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高宮 新之介

監修医師
高宮 新之介(医師)

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昭和大学卒業。大学病院で初期研修を終えた後、外科専攻医として勤務。静岡赤十字病院で消化器・一般外科手術を経験し、外科専門医を取得。昭和大学大学院 生理学講座 生体機能調節学部門を専攻し、脳MRIとQOL研究に従事し学位を取得。昭和大学横浜市北部病院の呼吸器センターで勤務しつつ、週1回地域のクリニックで訪問診療や一般内科診療を行っている。診療科目は一般外科、呼吸器外科、胸部外科、腫瘍外科、緩和ケア科、総合内科、呼吸器内科。日本外科学会専門医。医学博士。がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会修了。JATEC(Japan Advanced Trauma Evaluation and Care)修了。ACLS(Advanced Cardiovascular Life Support)。BLS(Basic Life Support)。

日和見感染の概要

日和見感染(ひよりみかんせん)は、免疫力が低下しているときに発生しやすい感染症です。通常、健康な免疫システムはウイルスや細菌などの病原体から身体を守っています。しかし、がん治療や臓器移植後の免疫抑制状態、エイズ(HIV感染症)などによって免疫機能が弱まると、普段は問題にならない微生物が病気を引き起こします。これが「日和見感染」です。「日和見」という言葉は、機会を狙うという意味を持ち、病原体が免疫力の低下を機に感染を引き起こす状況をあらわしています。

免疫システムは、身体の中に侵入した病原体(ウイルスや細菌など)を認識し、攻撃する仕組みです。このシステムが正常に機能している限り、私たちは日常的にさまざまな病原体と接触しても病気になることはほとんどありません。しかし、がん治療や臓器移植後に使用される免疫抑制剤、エイズなどの病気によって免疫システムが弱まると、通常では感染を起こさない微生物が感染症を引き起こすことがあります。これが日和見感染の本質です。

日和見感染の原因

日和見感染の原因となる病原体には、細菌、ウイルス、真菌(カビの一種)、寄生虫などが含まれます。これらの微生物は通常、免疫システムによって抑制されているため、健康な身体ではほとんど影響を与えません。しかし、免疫機能が低下すると、それぞれの病原体が感染を引き起こしやすくなります。

細菌
細菌は、小さな単細胞生物で、身体の中に入ると増殖し、毒素を放出することで感染症を引き起こします。日和見感染を引き起こす代表的な細菌には、緑膿菌(りょくのうきん)やセラチア菌があります。これらの細菌は、健康な人の体内でも見られることがありますが、免疫力が低下すると急速に増殖し、肺炎や敗血症などを引き起こします。緑膿菌は特に、呼吸器に感染することが多く、肺炎の原因となります。

ウイルス
細菌よりもはるかに小さく、自分自身で増殖することはできません。ウイルスは他の細胞に侵入し、その細胞の機能を乗っ取って増殖します。日和見感染の原因となるウイルスには、サイトメガロウイルス(CMV)や単純ヘルペスウイルスが含まれます。これらのウイルスは、免疫力が低下していない場合には体内で静かに存在していますが、免疫力が低下すると活発化し、重篤な感染症を引き起こします。

真菌(しんきん)
真菌は、カビの仲間です。健康な体内では通常、真菌の増殖は抑えられていますが、免疫が低下すると真菌が急激に増殖し、感染症を引き起こします。日和見感染の原因となる真菌には、カンジダやアスペルギルス、ニューモシスチスがあります。これらは主に呼吸器や消化器に感染し、特にカンジダは口腔内や食道に感染しやすいです。

寄生虫
寄生虫は、他の生物に寄生して栄養を吸収する生物であり、健康な免疫システムがあれば体内での増殖は抑制されます。しかし、免疫力が低下すると、トキソプラズマといった寄生虫が感染を引き起こすことがあります。主に脳や眼に感染を起こしやすいです。

日和見感染の前兆や初期症状について

日和見感染の初期症状は発症する場所によって異なりますが、発熱、咳、息切れ、下痢、疲労感など、一般的な感染症に似ています。しかし、これらの症状が進行すると敗血症(全身に感染が広がる重篤な状態)に発展することがあります。免疫力が低下している場合、感染が進行しやすいため、初期症状に気づいたらすぐに医師の診察を受けることが重要です。特に、がん治療や臓器移植後、エイズ患者など、免疫抑制状態にある場合は、軽い症状であっても重大な感染症に進展する可能性があるため注意が必要です。

例えば、ニューモシスチス肺炎の場合、初期症状は軽い息切れや乾いた咳ですが、これが急速に悪化し、激しい呼吸困難を引き起こすことがあります。また、サイトメガロウイルス感染症は、最初は風邪のような症状から始まりますが、視力低下や内臓の損傷を引き起こすこともあります。

