目次 -INDEX-

井林雄太

監修医師
井林雄太(田川市立病院)

プロフィールをもっと見る
大分大学医学部卒業後、救急含む総合病院を中心に初期研修を終了。内分泌代謝/糖尿病の臨床に加え栄養学/アンチエイジング学が専門。大手医学出版社の医師向け専門書執筆の傍ら、医師ライターとして多数の記事作成・監修を行っている。ホルモンや血糖関連だけでなく予防医学の一環として、ワクチンの最新情報、東洋医学(漢方)、健康食品、美容領域に関しても企業と連携し情報発信を行い、正しい医療知識の普及・啓蒙に努めている。また、後進の育成事業として、専門医の知見が、医療を変えるヒントになると信じており、総合内科専門医(内科専門医含む)としては1200名、日本最大の専門医コミュニティを運営。各サブスぺ専門医、マイナー科専門医育成のコミュニティも仲間と運営しており、総勢2000名以上在籍。診療科目は総合内科、内分泌代謝内科、糖尿病内科、皮膚科、耳鼻咽喉科、精神科、整形外科、形成外科。日本内科学会認定医、日本内分泌学会専門医、日本糖尿病学会専門医。

嗅覚障害の概要

嗅覚障害は、匂いを感じる能力が低下または喪失した状態をさします。
この障害は日常生活に大きな影響を与え、食事の楽しみの減少や、危険な匂いを検知できないなど、生活の質も低下させる可能性があります。
本記事は嗅覚障害の原因から、かかりやすい人の特徴までを解説します。

嗅覚障害の原因

嗅覚障害の原因として最も代表的なのは、上気道感染アレルギー性鼻炎です。
この章では、それぞれの原因ごとに解説します。

上気道感染

上気道感染とは、鼻腔から喉頭までの上気道に起こる感染症です。
主にウイルスが原因で、鼻づまり、のどの痛み、咳、微熱などの症状が現れます。
多くは自然に回復しますが、嗅覚障害以外にも合併症を引き起こすことがあります。

アレルギー性鼻炎

アレルギー性鼻炎が原因の場合、鼻腔内の炎症や粘膜の腫れで、匂い分子が嗅覚受容体に到達しにくくなります。
鼻づまりや鼻水なども嗅覚を妨げる要因です。

頭部外傷

頭部外傷は、交通事故やスポーツなどの衝撃で、嗅神経や嗅球が損傷して発生します。
脳震盪や頭蓋骨骨折に伴うことが多く、嗅覚の完全喪失や部分的な低下などが一般的です。
損傷の程度によって、回復の度合いが異なります。

神経変性疾患

神経変性疾患は、主にパーキンソン病やアルツハイマー病などが原因です。
これらの疾患では、嗅球や嗅覚に関わる脳の領域が早期から変性するため、初期から嗅覚障害を発症することがあります。
進行性で、徐々に嗅覚機能が低下し、治療は困難とされています。

加齢

加齢の場合、嗅覚障害は徐々に進行します。
原因は、嗅覚受容体細胞の再生能力低下、嗅球の萎縮、嗅覚神経の減少です。
ほかにも鼻腔内の粘膜の乾燥や萎縮も影響します。
そのため65歳以上の約半数が、何らかの嗅覚障害を発症しているでしょう。
この症状は、最終的に味覚にも影響を与えるという特徴があります。

薬物

薬物は、薬剤の副作用として嗅覚障害が発生します。
原因薬物には、一部の抗生物質(アモキシシリンなど)、降圧剤(ACE阻害薬など)、抗うつ薬、抗甲状腺薬などが有名です。
この薬物は、直接嗅覚神経を障害したり、鼻腔粘膜を変化させることで嗅覚に影響を与えます。
多くの場合、薬物の中止や変更により改善しますが、薬物によっては回復に時間がかかったり、永続的に障害が残ることもあります。

鼻腔内の構造的問題

鼻腔内の構造的問題の場合、鼻中隔湾曲症や鼻ポリープなどが原因です。
この症状は、空気の流れが妨げられ、匂い分子が嗅覚受容体に到達しにくくなります。
鼻中隔湾曲症では片側の鼻腔が狭くなり、鼻ポリープでは鼻腔内に良性の腫瘤が形成されるためです。

環境要因

環境要因の場合、化学物質や大気汚染物質などの長期暴露で発生します。
工業地帯や交通量の多い地域での生活や、化学工場勤務や塗装工などの仕事をしている人が、そのリスクを高めます。
有害物質で鼻腔粘膜や嗅覚神経を直接損傷したり、慢性的な炎症が原因です。

嗅覚障害の前兆や初期症状について

嗅覚障害が起こる原因は、多岐にわたる理由から発生します。
その前兆や初期症状を把握することは、耳鼻科受診の判断をするために大切です。
この章では行政的な定義に含まれる嗅覚障害の症状を、具体的にご紹介します。

匂いの感度低下

嗅覚障害の前兆として一般的なのは、匂いの感度低下です。
日常生活のなかで感じていた香りや、臭いものなどが薄く感じやすくなります。

味覚の変化

嗅覚障害が起こると味覚にも変化が出てきます。
例えば普段と同じ食事をしているはずなのに、食事の味を薄く感じたり、味の違いが分かりにくいときは注意が必要です。
理由として、嗅覚と味覚は密接に関わっていることが考えられます。

異臭を感じる

匂いが感じにくい症状のほかに、異臭を感じる障害も前兆や初期症状として発生します。
今まで嗅いだことのない匂いを感じたり、不快な匂いを感じやすくなるため、症状の変化に注意しましょう。

