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松本 学

監修医師
松本 学(きだ呼吸器・リハビリクリニック)

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兵庫医科大学医学部卒業 。専門は呼吸器外科・内科・呼吸器リハビリテーション科。現在は「きだ呼吸器・リハビリクリニック」院長。日本外科学会専門医。日本医師会認定産業医。

クループ症候群の概要

クループ症候群とは、急性声門下喉頭炎とも呼ばれる呼吸器疾患で、上気道の狭窄により喘鳴、嗄声、犬吠様咳嗽などの症状を示す疾患の総称です。生理的に上気道が狭い3歳以下の乳幼児に多く、軽症から重症まで幅広い重症度で起こり、重症例では入院や集中治療が必要となることもあります。

クループ症候群には季節性があり、秋から冬にかけて多く発症します。症状は夜間に悪くなる傾向があり、時に睡眠が障害されます。症状は数日かけて徐々に改善していき、1週間以内には消失します。

クループ症候群の原因

クループ症候群の原因として最も多いのは、細菌またはウイルスの感染です。かつてはジフテリア菌の感染によるものを真性クループ、それ以外の微生物の感染によるものを仮性クループと呼んでいました。近年では予防接種の普及により細菌感染によるクループ症候群は減ってきており、ウイルス感染が原因として高頻度となっています。

原因ウイルスは、パラインフルエンザウイルスが最多で、そのほかにアデノウイルス、RSウイルス、アデノウイルス、ライノウイルスなど、一般的な風邪のウイルスにより引き起こされます。また、新型コロナウイルスによってクループ症候群を発症することもあります。

一方で、なんらかのアレルギー反応により喉頭や気管に炎症が生じて発症することがあり、これを痙性クループと言います。クループ症候群と区別が必要な病気としては、急性喉頭蓋炎、気道および食道異物、食物アレルギーなどがあります。

クループ症候群の前兆や初期症状について

初期症状として1〜3日間の咳、鼻水などの風邪症状があり、それに続いてクループ症候群の特徴的な症状である以下のような症状があらわれます。

犬吠様咳嗽

犬、特に大型犬が吠えるような咳という意味ですが、オットセイが鳴くような咳ともいわれます。咳の症状は、運動時や啼泣時に増悪しやすくなります。

吸気性喘鳴

息を吸うときにぜーぜーという喘鳴が聞こえます。喘鳴が強いと、首元や肋骨の下が呼吸に合わせて凹む陥没呼吸がみられることがあります。

嗄声・咽頭痛

咽頭、喉頭の炎症が強いと声が枯れたり、強いのどの痛みが出ます。のどの腫れが極端に強くなると、唾液が飲み込めずによだれが溢れるなどの症状がみられることがあります。

三脚位

呼吸が苦しくなると、前かがみになって両手をつき、顎先を上に向ける三脚位という体勢をとることがあります。これはのどの炎症が強く、窒息しかけている状態で緊急性の高い症状です。

強く泣いてしまうと上気道の狭窄、閉塞症状が悪化してしまう恐れがあります。そのため、口の中の診察をする際や、鼻水や痰の吸引を行う際には注意が必要です。
クループ症候群の前兆や初期症状が見られた場合に受診すべき診療科は、小児科です。クループ症候群は喉の感染症であり、小児科での診察と治療が必要です。

クループ症候群の検査・診断

クループ症候群は、犬吠様咳嗽などの特徴的な症状があればそれだけでも診断は可能であり、検査は通常必要としません。診察時に咳が治まっている場合は、自宅での咳の動画なども診断の一助となります。しかし、非典型的な症状や経過を示す場合には、頸部のレントゲン写真で喉頭の狭窄がみられることがあり、診断の参考所見として時に有用です。

症状に応じて軽症、中等症、重症、呼吸不全に分類され、それぞれの重症度に応じて治療を選択します。重症度の評価のポイントとして、意識状態、チアノーゼの有無、喘鳴の程度、呼吸音の減弱の有無、努力呼吸の程度があげられます。

軽症

軽い犬吠様咳嗽があるが、努力呼吸や安静時の喘鳴はない。

中等症

頻回の犬吠様咳嗽があり、安静時にも喘鳴や努力呼吸がある。

重症

頻回の犬吠様咳嗽に加え、喘鳴、陥没呼吸が著明で意識状態も不穏である。

呼吸不全

意識状態が低下し、皮膚色が不良である。

クループ症候群の治療

クループ症候群の治療は、主にステロイドの内服とアドレナリンの吸入です。まずはステロイドの内服を行い、中等症以上と判断された場合はアドレナリンの吸入を行います。

ステロイド内服

ステロイドは抗炎症作用によって喉頭の浮腫を軽減させ、入院率や再診率の低下につながります。そのため、軽症の患者さんに対しても投与が考慮されます。経口投与と経静脈投与で治療効果に有意差を認めないため、呼吸苦が強くなく経口摂取が可能であれば内服薬で加療します。ステロイド製剤のうち、デキサメタゾンは1回投与で長時間の効果が期待できるため、第一選択となります。

アドレナリン吸入

安静時にも喘鳴が認められる中等症以上が適応となります。アドレナリン製剤を5〜10倍に希釈して、ネブライザーで吸入します。10〜30分で症状の改善が期待できますが、作用時間は2時間程度のため、外来で使用する場合には帰宅後の症状の増悪のおそれがあることに注意します。可能であれば、吸入した後に2時間経過を見ることが望ましいとされます。

抗菌薬投与

クループ症候群の多くはウイルス感染が原因のため、抗菌薬の投与は必要としません。しかし、臨床経過や血液検査、培養検査などの結果から細菌感染が疑われる場合は抗菌薬の投与を行います。

入院が必要な場合

クループ症候群では軽症例が多く、入院を要するほどの重症な患者さんはごく一部です。
しかし、ステロイド内服やアドレナリン吸入で症状が改善しない場合、呼吸状態が悪く酸素投与を必要とする場合、生後6か月未満、短期間に繰り返し外来を受診している、といった場合には入院を考慮する必要があります。呼吸不全の状態であると判断した場合には、気管挿管を考慮します。
クループ症候群では喉頭や声門の浮腫により、気管挿管に高度な技術を要します。そのため、重症化が懸念される場合には早期に高次医療機関への転送を検討します。

クループ症候群になりやすい人・予防の方法

クループ症候群になりやすい人

クループ症候群は、生後6か月から3歳の子どもに多い傾向です。乳幼児期の子どもは、喉頭や声門が狭く、炎症が生じた際に狭窄を起こしやすいからです。男児の方が女児よりもかかりやすいという統計が出ています。

また、クループ症候群は普通の風邪に続いて発症することが多いため、風邪を引きやすい秋から冬にかけて増加する傾向があります。基礎疾患として声門下狭窄症、喉頭軟化症、気管軟化症などの先天的な気道の解剖学的狭窄がある場合は、クループ症候群の罹患リスクが高いといえます。

予防の方法

クループ症候群は風邪のウイルスが原因で発症することが多いため、風邪を引かないようにすることが予防において重要です。手洗いや、可能であればマスクをするなどの一般的な飛沫感染対策がクループ症候群の予防にもつながります。

細菌感染によるクループ症候群の予防のためには、Hib、ジフテリアなどの予防接種を受けることが重要です。クループ症候群の原因となる細菌の予防接種は生後2か月から始まるため、推奨スケジュール通りに接種することで、好発年齢である生後6か月までにはHib、ジフテリアに対して3回の接種を終えることができます。

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