診療科目としては、内科、呼吸器内科、感染症科が適しており、特に免疫力が低下している人は早めの診断を受けることが重要です。免疫力が弱っている状態では、通常の風邪やインフルエンザのような軽い症状でも重篤化する可能性があるため、早期発見・早期治療が大切です。

日和見感染の検査・診断

日和見感染の診断には、さまざまな方法があります。まず、血液検査や尿検査、喀痰(かくたん)培養などの基本的な検査が行われます。これらの検査によって、体内に病原体が存在しているかどうかを確認します。また、画像診断としてCT(コンピュータ断層撮影)やMRI(磁気共鳴画像法)が使用され、感染の広がりや臓器の損傷具合を確認します。

例えば、肺炎が疑われる場合、胸部X線やCTスキャンが用いられ、肺の炎症や感染の広がりを確認します。肺炎は、日和見感染症の中でも特に多く見られるため、これらの画像検査は重要です。また、真菌感染が疑われる場合は、血液中の真菌抗原を調べる血液検査が行われます。これにより、体内に真菌が増殖しているかどうかを確認できます。

さらに、感染源が不明な場合には、体液や組織を採取して詳細な検査を行い、病原体を特定することもあります。たとえば、肺炎が疑われる場合は、肺から分泌物を採取して培養し、原因となる細菌や真菌を特定します。培養検査によって、どの抗生物質や抗真菌薬が最も効果的かを判断することができ、治療に役立ちます。

日和見感染の治療

日和見感染の治療は、感染源となる病原体によって異なります。治療の基本的な方針は、感染を抑えることと、免疫力を回復させることです。以下は、日和見感染の代表的な治療法です。

抗菌薬(こうきんやく)
細菌感染に対しては、抗菌薬(抗生物質)が使用されます。抗菌薬には、ペニシリン系、セファロスポリン系、マクロライド系などさまざまな種類があり、感染の原因となる細菌の種類に応じて選ばれます。

抗ウイルス薬
ウイルス感染には、抗ウイルス薬が使用されます。例えば、サイトメガロウイルス感染症にはガンシクロビルやバルガンシクロビルが処方されます。これらの薬は、ウイルスが体内で増殖するのを防ぎ、免疫システムがウイルスを排除するのをサポートします。

抗真菌薬
カンジダ感染症にはフルコナゾール、アスペルギルス感染症にはアムホテリシンBなどが使用されます。これらの薬は、真菌の細胞壁を破壊し、増殖を防ぐ働きを持っています。

日和見感染になりやすい人・予防の方法

日和見感染になりやすい人

日和見感染は、免疫力が低下した人に多く見られます。次のような人が特にリスクが高いとされています。

HIV/AIDS(エイズ)患者
エイズは免疫システムを破壊し、日和見感染のリスクを高めます。エイズ患者さんは、免疫力が低下しているため、通常は無害な微生物にも感染しやすくなります。

がん患者
がん治療では免疫抑制剤や化学療法が行われ、免疫機能が低下します。特に白血病やリンパ腫など、免疫系に影響を与えるがんの患者さんは、日和見感染のリスクが高いです。

臓器移植患者
移植された臓器が拒絶されないように免疫を抑える薬を使うため、感染しやすくなります。臓器移植後の患者さんは、免疫抑制剤を長期間使用するため、日和見感染のリスクが常に高まっています。

糖尿病や腎不全などの慢性疾患を持つ人
これらの疾患は免疫機能を低下させることがあり、日和見感染症のリスクを高めます。糖尿病患者さんでは、血糖値のコントロールが不十分な場合、細菌や真菌による感染が起こりやすくなります。

高齢者
年齢を重ねると、免疫システムが徐々に衰え、感染症にかかりやすくなります。特に、免疫力が弱っている高齢者は、肺炎などの感染症にかかりやすいです。

予防方法

日和見感染を予防するためには、免疫力をできるだけ維持することが重要です。

手洗いと衛生管理
感染予防の基本です。特に食事前やトイレの後には手を洗う習慣をつけましょう。

予防接種
免疫力が低下した人でも、予防接種によって感染症を防ぐことができます。インフルエンザや肺炎球菌のワクチンが推奨されます。

栄養バランスの取れた食事
ビタミンやミネラルを十分に摂取することが、免疫機能を維持するために重要です。

適度な運動
運動は免疫機能を向上させ、感染予防に役立ちます。

ストレス管理
ストレスを減らすことも、免疫機能の維持に重要な役割を果たします。


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