鼻の違和感

嗅覚障害の前兆として、鼻の違和感をあげる人もいます。
症状として分かりやすいのは、鼻水や鼻詰まりなどです。
ほかにも鼻の乾燥や、痛みを感じることもあります。
鼻水や鼻詰まりは風邪症状の可能性もあるため、耳鼻咽喉科を受診するのも選択肢の1つです。

頭痛や頭が重い

頭痛や、頭が重く感じる時も注意が必要です。
特に前頭部や、目の周りに違和感を感じた時は、早めの耳鼻咽喉科受診をおすすめします。

嗅覚障害の検査・診断

嗅覚障害は複数の検査を実施し、症状と検査所見を照らし合わせて総合的に診断されます。
詳しい検査や診断基準は次の通りです。

嗅覚障害の検査

嗅覚障害の検査では問診をした後、基本的な検査として日本で唯一、基準嗅覚検査として適用されているT&Tオルファクトメーターを使った検査や、スティック型嗅覚検査、画像検査を中心に行います。
ほかにも詳細な嗅覚機能検査に、静脈性嗅覚検査や基準嗅力検査も行い、状況によっては内視鏡検査も実施します。

必要に応じて鼻腔内の組織を採取する生検や、血液検査、アレルギー検査なども行います。

嗅覚障害の診断

診断は次の基準に沿って行われます。

1.主要な症状がある
嗅覚に異常を感じている。
嗅覚障害の原因となるきっかけや体験があった。
味覚障害などの症状も同時に感じている。

2.検査初見
T&Tオルファクトメーターを使った検査や、スティック型嗅覚検査、画像検査など基本的な検査の実施で異常が確認できたかどうかも診断に反映されます。
3.除外されるもの

  • 嗅覚障害の診断から除外される場合の判断基準は以下のようになります。
  • 正常な嗅覚機能が確認できる。
  • 上気道感染や鼻炎などが一時的な発症で改善した。
  • 鼻腔や副鼻腔のCTやMRIで異常所見がなく、嗅神経や嗅球に損傷がない。
  • 頭部外傷や神経変性疾患の既往がなく、ほかの神経学的症状を伴わない場合。
  • 嗅覚に影響を与える薬剤の使用がない、または中止後に改善した場合。
  • うつ病や不安障害などの精神疾患が原因でない。
  • 年齢相応の嗅覚機能の低下でない。

上記①〜③を全て満たした場合となります。

嗅覚障害の治療

嗅覚障害の治療は、原因疾患の治療が第一段階です。
そのほかに、症状に合わせた治療法で、薬物療法、嗅覚トレーニング、手術療法など4つの治療法が行われます。
それぞれ解説していきます。

原因疾患の治療

嗅覚障害の発症が感染症からの場合、抗生物質や抗ウイルス薬の投与を行います。
アレルギー性鼻炎の患者様には、抗ヒスタミン薬や、鼻腔ステロイド薬を処方します。
嗅覚障害の症状に合わせて、処置を行います。

薬物療法

症状に合わせた薬の処方で、嗅覚障害の治療を行います。
主に使われる薬は、副腎皮質ステロイドで炎症を抑制し、嗅覚神経の回復を促します。
ほかにも、亜鉛サプリメントなどを使用し、嗅覚細胞の再生に効果があります。
さらにビタミンAを摂取することで、嗅覚上皮の健康維持につながります。

嗅覚トレーニング

使用する香りは通常4種類の香りで、バラ、ユーカリ、レモン、クローブの使用が一般的です。
特定の香りを定期的に嗅ぐことで、嗅覚神経の再生を促せます。

手術療法

鼻中隔湾曲症の矯正手術や、副鼻腔炎に対する内視鏡下副鼻腔手術などが一般的です。
ほかにも病院以外の治療法として、鍼灸療法やアロマセラピーなども存在します。
生活習慣の見直しも効果があるため、ご自身の状況を把握することも大切です。

嗅覚障害になりやすい人・予防の方法

嗅覚障害は感染症などの病気や、生活習慣や環境、加齢などが原因で起こる障害です。
この章では嗅覚障害になりやすい人とその予防法について紹介します。

嗅覚障害になりやすい人

嗅覚障害になりやすい人の特徴は以下の6つに分けられます。

  • 加齢に伴い嗅覚機能が低下しやすい高齢者
  • アレルギー性鼻炎や慢性副鼻腔炎の人
  • 頭部外傷の既往がある人
  • パーキンソン病、アルツハイマー病など神経変性疾患の人
  • 喫煙者
  • 工場労働者、化学者など化学物質や粉塵に頻繁に暴露される職業の人

嗅覚障害になりやすい人の特徴を紹介しました。
生活している環境で発症することが多い疾患のため、環境の改善だけでも症状を緩和できるでしょう。

嗅覚障害の予防法

嗅覚障害の予防法は、以下のような方法が考えられます。

  • 定期的な鼻洗浄を行い鼻腔の健康維持
  • 禁煙の実施などの生活習慣改善
  • 過度のアルコール摂取を避ける
  • 十分な睡眠をとる
  • 亜鉛、ビタミンA、B12、Eを含んだバランスの取れた食事の摂取
  • 抗酸化物質を含む果物や野菜の摂取
  • 有害な化学物質の吸引をマスクなどで最小限に抑える

嗅覚障害の予防法は日常生活の中で取り組めるものがほとんどです。
予防策を実践することでリスクを軽減できる可能性があるため、日常の生活から見直すことが効果的な予防法と言えるでしょう。


関連する病気

  • 上気道感染症(風邪、インフルエンザなど)
  • 慢性副鼻腔炎(慢性鼻炎)

この記事の監修医師