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聴覚障害
渡邊 雄介

監修医師
渡邊 雄介(医師)

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1990年、神戸大学医学部卒。専門は音声言語医学、音声外科、音声治療、GERD(胃食道逆流症)、歌手の音声障害。耳鼻咽喉科の中でも特に音声言語医学を専門とする。2012年から現職。国際医療福祉大学医学部教授、山形大学医学部臨床教授も務める。

所属
国際医療福祉大学 教授
山王メディカルセンター副院長
東京ボイスセンターセンター長

聴覚障害の概要

聴覚障害は耳の構造に障害が起きることで、周囲の話し声や音がほとんど聞こえなかったり、聞こえにくくなる状態です。
生まれつき耳の聞こえが悪い先天的な聴覚障害と、病気や老化などにより耳の聞こえが悪くなる後天的な聴覚障害があります。

症状の程度は軽度から重度までさまざまで、生活の質に大きな影響を与える可能性があります。

耳の構造には外耳、中耳、内耳、蝸牛神経などがあり、障害された部位に応じて伝音難聴、感音難聴、混合難聴の3つにわかれます。

伝音難聴

伝音難聴は耳の構造の外側にある外耳や中耳の機能が障害されて起こる難聴です。
外耳や中耳は外から入ってきた音を集めて大きくする役割があるため、伝音難聴では小さな音が聞こえにくくなります。
伝音難聴の症状は聞こえにくくなるほかにも、耳鳴りや耳のつまり感、音のこもり、両耳の聴覚差などがあります。
外耳道炎や急性中耳炎などの病気が原因で発症している場合は、耳の入り口や奥から痛みや耳だれがでることもあります。

感音難聴

感音難聴は、外耳や中耳よりも内側にある内耳や蝸牛神経が障害されて起こる難聴です。
中耳から受け継いだ音の信号をキャッチできず、脳に伝えられなくなるため、高音域の音が聞こえにくくなったり、特定の音や話し声が聞き分けられなくなります。
耳鳴りや耳のつまり感などの聴覚の症状のほか、突発性難聴などで内耳の三半規管まで問題が起きている場合は、めまいや吐き気も生じる可能性があります。

混合難聴

混合難聴は伝音難聴と感音難聴が同時に存在している状態です。
症状は軽いものから重度まで及び、伝音難聴か感音難聴のどちらの症状が強いかは個人によって大きく異なります。

聴覚障害

聴覚障害の原因

聴覚障害の原因は伝音難聴、感音難聴、混合難聴の3つでそれぞれ異なります。

伝音難聴の原因

伝音難聴の原因は外耳道炎や急性中耳炎、滲出性中耳炎、鼓膜穿孔(こまくせんこう)、耳硬化症などの外耳や中耳の病気です。
外耳に耳あかが過剰にたまっている状態も伝音難聴につながる可能性があります。

感音難聴の原因

感音難聴は突発性難聴や騒音性難聴などの内耳の病気、老化、薬剤の副作用などが原因です。
妊娠中にサイトメガロウイルス感染症や風疹などに感染することで、生まれてくる赤ちゃんが先天的に感音難聴になることもあります。

混合難聴の原因

混合難聴は伝音難聴と感音難聴の原因が同時に起こるほかに、老化による内耳の機能低下が原因となることも多いです。
耳の老化が起こると内耳のなかにある有毛細胞の数が減り、音を感知する能力が落ちて情報を上手く脳に送られなくなります。
老化による聴力の衰えは40代から少しずつ開始し、75歳以上になると約半数の人が難聴に悩むことがわかっています。

聴覚障害の前兆や初期症状について

聴覚障害の前兆や初期症状は、原因となる病気によって異なります。
外耳炎や急性中耳炎、滲出性中耳炎の場合は、聞こえづらさより先に耳の痛みや耳だれなどの症状から始まるケースが多いです。
症状の進行とともに小さな音が聞こえにくくなったり、大きな音が小さく聞こえるようになります。

鼓膜穿孔や耳硬化症、騒音性難聴の場合は、ほかの症状とともに片耳(もしくは両耳)の聞こえづらさや耳鳴りから始まり、徐々に進行します。
突発性難聴では前触れもなく突然耳が聞こえなくなります。

聴覚障害の検査・診断

聴覚障害が疑われる場合は純音聴力検査をして難聴の種類を想定した後に、ティンパノグラムや耳小骨反射検査、語音聴力検査をおこないます。
検査の応答が難しい新生児や乳幼児などには聴性脳幹反応検査が選択されます。

