監修医師:
大坂 貴史(医師)
肺動脈性肺高血圧症の概要
肺動脈性肺高血圧症は、肺高血圧症の5つの分類のうち、心臓から肺へ血流を送り出す肺動脈に異常があり、肺動脈の血圧が高くなってしまう病気です (参考文献 1) 。日本には2020年時点で 4,230人の患者さんがいるとされています (参考文献 2) 。中年の女性の患者さんが多いことが知られていますが、近年では高齢者や男性でも肺動脈性肺高血圧症と診断される方が増えてきています (参考文献 2) 。
症状は非特異的な心不全症状がメインで、エコー検査やカテーテル検査で他の種類の肺高血圧症や心疾患を除外することで診断されます (参考文献 3) 。
治療は薬物療法が中心となりますが、適切な治療をもってしても病態が進行してしまう場合には心臓の手術や肺移植が必要になる場合があります (参考文献 4) 。
肺動脈性肺高血圧症の原因
血液の酸素化をするために、全身から心臓に戻った血液は肺へ送られて酸素を受けとりますが、この心臓から肺へ血液を送る動脈を肺動脈といいます。この肺動脈の圧力が高くなってしまう病気を「肺高血圧症」といいます。
肺動脈症には様々な原因があります。肺動脈が原因となる肺動脈性肺高血圧症のほか、肺から心臓へ戻ったあとの部屋である左心房の病気が原因となるもの、肺自体の疾患が原因となるもの、肺動脈性が詰まることが原因となるもの、全身疾患が原因となるものがあります (参考文献 1) 。
2020年の調査では、日本において肺動脈性肺高血圧症と診断されている方は4,230人いるとされています (参考文献 2) 。
以前は原発性肺高血圧症と呼ばれていた特発性・遺伝性のものの他に、薬剤性、膠原病、HIV感染、先天性心疾患などが、肺動脈性肺高血圧症の原因として知られています (参考文献 1) 。
細かな肺動脈の血管が収縮、肥大化、線維化、詰まってしまうことが肺動脈の圧力を上げてしまうのではないかと言われていますが (参考文献 1) 、十分に解明されていない部分も多いです。
肺動脈性肺高血圧症の前兆や初期症状について
「この症状があるから肺高血圧症だ!」というようなことは言えませんが、肺高血圧症の患者さんでは初期症状として次のようなものがあることが知られています (参考文献 3) 。
- 息苦しさや疲労感
階段を昇ったりしたときの呼吸困難感が現れたり、疲労感が残りやすくなったりします。進行すると歩いただけで症状が出てきます。 - 動いたときの胸痛・失神
- 身体が浮腫む、体重が増える
- 食欲不信
- 腹部の痛みや腫れ
これらの症状は心臓がうまくポンプ機能を発揮できなくなることによる症状、医学的にいえば心不全症状です。心不全の症状が出るのは肺高血圧症だけではなくて、有名なものだと心臓弁膜症や心筋疾患も原因になり得ます。これらの症状が出れば早く原因を確かめて治療を開始することが重要なので、当てはまることがあれば近くの内科を受診してください。
肺動脈性肺高血圧症の検査・診断
肺高血圧症は種類によって治療方針が異なってきます。
「肺動脈性」肺高血圧症と診断するには全身疾患の有無や心機能の詳細な評価が重要になるのです。
肺高血圧症が疑われる場合には、まずは心エコー検査をします。
エコー検査では心臓の弁の付近で血液の逆流がないか、肺に血液を送る右心室の大きさや壁の厚さに異常がないか、壁の動きに異常はないかといったことを調べます (参考文献 3) 。
他にも心電図検査 (心筋疾患などで所見が得られる場合があります) や画像検査は身体への負担が少ないので早い段階でやります (参考文献 3) 。
他の検査方法としては、心臓にカテーテルを入れて直接肺動脈の圧力や、心機能の詳細な評価をすることもあります (参考文献 3) 。
ここまでの検査で肺高血圧症があり、その中でも原因が肺動脈自体にあると分かれば肺動脈性肺高血圧症と診断されます。
肺動脈性肺高血圧症の治療
肺動脈性肺高血圧症の治療は薬物療法が中心になります。
何種類かある治療薬のどれを使えばいいか確認するために、治療開始前に「血管反応性試験」という検査を行います (参考文献 4) 。
薬物療法でも疾患のコントロールが難しい場合には、心臓の手術や肺移植が検討されます (参考文献 4) 。
肺動脈性肺高血圧症になりやすい人・予防の方法
世界中をみれば肺動脈性肺高血圧症の最も大きなリスクは血液内に寄生する寄生虫 (住血吸虫) ですが (参考文献 1) 、日本では一般的ではありません。日本のような地域では半数は原因が分からない特発性、最大10%程度が遺伝性とされています (参考文献 1) 。
2020年で4,000人程度の肺高血圧症のうち、遺伝性の肺動脈性肺高血圧症は10分の1程度なので、遺伝性の肺高血圧症はかなり稀な病態です。はっきりとしたことは言えませんが、もし血の繋がっている親族に原因のはっきり分かっていない肺高血圧症の患者さんがいれば、一般集団に比べれば発症確率は高いと言えるかもしれません。
中年の女性に多い疾患として知られてきましたが、近年の日本の調査では高齢者や男性でも診断される方が増えてきていることが確認されています (参考文献 2) 。2015年から2018年までの3年間で新しく診断された人の構成を確認すると、60歳代までは女性が多いですが、それより高齢の年代では男女比はおおよそ1:1です (参考文献 2) 。
症状の項で紹介したような心不全症状が現れた時には、放置しないで直ぐに病因へ行き、適切な診断・治療にたどり着くことが重症化予防になるといえるでしょう。
参考文献
- 1.UpToDate. The epidemiology and pathogenesis of pulmonary arterial hypertension (Group 1). Apr 04, 2024.
- 2.難病情報センター. 肺動脈性肺高血圧症 (最終閲覧: 2024.09.24)
- 3.UpToDate. Clinical features and diagnosis of pulmonary hypertension of unclear etiology in adults. Jul 29, 2024.
- 4.UpToDate. Treatment of pulmonary arterial hypertension (group 1) in adults: Pulmonary hypertension-specific therapy. Sep 11, 2024.