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特発性肺線維症
高宮 新之介

監修医師
高宮 新之介(医師)

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昭和大学卒業。大学病院で初期研修を終えた後、外科専攻医として勤務。静岡赤十字病院で消化器・一般外科手術を経験し、外科専門医を取得。昭和大学大学院 生理学講座 生体機能調節学部門を専攻し、脳MRIとQOL研究に従事し学位を取得。昭和大学横浜市北部病院の呼吸器センターで勤務しつつ、週1回地域のクリニックで訪問診療や一般内科診療を行っている。診療科目は一般外科、呼吸器外科、胸部外科、腫瘍外科、緩和ケア科、総合内科、呼吸器内科。日本外科学会専門医。医学博士。がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会修了。JATEC(Japan Advanced Trauma Evaluation and Care)修了。ACLS(Advanced Cardiovascular Life Support)。BLS(Basic Life Support)。

特発性肺線維症の概要

特発性肺線維症(IPF: Idiopathic Pulmonary Fibrosis)は、原因不明の肺の線維化を特徴とする進行性の病気です。肺が硬くなり、酸素を取り込む能力が低下するため、呼吸が次第に困難になります。この病気は、主に50歳以上の男性に多く発症し、進行すると呼吸不全に至り、命に関わることもあります。
「特発性」とは、原因がわからないという意味で、ほかの肺疾患(例えば、自己免疫疾患や感染症)が原因でない場合にこの診断が下されます。また「肺線維症」は、肺の組織が正常な柔軟性を失い、硬くなる状態を指します。IPFは、間質性肺炎の一種であり、その中でも特に重症で治療が難しい病気とされています。特発性肺線維症は、慢性的に進行するため、治療しても症状が完全に治まることはなく、病気が進行することで患者さんの生活の質(QOL)に大きな影響を与えることが多いです。

特発性肺線維症の原因

特発性肺線維症は、名前の通り「特発性」、つまり原因が不明であることが特徴です。ただし、いくつかのリスク要因が特定されており、これらが発症に関与している可能性が示唆されています。
加齢
IPFは50歳以上の高齢者に多く見られ、年齢が上がるにつれて発症リスクが高まります。
性別
男性に多く発症しますが、女性にも発症することがあります。
喫煙
喫煙歴がある人は特発性肺線維症を発症するリスクが高いとされています。タバコの有害物質が肺に炎症を引き起こし、それが慢性的に続くと肺が線維化する可能性があると考えられます。
職業的曝露
鉱物粉塵や有害な化学物質に長期間曝露された職業(例:鉱山労働者や工場勤務者)の人は、IPFのリスクが高まります。特に、アスベストやシリカなどの粉塵は肺に深刻なダメージを与えることがあります。
遺伝要因
特定の遺伝的要因が関与しているケースも報告されています。家族に特発性肺線維症の患者さんがいる場合、遺伝的要因がリスクを高めることがあります。
ウイルス感染
いくつかのウイルス感染、特にヘルペスウイルスなどがIPFの発症に関与している可能性が研究されていますが、明確な因果関係はまだ確立されていません。

特発性肺線維症の前兆や初期症状について

特発性肺線維症の初期症状は、一般的な呼吸器疾患と似ており、風邪や喘息と誤解されることがあります。以下に、主な初期症状を示します。
息切れ(呼吸困難)
IPFの最も特徴的な症状です。初期には運動時(例えば階段を上る時や軽い運動をする時)に息切れが目立ちますが、病気が進行すると安静時にも息切れが見られるようになります。
乾いた咳
しつこい乾いた咳が特発性肺線維症の典型的な初期症状です。感染症によるものではなく、数週間から数ヶ月間続くことが多いです。
全身の疲労感
体が酸素を十分に取り込めなくなるため、全身の疲労感や倦怠感が現れます。これは病気の進行とともに顕著になり、日常生活に大きな影響を与えます。
体重減少
進行性の病気に伴い、体重減少が見られることがあります。これは病気の進行とともに体力が低下し、食欲不振を引き起こすためです。
指のばち指
一部の患者では、指の先が丸く膨らむ「ばち指」が見られることがあります。これは肺の酸素供給不足が長期間続いた結果、指先の血流が変化するために起こる現象です。