純音聴力検査

純音聴力検査では防音室でヘッドホンを装着し、125〜8,000Hzの異なる周波数(音の高さ)の音を聞いてもらい、それぞれの周波数で聞こえる最小の音の程度を調べます。
伝音難聴ではどの周波数でも小さい音が聞こえにくくなり、感音難聴では高い周波数の音で特に聞こえにくくなります。

ティンパノグラム・耳小骨反射検査

純音聴力検査で伝音難聴が疑われた場合は、ティンパノグラムと耳小骨反射検査によって中耳にある鼓膜や耳小骨の状態を確かめます。
ティンパノグラムは、専用の耳栓から鼓膜に向けて発した空気圧がはね返る程度を測定する検査です。急性中耳炎や鼓膜穿孔などの病気では、基準値よりも空気圧が低くなります。
耳小骨反射検査はヘッドホンで音を聞いたときの耳小骨の反応を確かめる検査で、中耳の機能が落ちている場合は、大きな音に対して耳小骨の収縮が見られなくなることがあります。

語音聴力検査

語音聴力検査は言語音の聞き取りや聞き分けの能力を測定する検査で、感音難聴が疑われた場合に利用します。
単語や文章に対してどの程度の大きさで何%聞き取れるか調べ、実際の会話における聞こえの状況を把握します。
感音難聴が起きている場合は、言語音を聞き取れる割合が低下します。

聴性脳幹反応検査

聴性脳幹反応検査は音刺激に対する脳幹の電気的反応を測定する検査です。
主に新生児や乳幼児、意識のない患者の聴力を測定するときに使用します。
現在は出産後3日以内に入院中の病院で「新生児聴覚スクリーニング検査」として聴性脳幹反応検査が行われることが多く、先天性難聴の発見に役立てられています。

聴覚障害の治療

聴覚障害の治療は、原因の病気があれば薬物療法や手術療法で治療します。
病気に対する治療をおこなっても改善しなかったり、老人性の難聴で聴力低下が続く場合は、補聴器を使用することもあります。
先天性の病気で子どもの頃から聴覚障害が見られる場合などは、聴覚以外のコミュニケーション手段を習得します。

薬物療法

外耳道炎や中耳炎で伝導難聴が生じている場合は、抗生物質などの投与で改善するケースが多いです。
突発性難聴で感音難聴が起きている場合は、難聴を悪化させないように1週間以内にステロイド剤で治療することが求められます。

手術療法

滲出性中耳炎や鼓膜穿孔、耳硬化症が原因で感音難聴が生じている場合は、手術によって改善するケースがあります。
滲出性中耳炎では鼓膜に換気用のチューブを挿入する手術、鼓膜穿孔は鼓膜の穴をふさぐ手術、耳硬化症ではアブミ骨(耳小骨の一つ)の動きを改善させる手術をおこなって、難聴を改善させます。

補聴器の装着

補聴器は聞こえづらさによって日常生活に支障をきたす場合に検討するケースが多いです。専門医の診断のもと、補聴器販売店で自分にあった補聴器を購入します。
生活の質を改善させるほか、認知症やうつ病を予防する効果もあります。

コミュニケーション手段の習得

コミュニケーション手段の習得は主に聴覚障害のある子どもに対しておこなわれます。
聴覚障害の状態に合わせて、筆談や手話、口話(こうわ)、身振り、空書(くうしょ)などを習得し、日常生活でコミュニケーションを図ります。
日常生活がしやすいように家族や教師などが環境を整えるのも大切です。

聴覚障害になりやすい人・予防の方法

日常生活で常に大きな音にさらされて、内耳の機能が落ちやすくなっている人は騒音性難聴によって聴覚障害になる可能性があります。
風邪や慢性的な鼻炎などにかかりやすい人も、急性中耳炎や滲出性中耳炎になり、聴覚障害につながることがあります。

聴覚障害の予防のために、大音量での音楽鑑賞や騒音がでている環境を避けるなど、耳にやさしい生活を心がけましょう。
バランスの取れた食事の摂取や規則正しい睡眠、適度な運動、禁煙なども、耳の老化の進行を抑制したり免疫力を向上させるのに効果的です。

また先天性風疹症候群による難聴を予防するためには、風疹ワクチンの接種が有効です。ただし妊娠中は風疹ワクチンの接種はできないため、妊娠を希望する方やこれから妊娠する可能性のある方は事前にワクチン接種をする必要があります。
妊娠中は手洗いやうがいなどの感染予防対策をおこない、サイトメガロウイルス感染症や風疹の感染予防に努めましょう。


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