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薬剤アレルギー
本橋 尚子

監修医師
本橋 尚子(医師)

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東京医科歯科大学医学部卒業。明海皮ふ科勤務。専門はアトピー性皮膚炎。日本皮膚科学会専門医、日本医師会認定産業医。

薬剤アレルギーの概要

薬剤アレルギーとは、特定の薬剤によってアレルギー症状が引き起こされる免疫反応です。多くは内服薬や注射薬などによって起こりますが、湿布や塗り薬、目薬、吸入薬などがアレルギーの原因となることもあります。

薬剤は本来、病気の治療または予防のために使用されますが、体が薬の成分を異物と認識し、過剰な免疫反応が生じることがあります。薬剤アレルギーでは、皮膚の発疹(薬疹)が多くみられますが、重篤な場合は、肝臓や腎臓への障害やアナフィラキシーショックを引き起こすこともあります。

薬剤アレルギーには、薬剤を使用後、すぐに症状があらわれる「即時型アレルギー」と、数日後に症状があらわれる「遅延型アレルギー」があります。

薬剤アレルギーは、あらゆる薬剤が原因で生じますが、抗菌薬や解熱鎮痛剤、抗けいれん薬、痛風の治療薬が原因となることが多いとされています。使用した薬剤の量が少量でも症状があらわれることがあり、医師から処方された薬剤だけでなく、市販薬でも起こり得ます。

薬剤アレルギーは、原因となっている薬剤を中止することで、症状の改善が期待できます。しかし、薬剤アレルギーの診断は難しく、薬剤を服用後に発疹があらわれたとしても、ウイルス感染などの症状によって生じている可能性も考えられるため、慎重な判断が必要です。

薬剤アレルギー

薬剤アレルギーの原因

薬剤アレルギーは、薬剤に対する過剰な免疫反応が原因で生じます。体内に入った薬剤が異物として認識されると抗体ができることがあり、再び同じ薬剤が体内に入ったときに過剰な免疫反応が引き起こされ、アレルギー症状があらわれます。

薬剤アレルギーの原因となりやすい薬剤としては、抗菌薬、解熱鎮痛剤(NSAIDs)、抗がん剤、造影剤、抗けいれん薬、痛風治療薬などが挙げられます。
しかし、どんな薬剤でも薬剤アレルギーが生じる可能性はあり、薬剤の作用の強さ、量や回数によらず、市販薬でも起こり得るため注意が必要です。

内服薬や注射薬だけでなく、塗り薬や目薬、湿布なども原因となり、使用したところにかゆみや赤み、かぶれ(接触皮膚炎)が生じることがあります。

薬剤アレルギーの前兆や初期症状について

薬剤アレルギーではさまざまな症状がみられますが、最も多くみられるのが皮膚症状です。薬剤アレルギーによる皮膚症状は「薬疹(やくしん)」とよばれ、かゆみを伴う赤い発疹(紅斑)や小さく盛り上がった発疹(丘疹)、じんましんなどがあらわれます。これらの症状は、薬剤を使用したあと、数分から数日以内に出現することが一般的ですが、数日経過してから出現することもあります。

また、「ゼーゼー・ヒューヒュー」と音のする呼吸(喘鳴)や肺炎などの呼吸器症状、発熱、嘔吐、血圧低下、腹痛、下痢などがあらわれることがあります。重度の薬剤アレルギーでは、アナフィラキシーとよばれる強いアレルギー反応があらわれることがあり、急激な血圧低下や呼吸困難、意識障害など命に関わる症状が引き起こされるため、緊急での対応が必要です。

また、薬疹の中でも、命に関わる重症の薬疹とされているものに、中毒性表皮壊死症、スティーブンス・ジョンソン症候群、薬剤性過敏症症候群があります。
中毒性表皮壊死症、スティーブンス・ジョンソン症候群では、やけどのように赤くずるずると皮膚が剥けたり、水ぶくれやただれたりする(びらん)症状がみられます。
薬剤性過敏症症候群の多くは、発症までに3週間以上と時間がかかるのが特徴で、発熱やかゆみのある赤い発疹が生じ、全身の臓器まで障害がおよぶ可能性もあります。これらの重症薬疹は、早期に治療を行うことが重要であるため、速やかに医療機関を受診するようにしましょう。

薬剤アレルギーの検査・診断

薬剤アレルギーの診断では、症状と使用した薬剤に関する情報が重要です。どのような薬剤をいつからはじめたか、そしていつから症状が出現したか、今まで同じ薬剤を服用して同様の症状がみられたことがあるかなどを詳細に聴取し、薬剤アレルギーの可能性を判断します。

薬剤アレルギーが疑われる場合、皮膚テスト、血液検査、薬剤誘発試験などが行われます。

皮膚テストでは、原因として疑われる薬剤を皮膚に置いて皮膚が赤くなるなどの変化が生じるかを確認し、血液検査(薬剤リンパ球刺激試験)では、薬剤による刺激でリンパ球などが増殖するかを確認します。
実際にその薬剤を使用して症状が引き起こされるか確認をする薬剤誘発試験は、最も確実な薬剤アレルギーの診断方法ですが、重い症状が引き起こされる可能性もあるため、少ない薬剤量から慎重に実施されます。

薬剤アレルギーの治療

薬剤アレルギーの治療では、原因となる薬剤を特定し、使用を中止して服用を避けることが第一です。代わりに使用できる薬剤がある場合は、必要に応じて別の薬剤を使用します。
軽度の薬剤アレルギーであれば、原因薬剤の中止により症状の改善が期待できます。

また薬剤アレルギーの重症度に応じて、ステロイド外用薬やステロイド内服薬・点滴薬などによる治療が実施されることもあります。

重篤な症状、とくにアナフィラキシーが疑われる場合は、ただちにアドレナリンを注射する必要があります。アナフィラキシーは発症後すぐに症状が悪化するため、早急な対処が重要です。

薬剤アレルギーになりやすい人・予防の方法

薬剤アレルギーは誰にでも起こりうるものですが、過去に同じ薬剤でアレルギー症状があらわれた経験のある方は、再び同じ薬剤でアレルギーが生じるリスクが高いといえます。

あらゆる薬剤が薬剤アレルギーの原因となる可能性があるため、あらかじめ薬剤アレルギーを予想し、予防する方法はありません。過去に薬剤アレルギーと診断された方は、原因となる薬剤を再び使用することを避けることが重要です。

一度アレルギーが起こった薬剤を再び使用すると、初回の症状よりも重い症状が起こる可能性があるため、医療機関を受診する際には医師や薬剤師に薬剤名を伝えるようにしてください。
原因となる薬剤の成分は、市販の医薬品にも含まれている可能性があるため、市販の医薬品を使用する際にも成分表示等を十分に確認するようにしましょう。


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