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フィラリア症
田頭 秀悟

監修医師
田頭 秀悟(たがしゅうオンラインクリニック)

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鳥取大学医学部卒業。「たがしゅうオンラインクリニック」院長 。脳神経内科(認知症、パーキンソン病、ALSなどの神経難病)領域を専門としている。また、問診によって東洋医学的な病態を推察し、患者の状態に合わせた漢方薬をオンライン診療で選択する治療法も得意としている。日本神経学会神経内科専門医、日本東洋医学会専門医。

フィラリア症の概要

フィラリア症とは、蚊を媒介して「フィラリア」という寄生虫に寄生されることで引き起こされる感染症のことです。
主に熱帯地域の貧困層を中心に蔓延する感染症であり、世界では数億人もの感染者がいると言われています。世界保健機関(WHO)が定義する「NTDs(顧みられない熱帯病)」の一つに指定されています。

人間がかかるフィラリア症は、一般的に犬や猫の病気として知られているものとは異なる病態です。
犬や猫のフィラリア症では、心臓に虫が住み着き、治療しなければ命を脅かします。
一方、人間のフィラリア症は生命に直結するものではありませんが、生活の質に大きな影響を与えます。

感染初期では無症状であることも多いのですが、感染から数年~数十年経ってから陰嚢や手足の腫れなどの症状が現れます。これにより排尿や排便が困難になったり、下着やズボンが履けなくなったり、移動が困難になったりすることがあります。

日本は世界で初めてフィラリアを抑え込むことに成功し、1988年に沖縄県で根絶宣言を行いました。そのため、現在は日本においてフィラリア症の新規感染者は報告されていません。

フィラリア症

フィラリア症の原因

フィラリア症は、バンクロフト糸状虫やマレー糸状虫、チモール糸状虫などに感染することによって引き起こされます。

糸状虫は蚊が媒介し、蚊に刺されることで人の体内に入ります。人から人への感染は報告されていません。
この寄生虫は、非常に小さく、初めは人の血液中に存在しますが、時間が経つにつれて体内で成長し、次第に体の中のリンパ管に移動します。
寄生虫がリンパ管に入ると、そこでとぐろを巻くように成長し、リンパ液の流れを阻害します。
リンパ液が正常に流れなくなると、体の下半身や陰嚢(精巣の袋)の部分に液が溜まり、腫れやむくみを引き起こします。

フィラリア症の前兆や初期症状について

フィラリアに感染してもすぐには症状が現れず、無症状のまま数年~数十年経過することが一般的です。子どもの頃に感染し、大人になってから症状が現れるケースが多いと言われています。

感染初期

感染初期の段階では、発熱やリンパ節の腫れや痛みなどの症状が現れることがあります。ただし感染しても多くの場合は無症状のまま経過すると言われています。
しかし、徐々に体のリンパ系組織や腎臓に影響を及ぼし、免疫機能を変化させます。

慢性期

感染が進行すると、足が象のように大きく腫れたり(象皮症)、皮膚が厚く硬くなったりといった特徴的な症状が現れます。
また、陰嚢に液体がたまり大きくなったり、乳房や生殖器にも影響が現れたりすることがあります。
これらの体の変形は、一度発症すると治ることはありません。
社会的な偏見や精神的な問題へとつながるため、生活の質を大きく下げてしまいます。

リンパ管は、体の免疫システムにとって重要な役割を果たしているため、障害を受けることで感染症が発生しやすくなります。

フィラリア症の検査・診断

フィラリアの診断には血液検査が必要です。
ただし、この血液中に寄生するフィラリアの幼虫(ミクロフィラリア)は夜にしか現れない特殊な性質を持っています。
昼間は肺の中に隠れていて、夕方6時頃から血管内に現れ始め、真夜中にピークを迎えます。
このため、血液検査は夜にしか行えません。なぜ夜に現れるのかは、まだ解明されていません。

ほかにも、血清中の抗体値の測定や画像検査などが行われることもあります。

フィラリア症の治療

フィラリアの感染が判明した場合は、駆虫薬を服用して治療を行います。
また、寄生虫を摘出する手術が行われる場合もあります。

これらの治療により体内にいるフィラリアを退治することはできますが、一度肥大した陰嚢や手足は元の状態に戻りません。

リンパ浮腫の症状がみられる場合には、薬物療法とあわせて圧迫療法が行われます。
患部をしっかりと圧迫することで、リンパ液の流れを助け腫れを抑えます。
ただし、圧迫療法は根本的な治療ではなく、症状を和らげるための対症療法です。

保存療法には他にも、リンパドレナージや運動療法、スキンケアなどがあります。
肥大した部分の治療には外科手術が必要となることがあります。

フィラリア症になりやすい人・予防の方法

フィラリア症は、熱帯地域に多い感染症です。
特にサハラ以南のアフリカやエジプト、南アジア、西太平洋の島々、ブラジル、ガイアナ、ハイチ、ドミニカ共和国の北東海岸でよく見られます。
現在日本ではフィラリア症への感染の恐れはないものの、上記の地域へ渡航する予定がある人は、蚊に刺されないように対策することが重要です。

世界保健機関(WHO)は世界中からフィラリア症の根絶を目指し、大規模な予防的化学療法を推進しています。感染リスクの高い地域に住む人に対して、寄生虫を退治する薬を予防的に服用してもらい、感染の拡大を防ぐという戦略です。
これによりいくつかの国では、フィラリア症の根絶に成功し、世界的に新規感染者は減少傾向にあると報告されています。

感染リスクのある地域に渡航予定のある人は、虫除けスプレーを使ったり、長袖や長ズボンを着用するなどして、蚊に刺されないように予防しましょう。


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