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ジフテリア
水戸 陽貴

監修医師
水戸 陽貴(中通総合病院)

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旭川医科大学卒業 。現在は中通総合病院内科科長。専門は感染症科、総合内科。

ジフテリアの概要

ジフテリアは、ジフテリア毒素を産生する細菌により引き起こされる感染症です。

感染症法では二類感染症に分類されており、感染の危険性が高いものとされています。

ジフテリアの毒素は強力で、適切な治療を受けた場合でも致死率は5〜10%、5歳以下と40歳以上では20%以上といわれています。
(出典:日本細菌学会「ジフテリア菌」

戦後まもなくはジフテリアの届出数が8万人を越えていましたが、ワクチン接種が進むにつれて感染者が徐々に減少し、1999年以降は日本国内でジフテリアにかかった人がいないことがわかっています。

感染経路は主に飛沫感染で、ほかにも病変した皮膚や病変部からの分泌物との接触で感染することがあります。

ジフテリアは、症状が発生する部位により「呼吸器ジフテリア」と「皮膚ジフテリア」に大別されます。

呼吸器ジフテリアの特徴は、発熱や喉の痛みなどの症状のほか、咽頭や喉頭、鼻などの粘膜に厚い灰白色の偽膜(ぎまく)が形成されることです。

偽膜が大きくなると気道が塞がり、呼吸困難になる危険性があります。

ジフテリアの毒素が血流に乗って心臓や腎臓、末梢神経にまで運ばれ、重篤な合併症を引き起こす可能性もあります。

皮膚ジフテリアは、うろこ状の発疹や境界線が明確な潰瘍などが形成されますが、呼吸器ジフテリアよりも特徴的な症状が少ないです。

ジフテリアはワクチンによる対策が有効で、日本では定期ワクチンとして生後3か月からワクチンを投与しています。

ワクチン接種率が高い国ではめずらしい病気になりましたが、経済的に困窮している国や政治的混乱が起きている国では、今でも発生しているのが現状です。

ジフテリア

ジフテリアの原因

ジフテリアの原因は、コリネバクテリウム・ジフテリアエという細菌です。

この細菌は主に上気道に感染し、感染者の咳やくしゃみなどの飛沫を通じて人から人へと伝播します。

皮膚の傷口や傷口からの分泌物を介して感染することもあります。

ジフテリア菌が体内に侵入すると、主に上気道の粘膜に感染して灰白色の偽膜を形成します。

偽膜内の菌は68℃でも1時間は生存できる強さがあり、唾液や水中などでは数日〜10数日のあいだ感染力を保つとされています。

また、ジフテリアの毒素は血液循環により全身に広がり、心臓や神経系といった重要な臓器にダメージを与える危険性があります。
(出典:日本細菌学会「ジフテリア菌」

ジフテリアの前兆や初期症状について

ジフテリアは感染後2〜5日程度で症状が現れることが多く、場合によっては10日ほどかかります。

呼吸器ジフテリアに感染すると、以下のような症状が出現します。

  • 発熱
  • 喉の痛み
  • 頸部リンパ節腫脹
  • 嚥下困難(飲み込みにくさ)
  • 倦怠感(体のだるさ)
  • 嗄声(声のかすれ)

そのほかの特徴的な症状は、扁桃や咽頭、喉頭や鼻の粘膜に灰白色の厚い偽膜が形成されることです。

偽膜の形成が進むと気道が塞がり、呼吸困難に陥る危険があります。

ジフテリアの毒素によるダメージが心臓や腎臓、末梢神経にまで及ぶと、心筋炎や神経炎といった重篤な合併症を引き起こすリスクもあります。

一方で皮膚ジフテリアは、皮膚にうろこ状の発疹ができたり、境界が明瞭な潰瘍ができたりします。

呼吸器ジフテリアと比較して、重篤な合併症は出にくい傾向があります。

ジフテリアの検査・診断

ジフテリアの検査や診断をおこなうにあたり、以下の内容を問診で確認します。

  • 症状の経過
  • ジフテリアのワクチン歴
  • ジフテリアが流行している地域への渡航歴
  • ジフテリア感染者との接触の有無

問診に加えて、頸部リンパ節の腫脹や偽膜形成の観察と細菌の培養検査をおこないます。

培養検査は患者の喉や鼻から採取した検体を使用し、ジフテリア菌が認められるか調べます。

場合によってはPCR検査もおこなうこともあります。

ジフテリアの検査は感染した人だけでなく、周囲への感染予防のために濃厚接触者も受けなければなりません。

ジフテリアの治療

ジフテリアの治療では、主に以下をおこないます。

  • 抗毒素の投与
  • 抗菌薬治療の投与

またジフテリアは一度罹患しても免疫を獲得できるわけではないため、治療後は、再発予防のためにワクチンの接種が推奨されます。

抗毒素の投与

ジフテリアの主な治療法は抗毒素の投与で、ジフテリア菌が産生する毒素を中和する効果が期待できます。

呼吸器ジフテリアの可能性が高い場合、確定診断される前に投与することもあります。

ただし、重篤な副作用反応が出ることもあるため、使用する際には十分に注意しなければなりません。

抗菌薬の投与

ジフテリア菌を体内から排除するために、ペニシリンやエリスロマイシンなどの抗菌薬を投与します。

感染者の重症度や薬剤に対する感受性試験の結果に応じて、使用する抗菌薬を変更することもあります。

ジフテリアになりやすい人・予防の方法

ジフテリアになりやすい人は、以下のような人です。

  • ワクチンを受けていない
  • ワクチンの効果が低下している
  • ジフテリアが流行している地域に住んでいる、または渡航する

ジフテリアのワクチンを受けていない人は、感染リスクが高いです。

特に小さな子どもは重症化のリスクが高いため、ワクチンは欠かせません。

またジフテリアのワクチンを受けていても、時間の経過とともに効果が低下することがあります。

最後の接種から10年以上経過している人は、追加接種を検討しましょう。

ジフテリアが流行している国や地域に住んでいる人、あるいはそのような地域に訪れる人は感染のリスクが高いです。

ジフテリアの予防の方法

ジフテリアの予防のためには以下のことを心がけましょう。

  • 定期ワクチンを受ける
  • 追加のワクチンを受ける
  • 渡航先のジフテリアの流行状況を確認する
  • 感染者との接触を回避する

定期ワクチンを受ける

ジフテリアの効果的な予防方法は、ワクチンを接種することです。

2024年4月以降、日本では5種混合ワクチン(ジフテリア・百日咳・破傷風・不活化ポリオ・ヘモフィルスインフルエンザ菌b型)の接種が受けられます。

第1期と第2期に分かれており、第1期は初回接種3回、追加接種1回の計4回で、第2期は11〜12歳の期間に1回接種します。

追加のワクチンを受ける

成人の場合、最後の接種から10年以上経過している場合は、追加接種を検討しましょう。

特にジフテリアが流行している地域へ渡航する予定がある場合は受けた方がよいです。

渡航先のジフテリアの流行状況を確認する

海外へ渡航する際は、渡航先のジフテリアの流行状況を確認し、必要に応じて渡航前にワクチンを受けましょう。

ワクチンを受けた場合でも、マスクの着用や手洗いなどの感染対策は必要です。

感染者との接触を回避する

ジフテリアと診断された人との接触は避けましょう。

感染者と接触した可能性がある場合は早急に医療機関へ相談し、指示に従って検査を受けましょう。


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