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低出生体重児
佐伯 信一朗

監修医師
佐伯 信一朗(医師)

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兵庫医科大学卒業。兵庫医科大学病院産婦人科、兵庫医科大学ささやま医療センター、千船病院などで研鑽を積む。兵庫医科大学病院産婦人科 外来医長などを経て2024年3月より英ウィメンズクリニックに勤務。医学博士。日本産科婦人科学会専門医、日本医師会健康スポーツ医、母体保護法指定医。

低出生体重児の概要

低出生体重児とは、出生時の体重が2500g未満の新生児を指します。世界保健機関(WHO)の定義によると、さらに1500g未満を極低出生体重児1000g未満を超低出生体重児と分類しています。低出生体重児は、早産(在胎37週未満)や子宮内発育不全(IUGR)によって生じることが多く、世界中で年間約2000万人が低出生体重児として生まれています。これは全出生の15-20%に相当し、発展途上国でより高い割合を示しています。低出生体重児は、出生直後から成人期に至るまで、様々な健康リスクを抱えているため、適切な周産期管理と長期的なフォローアップが重要となります。

低出生体重児の原因

低出生体重児の主な原因は、早産と子宮内発育不全(IUGR)です。
早産は、様々な要因により妊娠37週未満で出産に至る状態を指し、低出生体重児の主要な原因となっています。早産のリスク因子には、多胎妊娠、子宮頸管無力症、子宮内感染、母体のストレスなどが含まれます。
一方、IUGRは胎児が遺伝的な成長可能性を十分に発揮できない状態を指し、胎盤機能不全、母体の栄養不良、喫煙、アルコール摂取、薬物使用などが関与します。
これらの原因の背景には、母体要因(高血圧疾患、糖尿病、慢性疾患など)、胎児要因(先天異常、染色体異常など)、胎盤要因(胎盤機能不全、前置胎盤など)、環境・社会的要因(低社会経済状態、不適切な産前ケアなど)が複雑に絡み合っています。

低出生体重児の前兆や初期症状について

低出生体重児自体には特定の前兆や初期症状はありません。
定期的な産前検診で胎児の推定体重が標準より小さいことや、子宮底長の伸びが不十分であることなどから疑われることがあります。

低出生体重児の検査・診断

低出生体重児の診断は、出生時の体重測定によって行われます。しかし、出生前にそのリスクを評価し、適切な対策を講じるために、様々な検査が行われます。

超音波検査

胎児の大きさ、推定体重、羊水量、胎盤の状態などを評価します。また、子宮頸管長の測定も早産リスクの評価に用いられます。

胎児心拍数モニタリング

胎児の健康状態を評価します。

ドップラー超音波検査

胎盤や胎児の血流を評価し、子宮内発育不全のリスクを判断します。

母体血液検査

貧血、感染症、妊娠高血圧症候群などのリスク因子を評価します。

羊水検査

必要に応じて、胎児の染色体異常や感染症の有無を確認します。

これらの検査結果を総合的に判断し、低出生体重児のリスクが高いと判断された場合は、より綿密な管理と適切な介入が行われます。

低出生体重児の治療

低出生体重児の治療は、出生前の予防的介入と出生後の集中的なケアに分けられます。

出生前の介入

  • 早産予防のための子宮収縮抑制薬の使用
  • 胎児肺成熟促進のための母体へのステロイド投与
  • 必要に応じた抗生物質投与
  • 母体の栄養状態改善や安静管理

出生後の介入

出生後は、新生児集中治療室(NICU)での管理が中心となります。
主な治療内容には以下が含まれます。

  • 呼吸管理:人工呼吸器、持続陽圧呼吸(CPAP)、高流量酸素療法など
  • 体温管理:保育器の使用
  • 栄養管理:経静脈栄養、経管栄養、母乳育児支援
  • 感染予防と治療
  • 合併症(呼吸窮迫症候群、未熟児網膜症など)の予防と治療

さらに、退院後も継続的なフォローアップが必要で、成長発達のモニタリング、神経発達評価、視聴覚スクリーニングなどが行われます。

低出生体重児になりやすい人・予防の方法

低出生体重児になりやすい人

低出生体重児のリスクが高い人々には、若年(10代)または高齢(35歳以上)の妊婦、低体重または肥満の妊婦、多胎妊娠の妊婦、過去に早産や低出生体重児出産の経験がある女性、慢性疾患(高血圧、糖尿病など)を持つ妊婦、喫煙者やアルコール摂取者、低社会経済状態にある人々などが含まれます。また、適切な産前ケアを受けていない妊婦も、低出生体重児出産のリスクが高くなります。

予防の方法

予防法としては、まず妊娠前からの健康管理が重要です。適切な栄養摂取、葉酸サプリメントの摂取、慢性疾患の管理、禁煙・禁酒などが推奨されます。妊娠中は、定期的な産前検診の受診、バランスの取れた食事、適度な運動、ストレス管理が重要です。特に、喫煙、飲酒、薬物使用は厳に慎む必要があります。
社会的な観点からは、妊婦への教育プログラムの提供、低所得者への経済的支援、医療アクセスの改善なども重要な予防策となります。また、職場での妊婦への配慮や、地域での妊婦サポートシステムの構築なども、低出生体重児の予防に寄与する可能性があります。
これらの予防策を総合的に実施することで、低出生体重児の発生リスクを軽減し、母子の健康を促進することができます。しかし、すべてのケースで予防が可能というわけではなく、リスクを最小限に抑える努力をしつつ、万が一の場合に備えて適切な医療体制を整えておくことも重要です。


参考文献

  • World Health Organization. (2014). Global Nutrition Targets 2025: Low birth weight policy brief.
  • \ Blencowe H, et al. (2019). The Lancet Global Health, 7(7), e849-e860.
  • Saigal S, Doyle LW. (2008). The Lancet, 371(9608), 261-269.
  • Hack M, et al. (2002). New England Journal of Medicine, 346(3), 149-157.
  • Lawn JE, et al. (2014). The Lancet, 384(9938), 189-205.

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