

監修医師:
武井 智昭(高座渋谷つばさクリニック)
平成14年慶應義塾大学医学部を卒業。同年4月より慶應義塾大学病院 にて小児科研修。平成16年に立川共済病院、平成17年平塚共済病院(小児科医長)で勤務のかたわら、平成22年北里大学北里研究所病原微生物分子疫学教室にて研究員を兼任。新生児医療・救急医療・障害者医療などの研鑽を積む。平成24年から横浜市内のクリニックの副院長として日々臨床にあたり、内科領域の診療・訪問診療を行う。平成29年2月より横浜市社会事業協会が開設する「なごみクリニック」の院長に就任。令和2年4月より「高座渋谷つばさクリニック」の院長に就任。
日本小児科学会専門医・指導医、日本小児感染症学会認定 インフェクションコントロールドクター(ICD)、臨床研修指導医(日本小児科学会)、抗菌化学療法認定医
医師+(いしぷらす)所属
目次 -INDEX-
奇形腫の概要
奇形腫(きけいしゅ)は、胚細胞(はいさいぼう)から発生する腫瘍です。胚細胞は、胎児の体を作る細胞で、主に卵巣や精巣に存在し、さまざまな種類の組織(皮膚、毛髪、骨、歯、筋肉など)に変化できる能力をもっています。そのため、奇形腫は腫瘍の中にさまざまな組織や器官が混在する特徴があります。
奇形腫には、成熟奇形腫と未熟奇形腫の2種類があります。成熟奇形腫は、十分に発達した組織で発生する良性の腫瘍で、最も一般的なタイプです。未熟奇形腫は発達途中の未熟な組織にも発生する腫瘍で、成熟奇形腫よりも悪性化する可能性が高いです。
奇形腫が発生する場所はさまざまで、主に卵巣や精巣などの生殖器に発生します。仙尾部(お尻の付け根)、縦隔(胸の中央部)、後腹膜(腹部の後ろ側)、頭蓋内(脳や松果体付近)、頸部(首の部分)などにも発生することがあります。発生部位によって発症時期は異なり、胎児期で診断されることもあれば、出生後や成人後に診断されることもあります。見られる症状や治療方法も異なります。
奇形腫の治療方法は主に手術と化学療法です。奇形腫は適切な治療により完治が期待できますが、まれに悪性化することもあるため、早期発見と適切な治療が重要です。
奇形腫の原因
奇形腫は胚細胞が腫瘍化することで発生しますが、腫瘍が発生するメカニズムについては、現時点でわかっていません。
奇形腫の前兆や初期症状について
奇形腫の症状は、腫瘍ができる場所によって大きく異なります。腫瘍の大きさや成長の速さによっても症状が異なります。成熟奇形腫はゆっくりと成長・進行しますが、未熟奇形腫は、より早い段階で症状があらわれ、急速に進行することがあります。
卵巣の奇形腫
卵巣の奇形腫では、下腹部の痛みや違和感を感じることがあります。腫瘍が大きくなると、お腹が膨らんできたり、腰痛が出たりすることもあります。まれに、卵巣が子宮とつながっている部分でねじれて突然強い痛みが起こることがあります。卵巣念転といい、緊急の治療が必要な状態です。
精巣の奇形腫
精巣の奇形腫では、精巣の腫れや硬さの変化として気づくケースが多いです。痛みや発赤を伴うことはあまりありません。
仙尾部の奇形腫
仙尾部の奇形腫では、座ったときのお尻の違和感や痛み、排便・排尿に問題が出ることがあります。新生児の場合は、出産時に外から腫瘍が見えることもあります。
縦隔の奇形腫
縦隔の奇形腫では、周囲の臓器を圧迫することで症状が現れます。息切れや咳、胸の痛みなどが見られることがあります。大きくなると、食べ物を飲み込みにくくなったり、声がかすれたりすることもあります。
松果体周辺の奇形腫
松果体周辺の奇形腫では、頭痛や吐き気、視力の問題が出ることがあります。ホルモンバランスが乱れることで、早熟な性的発達などの症状があらわれることもあります。
奇形腫の検査・診断
奇形腫の診断では、画像検査や血液検査、生検などが行われます。
画像検査
はじめに超音波検査で腫瘍の大きさや場所、内部の状態を確認します。奇形腫はさまざまな組織(歯、骨、毛髪など)を含むことがあるため、超音波検査では特徴的な画像として観察されることがあります。
次にCTやMRIを行い、より詳しく調べます。CTでは腫瘍内部の石灰化(骨や歯などの硬い組織)の有無を、MRIでは周囲の臓器との関係や腫瘍内部の状態を確認することができます。必要に応じて造影剤を使用し、血流の状態なども調べます。
血液検査
血液検査では腫瘍マーカーと呼ばれる特殊な値を測定します。奇形腫では、「αフェトプロテイン(AFP)」や「ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)」などの値が参考になります。全身状態や他の臓器の状態も確認します。
生検
画像検査で奇形腫が疑われる場合、確定診断のために腫瘍の一部を採取して顕微鏡で調べる生検を行うことがあります。精巣の奇形腫では手術で摘出して診断を行うのが一般的です。
生検を行うことで腫瘍の特徴を詳しく調べることができ、良性と悪性の判断に役立ちます。
奇形腫の治療
奇形腫の治療は、手術による腫瘍の摘出や化学療法が基本となります。腫瘍の大きさや場所、良性もしくは悪性によって、具体的な治療方針が決められます。
手術療法
手術では腫瘍の完全な摘出を目指します。できるだけ内視鏡手術などで体への負担が少ない手術方法が選択されます。ただし、腫瘍の場所や大きさ、周囲の組織との関係によっては、開腹や開胸などの手術が必要になることもあります。
手術後は定期的な経過観察が重要です。画像検査や腫瘍マーカーの検査を定期的に行い、再発がないかを確認します。手術の部位や範囲によっては、リハビリテーションが必要になることもあります。
化学療法(抗がん剤治療)
悪性の場合は、手術に加えて抗がん剤治療が行われることがあります。抗がん剤治療は、手術前後のどちらかで行う場合があり、腫瘍の状態によって決定されます。抗がん剤の種類や投与期間は、腫瘍の性質や患者の状態に応じて個別に決められます。
奇形腫になりやすい人・予防の方法
奇形腫の原因は明らかになっていないため、現時点では予防法は確立されていません。
ただし、早期発見が重要であることは明らかです。定期的な健康診断を受けることで、症状が出る前に発見できる可能性が高まります。体のどこかにしこりを感じる、原因不明の痛みや発熱が続く、体重が急に減るなどの症状がある場合は、できるだけ早く医療機関を受診しましょう。
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