳴りが起こります。

進行すると耳に強い痛みを感じることがあります。痛みがひどい場合は、耳の中に圧力を感じたり、拍動に合わせた痛みが感じられることもあります。

また、鼓膜に負担がかかると、一時的に聴力が低下したり、音がこもって聞こえることがあります。稀に、鼓膜が破れて耳から液体が出ることもあるため、このような症状がみられた場合は、すぐに医療機関を受診しましょう。

航空性中耳炎の検査・診断

航空性中耳炎の検査は、患者の症状や発症した状況を詳しく聞き取ります。飛行機の離着陸時や気圧変化に関連した耳の痛みや違和感がある場合は、航空性中耳炎の可能性が高いです。

症状や発症の経緯を確認した後は、耳の内部を確認するために耳鏡検査が行われます。耳鏡を使って鼓膜の状態を観察し、炎症や液体のたまり具合、鼓膜の損傷などを確認します。航空性中耳炎の場合、鼓膜が赤くなったり、陰圧で凹んでいたりする状態がみられます。聴力検査を行い、耳の機能に問題がないかも確認します。

また、重症例や症状が長引いている場合には、鼓膜の状態や中耳の圧力を測定する検査である「ティンパノメトリー」を行うこともあります。

航空性中耳炎の治療

航空性中耳炎の治療は、症状の軽重に応じて異なります。軽度の場合は自然に治ることが多く、特に治療を必要としないこともあります。しかし、痛みや聴力の低下が続く場合、症状が悪化している場合は、以下のような治療が行われます。

その場でできる治療方法

軽症の場合は、ガムを噛む、あくびをする、つばを飲み込むといったことで、鼓膜内の圧力を改善できる場合があります。また、耳抜きも有効です。ただし、耳に負担をかける可能性があるため、注意して行いましょう。

薬物療法

症状が軽い場合でも、耳の痛みや違和感がある場合には、鎮痛薬が処方されることが一般的です。市販の鎮痛薬でも効果が期待でき、痛みを和らげるのに役立ちます。また、炎症がひどい場合や耳管の閉塞が疑われる場合は、抗生剤が処方される場合があります。

鼻炎や風邪の治療

航空性中耳炎は、風邪や鼻炎による鼻詰まりが原因で引き起こされやすいです。そのため、根本的な原因である鼻詰まりや風邪の治療が必要です。アレルギー性鼻炎や風邪の症状がある場合は、抗ヒスタミン薬や抗生剤を服用することで、耳管の機能を取り戻し、航空性中耳炎の改善が期待できます。また、飛行機に乗る前に服用しておくことで、発症の予防にもつながります。

鼓膜形成術

航空性中耳炎が悪化し、鼓膜に損傷が生じた場合には、穴を塞いで鼓膜を回復させる鼓膜形成術を行う場合があります。軽い損傷であれば自然に治ることが多いですが、損傷がひどい場合や治癒が遅れている場合には外科的な処置が必要です。

鼓膜チューブ挿入術や鼓膜切開術

中耳で炎症が続き、液体がたまっている場合、鼓膜チューブの挿入や鼓膜の切開を行う場合があります。中耳内の液体を排出して圧力を調整するために行われます。いずれも局所麻酔下で行われ、比較的安全かつ短時間で済むうえ、重症例でも早い回復が期待できます。

航空性中耳炎になりやすい人・予防の方法

風邪やアレルギーによる鼻づまりがある人は、耳管が詰まり、内耳の気圧調整が難しくなるため、航空性中耳炎を発症しやすいです。

また、同様の理由から副鼻腔炎や耳管機能不全を抱えている人もリスクが高くなります。特に小さな子どもは、耳管が大人に比べて短く未発達なため、気圧の変化に対する調整が難しく、航空性中耳炎になりやすい傾向があります。さらに、高齢者も耳管の機能が弱まっているため、同じように発症リスクが高まります。

航空性中耳炎の予防として、飛行機の離着陸時にガムを噛む、あくびをする、飲み物を飲む、耳抜きといった耳管を開く動作を行うことで、内耳の圧力を調整しやすくなり、航空性中耳炎の発症を防ぐことができます。耳抜きをする場合は、改善されないにもかかわらず無理に実施すると、鼓膜を傷つけるため注意しましょう。

また、鼻づまりがある場合は、事前に鼻スプレーを使用して鼻の通りを良くしておくのも有効です。鼻づまりがあると耳管が詰まりやすくなるため、風邪やアレルギーの症状があるときは、飛行機に乗る前に鼻をすっきりさせておくとよいです。さらに、飛行機専用の耳栓を使用することで、気圧の変化を緩やかにして、鼓膜への圧力を軽減することができます。

もし過去に航空性中耳炎を経験したことがある場合や、頻繁に耳のトラブルがある場合は、飛行機に乗る前に耳鼻咽喉科の医師に相談するのも一つの手です。必要に応じて予防的な薬を処方してもらったり、適切なアドバイスを受け、航空性中耳炎の発症を予防しましょう。


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