これらの症状が現れた場合、間質性肺炎などの肺の疾患の可能性を疑い、早期に医師に相談することが重要です。特に持続する息切れや乾いた咳には注意が必要です。専門としては呼吸器内科です。

特発性肺線維症の検査・診断

特発性肺線維症の診断は、症状の把握に加えて、詳細な検査が必要です。以下の検査が一般的に行われます。

胸部X線

基本的な診断方法として胸部X線が行われます。特発性肺線維症では、肺の組織が硬化し、胸部X線でその異常が確認できる場合があります。ただし、初期段階では明確な変化が見られないこともあります。

高分解能CT(HRCT)

より正確な診断には高分解能CTが用いられます。HRCTでは、特発性肺線維症特有の「蜂巣肺」(肺の組織が小さな空洞を作り、蜂の巣のように見える状態)が確認されます。CTスキャンは診断に有用であり、病気の進行度も評価できます。

肺機能検査

肺がどれだけ正常に機能しているかを評価するために、肺機能検査が行われます。特に、努力肺活量(FVC)や肺拡散能(DLCO)を測定することが一般的です。これにより、肺の機能がどの程度低下しているかがわかります。

血液検査

自己免疫疾患や感染症を除外するために血液検査が行われます。特に、膠原病などほかの原因がないかを確認するために特定の自己抗体を調べることがあります。またKL-6やSP-Dなどの線維化の程度を評価するマーカーも調べます。

気管支鏡検査・肺生検

必要に応じて、気管支鏡を使って肺の内部から組織を採取し、病理学的に分析します。これにより、ほかの病気との鑑別が行われます。

これらの検査結果を総合的に判断し、特発性肺線維症と診断されます。早期診断は、病気の進行を遅らせるために重要です。

特発性肺線維症の治療

特発性肺線維症の治療は、病気の進行を抑え、症状を管理することが主な目的です。治療法には以下のようなものがあります。

抗線維化薬

ピルフェニドンやニンテダニブといった抗線維化薬が、特発性肺線維症の治療に使用されます。これらの薬は肺の線維化の進行を遅らせ、急性増悪を減少させる効果があります。これにより、患者さんのQOLを改善することが期待されます。

酸素療法

呼吸困難が進行すると、酸素療法が必要になります。酸素吸入により、体内に十分な酸素を供給し、息切れや疲労感を軽減します。

リハビリテーション

呼吸器リハビリテーションは、呼吸機能を改善し、生活の質を向上させるための重要な治療法です。専門家の指導のもと、運動療法や呼吸法を取り入れ、症状の管理を図ります。

肺移植

特発性肺線維症の進行が早く、ほかの治療法が効果を示さない場合、肺移植が検討されることがあります。適応となる患者さんは限られますが、成功すれば長期的な生存が期待されます。

特発性肺線維症の治療は、早期の診断と適切な治療が重要です。

特発性肺線維症になりやすい人・予防の方法

特発性肺線維症の発症リスクを高める要因は複数あります。
高齢者
特発性肺線維症は主に高齢者に発症します。50歳以上の人は、定期的な健康診断で肺の健康状態を確認することが大切です。

喫煙者
喫煙はIPFのリスクを高める要因として知られています。禁煙を心がけることで、肺へのダメージを減らし、ほかの呼吸器疾患の予防にもつながります。
有害物質への曝露
職業的に有害な化学物質や粉塵に長期間さらされることも、特発性肺線維症のリスクを高めます。職場での防護具の使用や、作業環境の改善は、リスクを軽減する手段となります。
自己免疫疾患
膠原病などの自己免疫疾患を持つ人は、特発性肺線維症を発症するリスクが高くなります。自己免疫疾患の早期診断と適切な治療は、肺の健康を守るためにも重要です。
感染症の予防
肺炎やインフルエンザなどの呼吸器感染症が特発性肺線維症を悪化させることがあるため、予防接種を受けることが推奨されます。

特発性肺線維症の根本的な予防法は存在しませんが、リスク要因に対処することで、発症のリスクを下げることが期待されます。健康的な生活習慣を心がけ、定期的に医師の診察を受けることが重要です。


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