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気象病
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

気象病の概要

気象病は、天候や気圧の変化に伴って体調不良を感じる症状の総称です。
特に、気圧の低下や湿度の変化が関与していることが多く、頭痛やめまい、体のだるさ、関節痛、耳鳴りなどの症状が現れます。気象病は「天気痛」や「気圧性不調」とも呼ばれますが正式な医学用語ではありません。季節の変わり目や台風の接近時に症状が悪化することがあります。
気象病は、誰にでも起こり得るものですが、特に気圧の変化に敏感な体質の人や、気分が落ち込みやすい人が影響を受けやすいとされています。この記事では、気象病の原因や症状、診断方法、治療法、予防策について詳しく説明します。

気象病の原因

気象病の主な原因は、気圧や温度、湿度といった天候の変化が体に与える影響です。これらの気象変動が気分に影響を与えることで、体調不良を引き起こします。

気圧の変化

気象病の主な原因として挙げられるのが、気圧の変化です。特に気圧が低下すると、体内の圧力とのバランスが崩れ、気分不良など体調不良になることがあります。気分が落ち込むと、頭痛やめまい、だるさなどの症状が現れます。

温度と湿度の変化

急激な気温の変化や湿度の上昇も、気象病の原因となります。気温が急に下がると、体温を保つために血管が収縮し、血流が悪くなることで筋肉や関節に痛みが生じることがあります。また、湿度が高いと、疲れやすくなることがあります。

気圧の変化に敏感な内耳

内耳には、体のバランスを保つための器官があり、ここが気圧の変化に敏感に反応します。気圧が急激に低下すると内耳の感覚器が異常な刺激を受け、めまいや耳鳴り、頭痛が引き起こされることがあります。特に、以前に耳の病気(中耳炎や内耳の障害など)を患ったことがある人は、この影響を強く受けることがあります。

気象病の前兆や初期症状について

気象病の前兆や初期症状は、個人差が大きく、症状の強さや種類もさまざまです。天候の変化が体に影響を与え始めると、以下のような前兆や初期症状が現れることがあります。

  • 頭痛
    気象病の中で最も多く見られる症状が頭痛です。特に低気圧が近づくと、頭が重く感じたり、こめかみや後頭部がズキズキと痛むことがあります。片頭痛を持っている人は、気圧の変化によって症状が悪化することも少なくありません。
  • めまい
  • 内耳が気圧の変化に反応することで、バランスが崩れ、めまいが生じることがあります。めまいは、ふらつくような軽いものから、立っていられなくなるほどの強いものまでさまざまです。特に台風の接近時や気圧が急に下がる時に症状が出やすいです。

  • 関節痛や筋肉痛
    気温や湿度の変化が血流に影響を与えることで、関節や筋肉に痛みを感じることがあります。特にリウマチや関節炎を持つ人は、天候の変化によって痛みが悪化しやすいです。
  • 耳鳴り
    内耳が気圧の変化に敏感に反応すると、耳鳴りを感じることがあります。耳の中で「キーン」という音が聞こえたり、圧迫感を感じることがあり、特に低気圧が近づいている時に症状が強まる傾向があります。
  • だるさや疲労感
    天候の変化に伴い、体がだるく感じたり、疲れやすくなることがあります。これは自律神経が乱れることで、体のエネルギー代謝や循環機能が低下するためです。日常の活動が普段よりも疲れるように感じる場合、気象病の可能性があります。
  • 気分の落ち込み
    気象病の影響で自律神経が乱れると、精神的にも影響を受けることがあります。気分が落ち込んだり、イライラするなどの精神的な不調が天候の変化とともに現れることがあり、特にうつ病や不安障害を持つ人は、気象病によって症状が悪化することがあるため注意が必要です。

気象病の検査・診断

気象病は、明確な診断基準がある病気ではないため、検査によって直接診断されることはありません。うつ病、片頭痛など色々な疾患ではない場合に気象病の可能性が考えられるため、気象病が疑われる場合、他の病気との区別をつけるためにいくつかの検査を行います。

問診

気象病の診断では、まず医師が患者の症状や生活習慣、天候の変化との関係について詳しく聞き取ります。特に、症状がいつ発生するか、どのような天候の時に悪化するか、症状がどの程度続くかを確認します。

