

監修医師:
五藤 良将(医師)
目次 -INDEX-
スモンの概要
スモンは整腸剤である「キノホルム(clioquinol)」の副作用による薬害のことをいいます。
Subacute Myelo-Optico Neuropathy(亜急性脊髄視束神経症)の頭文字をとって、「スモン」と呼ばれています。
日本では1960年代に流行し、複数の場所で同じ時期に多発したため、新種の感染症ではないかと考えられていました。
しかし、患者の尿を分析した結果、キノホルムが原因物質と判明し、服用量が多いほど早期発症と重症化につながることが判明しました。
1970年にキノホルムの販売が中止になったことで、スモンの新規発生患者は激減しました。
スモンの症状には下肢の痙性麻痺(足が突っ張ること)や異常感覚(しびれや冷感)、視覚障害などがあります。
根本的な治療方法は確立されていませんが、異常感覚に対しては神経症状に効果がある「ノイロトロピン」が使用されます。
現在も厚生労働省が主体となって、スモンの原因の究明や患者支援策が実施されており、医療費の全額公費負担や、はり・きゅうなどの費用補助、ホームヘルパー派遣などの生活支援が行われています。
学校教育や医療関係者の研修などを通じて、スモン薬害事件の歴史を継続的に伝えていく取り組みも行われています。
スモンの原因
スモンの主な原因は、整腸剤であるキノホルムの使用です。
キノホルムは1950年代から1960年代に日本で広く使われていましたが、神経に悪影響を与える薬剤だと後に分かりました。
キノホルムは腸内の菌を殺す薬として使われていましたが、腸から体に吸収され、神経組織を侵す作用もあります。
キノホルムを服用すると、体内の金属のバランスが崩れ、酸化が進むことで神経障害が引き起こされると考えられています。
スモンの前兆や初期症状について
スモンは消化器症状から始まった後、神経症状が段階的に出現することが特徴的です。
若年(未成年)発症例では成人発症例と比較して、視力障害や痙性麻痺がより重症化する傾向が報告されています。
症状は急性期が過ぎた後も後遺症として残存することが多いです。
消化器症状
下痢や軽い腹痛など、一般的な胃腸の不調と見分けがつきにくい症状が現れます。
その後、激しい腹痛が起こり、おなかが張る感覚や便秘などの症状が明確になってきます。
緑色の便や尿が出るのも特徴の一つです。
神経症状
足の指先から始まる異常な感覚(しびれ感)が特徴的です。
感覚障害は徐々に体の中心に向かって進行し、腹部や胸部にも及ぶことがあります。
自律神経症状として、下肢の冷感や排尿障害のほか、便秘と下痢が交互に起きる症状などが出現します。
運動機能障害
神経症状の進行に伴い、約50%の症例で運動機能障害が出現します。
筋力低下による歩行障害、深部反射亢進(腱を刺激したときの筋肉の反応が強まる状態)、などの所見が見られ、重症例では上肢にも障害が及びます。
視覚障害
視覚障害は20~30%の症例で認められ、重症例では失明に至ることがあります。
精神障害
運動機能が低下し、日常生活の自立が困難になることによって、心理的ストレスや抑うつ症状を引き起こすことがあります。
慢性的な痛みや高齢患者ではスモン以外の健康問題が加わり、社会的孤立や精神的負担が増大することも抑うつ症状の原因となります。
スモンの検査・診断
スモンの診断では、神経症状の問診に加えてキノホルムの服用について確かめることが重要です。それらに加え、画像診断や神経学的検査も行われます。
画像検査
画像検査では、MRIやCTを用いて、脳や脊髄の状態を詳しく観察します。
これらの検査により、神経の変性や髄鞘(神経を覆う組織)の異常の有無を評価できます。
神経学的検査
神経学的検査として、手足の感覚や動きの状態を確認します。
膝蓋腱反射などの深部反射検査や、足の裏を刺激して親指の動きを見るバビンスキー反射検査などを行い、神経系の障害の範囲や程度を判断します。
スモンの治療
スモンの症状はキノホルムの使用をやめることで落ち着きますが、神経症状は後遺症として残ることがあります。
根本的な治療は現在も確立されておらず、薬物療法、対処療法が中心です。
薬物療法
スモンの下肢異常感覚に対して、神経を再生して異常感覚を和らげるノイロトロピンや、漢方薬が処方されます。
痛みの管理には鎮痛剤も使用されます。
抑うつ症状に対しては抗うつ剤を使用することで、精神的な苦痛を減らします。
リハビリテーション
日常生活能力の維持に向けて、理学療法や作業療法によるリハビリテーションが必要になることがあります。
リハビリテーションでは主に下肢の痙性麻痺で歩行障害がある患者に対して、筋力トレーニングや歩行練習をおこないます。
筋肉をほぐして体を動かしやすくするために、はり・きゅう・マッサージを併用することも治療の選択肢として挙げられます。
スモンになりやすい人・予防の方法
スモンになりやすい人は明確にはわかっていません。
現在は、キノホルムの使用が完全に禁止されているため、新たなスモンの発症リスクもないといえます。
薬害事例から得られた教訓として、キノホルムだけでなく、医薬品の使用にあたっては医師や薬剤師と十分に相談し、副作用情報を確認することが重要です。
安易な薬の増量や長期使用を避け、定期的な健康診断を受けて体調の変化に注意を払うことも必要とされています。
スモンの薬害事件は、薬の開発段階における安全性試験の重要性や、医療現場での透明な情報共有の必要性を示す重要な事例として位置づけられています。
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参考文献