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上顎洞炎
木下 裕貴

監修歯科医師
木下 裕貴(歯科医師)

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北海道大学歯学部卒業。同大学病院にて研修医修了。札幌市内の歯科医院にて副院長・院長を経験。2023年より道内の医療法人の副理事長へ就任。専門はマウスピース矯正だが、一般歯科から歯列矯正・インプラントまで幅広い診療科目に対応できることが強み。『日本床矯正研究会』会員であり小児の矯正にも積極的に取り組んでいる。

上顎洞炎の概要

上顎洞(じょうがくどう)は、顔の中央部分にある鼻腔の外下方に位置するピラミッド型の空洞です。
鼻の中とつながっており、頭の重さを軽くしたり、吸い込む空気を適切な温度と湿度に調整して、声を響かせるのを助ける役割があります。
この上顎洞に炎症が起こったものが、上顎洞炎です。

上顎洞は副鼻腔に存在しているため副鼻腔炎や蓄膿症とも呼ばれています。
症状は鼻が詰まったり、粘り気のある悪臭のする鼻水が出たりします。
また頬や鼻の周りの痛みや腫れが生じることもあります。

上顎洞炎

上顎洞炎の原因

上顎洞炎の原因は風邪や鼻の構造の問題、アレルギー性鼻炎、歯のトラブルなどです。

風邪やインフルエンザにかかったときなどは、鼻の中にウイルスや細菌が入ることで上顎洞に炎症が起きて生じます。
鼻の構造的な問題やアレルギー性鼻炎では分泌物が副鼻腔の出口をふさぎ、換気や排泄がうまくいかなくなって上顎洞の炎症を悪化させることがあります。

歯のトラブルによって上顎洞に菌が侵入して炎症が起こったものは、歯性上顎洞炎と呼ばれ、虫歯や歯周病、歯の外科的な処置などが原因となりやすいです。

上顎洞炎の前兆や初期症状について

上顎洞炎の初期症状は鼻詰まりや黄色い鼻水、痛みなどですが、症状が現れないこともあります。

上顎洞の炎症が悪化した場合、粘膜が腫れたり、膿が溜まったりすることにより鼻が詰まり、鼻呼吸が上手くできず息苦しさを感じる可能性があります。鼻が詰まることで嗅覚も低下し、食べ物の匂いや味がわからなくなることがあります。

頭痛や眼の下の痛み、頭重感、発熱も上顎洞炎が進行したときの症状です。膿が溜まることによって、鼻水は粘度のある黄色いものに変わり、さらに進行すると緑色になることもあります。鼻汁がくさいと感じたり、口臭が気になることもあるでしょう。
ネバネバした鼻水が喉に垂れてしまう場合、声が出にくくなったり、咳が出て夜眠りにくくなる原因にもなります。

上顎洞炎の検査・診断

上顎洞炎の診断には、前鼻鏡検査や鼻腔内視鏡検査、画像検査などが必要です。
これらの検査を行い、鼻の粘膜の炎症や鼻水や膿瘍の状態、鼻ポリープの有無などを確認することで、より正確な診断が可能になります。

前鼻鏡検査

前鼻鏡検査では前鼻鏡という器具を用いて肉眼で鼻内を観察します。
上顎洞炎では、鼻の粘膜がむくんで腫れることが多く、10〜20%の方に鼻ポリープが見られます。
初期や軽症の場合、前鼻鏡検査だけでは小さな鼻ポリープを見つけるのが難しいため、内視鏡を使って観察することが必要です。

鼻腔内視鏡検査

鼻腔内視鏡検査では、ファイバースコープという細長いカメラを使用して鼻腔内を詳細に観察します。
ファイバースコープによって鼻汁の状態や鼻ポリープの有無を確認することで、より正確な診断が可能です。

画像検査

一般的に単純X線検査が行われますが、慢性上顎洞炎の診断をしたり手術の適応を判断するためには、膿が溜まっている部分がグレーや白に写るCT検査が行われます。
嚢胞性の疾患や腫瘍との鑑別をおこなうときはMRI検査を行います。

その他の検査

その他の検査は鼻汁の塗抹検査、鼻詰まりを調べる鼻腔通気度検査、実際の匂いを嗅いで嗅覚障害を評価する嗅覚検査、粘液線毛機能検査などがあります。
これらの検査結果を基に、慢性上顎洞炎の原因や病態、重症度を評価します。

上顎洞炎の治療

上顎洞炎の治療には、薬物療法や局所療法、手術療法の3つがあります。
急性期または慢性期、原因によって治療法が異なります。

薬物療法

急性上顎洞炎の場合は1週間程度抗菌薬を使用するほか、痰を出しやすくする薬やアレルギーを抑える薬、ステロイドの点鼻薬などを併用することもあります。
慢性上顎洞炎の場合は、急に症状が悪化しない限り強い抗生物質は必要なく、抗菌薬を通常の半分の量で3か月程度長期間服用する方法(マクロライド少量長期投与)が選択されます。

単独での効果ははっきりしていませんが、鼻の粘液を調整する薬や溶かす薬が使われることがあります。
嗅覚障害がある場合は、ステロイド薬の点鼻や経口投与が有効とされています。

局所療法

局所療法では副鼻腔洗浄やネブライザー療法によって鼻の中を洗浄して、通り道を広げる処置を行います。
急性期の重症例や慢性上顎洞炎の急性増悪時では、鼻の中から針を刺して上顎洞の洗浄や薬剤の投与を行う上顎洞穿刺・洗浄が有効です。
ネブライザー療法は急性上顎洞炎に対して有効ですが、慢性上顎洞炎に対する効果ははっきりしていません。

手術療法

薬物療法や局所療法で効果がない場合や、鼻の中に大きなポリープがある場合、歯性上顎洞炎が起きている場合は手術療法の対象になります。

手術では内視鏡を利用しながら、鼻の中のポリープを取り除いたり、副鼻腔内の病的な粘膜を切除した後に、副鼻腔を広く開放し溜まっている膿を排出させます。

手術と同時に、鼻中隔の弯曲を矯正し、鼻づまりを改善することもあります。

手術後は自宅で内服薬や点鼻薬の投与や鼻洗浄を行いながら、定期的に通院して鼻の処置を受けます。

上顎洞炎になりやすい人・予防の方法

上顎洞炎になりやすい要因として、喘息や慢性気管支炎の既往歴や、高年齢、肥満、喫煙歴などがあります。
気管の炎症と上顎洞炎は関連しているため、喘息や慢性気管支炎の既往がある方は注意しましょう。
喫煙は鼻や喉の粘膜を傷つけてあらゆるウイルスや細菌が感染しやすくなります。鼻や喉の健康を保つためには、喫煙を控えてください。

アレルギー性鼻炎や風邪を頻繁に引く方は、炎症が副鼻腔に広がり上顎洞炎を引き起こすことがあります。
バランスの取れた食事や十分な睡眠、適度な運動を心がけて免疫力を高めましょう。

虫歯や歯周病が進行すると細菌が上顎洞に入り込みやすくなり、歯性上顎洞炎の原因となります。
予防には定期的な歯科検診を受け、虫歯や歯周病の早期発見と早期治療が重要です。


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