耳の検査

内耳の機能が気象病に関与している場合があるため、耳の検査が行われることがあります。聴力検査や平衡感覚の検査を通じて、内耳に異常がないかを確認し、めまいや耳鳴りが他の病気によるものではないかを調べます。

血液検査

血液検査では、炎症や感染症の有無、栄養状態を確認することができます。特に、慢性的な疲労やだるさが気象病によるものかどうかを調べるために、ビタミンやミネラルの不足がないかもチェックされることがあります。

気象病の治療

気象病に対する治療は、症状の緩和を目的とします。治療法は主に生活習慣の改善と薬物療法に分かれますが、症状の程度や原因に応じて個別に対応が必要です。

生活習慣の改善

  • 体を温める
    体温を適切に保つことで、気象病の症状を軽減することができる事があります。特に寒い季節や気温が急に下がった時は、体をしっかりと温めることが重要です。温かい飲み物を飲んだり、適度な運動や入浴を行うことで血行を促進し、体調を整えましょう。
  • 運動をする
    運動はストレスの軽減と関連しています。気象病の症状には精神的なものも多く、リラックスと合わせて、運動することで、気分が安定しやすくなります。有酸素運動、筋トレ、ヨガなどを取り入れることで、心身のバランスを保つことが大切です。
  • 睡眠の質を改善する
    良質な睡眠は、気分を整える上で重要です。寝る前にリラックスする習慣を持ち、十分な睡眠を確保することで、気象病の症状が軽減されることがあります。また、就寝前にスマートフォンやテレビなどの刺激を避けることで、より深い睡眠を得られるよう心がけましょう。

薬物療法

  • 鎮痛薬
    気象病による頭痛や関節痛には、市販の鎮痛薬が使用されることがあります。鎮痛薬を服用することで、症状が一時的に緩和されますが、長期的には生活習慣の改善が必要です。
  • 抗めまい薬
    めまいや耳鳴りが強い場合には、抗めまい薬が処方されることがあります。これらの薬は、内耳の機能を調整し、めまいを軽減する効果があります。

気象病になりやすい人・予防の方法

気象病になりやすい人

気象病は、誰にでも起こり得ますが、特に以下のような人が発症しやすいとされています。

  • 気分が乱れやすい人:ストレスや生活習慣の乱れにより、気分が落ち込みやすい人は、気象病を引き起こしやすいです。
  • 耳に持病がある人:中耳炎や内耳の病気を過去に患ったことがある人は、内耳が気圧の変化に敏感で、めまいや耳鳴りを感じやすいです。
  • リウマチや関節炎を持つ人:関節炎やリウマチなどの持病を持つ人は、湿度や気温の変化によって関節の痛みが悪化しやすく、気象病の影響を受けやすいです。

予防の方法

気象病を予防するためには、日常生活の中でいくつかの対策を取り入れることが効果的です。

  • 天候に応じた対策を取る
    気圧が下がる時期や天候が不安定な日には、事前に体調管理を意識しましょう。特に、台風や低気圧が接近する際は、体を無理に動かさず、十分な休息を取ることが大切です。
  • 体を冷やさない
    冷えは気象病を悪化させる要因の一つです。寒い日には防寒対策をしっかり行い、体を冷やさないようにしましょう。また、日常的に温かい飲み物を摂取し、体の内側から温めることも効果的です。
  • 生活リズムを整える
    規則正しい生活リズムを保つことで、自律神経が安定し、気象病のリスクが減少します。早寝早起きやバランスの取れた食事、適度な運動を取り入れることが大切です。
  • 水分補給を忘れない
    天候の変化に伴って体内の水分バランスが乱れることがあります。こまめな水分補給を心がけ、脱水症状を防ぐことも気象病の予防に繋がります。
  • 運動
    ヨガやストレッチ、ウォーキングなどの運動は気分を安定させる効果があります。特に、深い呼吸を意識したリラックス効果のある運動は、気象病の予防に役立ちます。

これらの予防策を日常生活に取り入れることで、気象病のリスクを減らし、より快適な生活を送ることができます。



参考文献

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