監修医師:
高宮 新之介(医師)
シックハウス症候群の概要
シックハウス症候群はシックビルディング症候群の住居版です。
シックビルディング症候群は、特定の建物内にいる際に生じる非特異的でさまざまな健康障害を呈した状態で、建物内のある程度以上の人が症状を訴え、建物を離れると症状が改善することが多い傾向です。
また、種々の要因が重複して原因となることがあるため、環境などを詳しく調査しても原因が判明しないことがあります。
シックビルディング症候群は、主に仕事先の建物をさすため仕事が休みの日は症状が治ると言われています。
しかし、シックハウス症候群は住居のため、症状が継続することが特徴です。
シックハウス症候群は、症状の出現とともに、環境に原因があると推定されることが必要です。
また、原因が特定されているアレルギーや皮膚炎、レジオネラ細菌感染、過敏性肺炎、有機溶剤系の中毒症状などの医学的に病名がつくものは、シックビル関連病と呼ばれます。シックハウス症候群とシックビル関連病は、ともに同じ室内環境汚染が原因となって起こる可能性があります。そのため、この二つを合わせた健康障害が広義のシックハウス症候群となります。
シックハウス症候群の原因
シックハウス症候群の主な原因は、建物内部の空気の質が悪化していることに起因するとされ、特に新築やリフォーム直後の建物で報告されることが多い傾向です。
原因としては、化学物質の放出、微生物、建物の設計や換気の不十分さ、カビやダニなどが挙げられます。
具体的な原因には以下のようなものがあります。
1. 化学物質:揮発性有機化合物(VOC)、準揮発性有機化合物(sVOC)など
建物(建材、家具、接着剤、塗料)
アセトアルデヒド、アセトン、トリメチルベンゼン、ホルムアルデヒド、トルエン、キシレン、フタル酸エステル類(可塑剤、塗料、他)、リン酸トリエステル類(可塑剤、難燃剤)
生活用品・洗浄剤・化粧品
香料(リモネン・ピネン類)、防腐剤(パラベンなど)、可塑剤・芳香剤(フタル酸エステル類)
燃焼機器・タバコ
ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ノナン、デカン、オクタン、トルエン、ベンゼン、ニコチン
真菌・微生物
微生物由来揮発性有機化合物
家電
アセトン、ブタノール、トルエン、可塑剤、難燃剤
繊維製品
ノナン、デカン、ウンデカン、フタル酸エステル類(合成皮革)、難燃剤
家屋(床下)
シロアリ駆除剤(クロルピリホス、フェノブカルブ ※クロルピリホスは現在使用を禁止されています)
2. 生物、真菌
ダニ、微生物
ダニは湿度が高いところで繁殖しやすく、ダニの糞や屍骸に含まれる成分がアレルゲンになる可能性があります。
その他にゴキブリ、犬、猫、ラットなどのげっ歯類がアレルゲンとなる場合があります。
真菌(カビ)
屋内には一定量の真菌が存在します。
真菌アレルギーがシックハウス症候群の症状に関与しており、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎発症の原因となることがあります。
3. 細菌
レジオネラ・ニューモフィラ菌
屋内には、人の皮膚やペットなどに由来した細菌が存在します。特にレジオネラ菌は、空調の冷却水、循環式給湯器、加湿器等の湿潤環境で増殖し、肺炎を生じる可能性があります。感染した場合、全身倦怠感、筋肉痛、発熱、咳、呼吸困難、意識障害など主に呼吸器関連の症状が出現します。
4. 高湿度
細菌・真菌などの微生物は高湿度の環境において増殖しやすいです。窓や壁面の結露や水漏れ、洪水による浸水は微生物が繁殖しやすい環境を作ります。また、カビ臭さや視認できる真菌の汚染が生じていることは真菌増殖の指標となります。
5. その他
喫煙は影響すると言われています。タバコには数百種類の有害物質が含まれており、屋内で喫煙する人がいる家では、ホルムアルデヒドなどの化学物質の濃度が高いです。また、受動喫煙はシックハウス症候群のリスクを高める可能性があります。
シックハウス症候群の前兆や初期症状について
シックハウス症候群の症状は多岐にわたります。
また、長期間にわたって同じ建物にいると、症状が慢性化することもあります。
頭痛
特に長時間建物内にいる場合、頭痛が生じることが多いです。
目の刺激
目のかゆみ、涙目、視力の一時的な低下などの症状が報告されています。
鼻や喉の不快感:鼻詰まり、くしゃみ、喉の痛みや乾燥感が生じることがあります。
皮膚症状
皮膚のかゆみ、湿疹、乾燥などが見られることがあります。
呼吸器症状
咳、息切れ、喘鳴が現れることがあります。
集中力の低下
建物内にいる際、集中力が低下し、作業効率が悪くなることがあります。
疲労感
全身のだるさや疲労感が増すことが報告されています。
上記の症状が現れたら、発症した症状に応じて皮膚科・内科・耳鼻咽喉科などを受診しましょう。
シックハウス症候群の疑いが強いときはアレルギーを専門とする皮膚科を受診するとよいでしょう。
シックハウス症候群の検査・診断
シックハウス症候群の診断には、症状の出現と特定の建物内での滞在との関連性などを確認することが重要です。
診断基準
日本では、厚生労働省がシックハウス症候群の診断基準を示しており、これに基づいて診断が行われることが一般的です。
問診
患者さんの症状、建物内での生活や仕事の状況、症状の改善や悪化のタイミングを詳細に聴取します。
環境調査
室内空気の質を調査し、揮発性有機化合物(VOC)やホルムアルデヒドなどの濃度を測定します。
また、湿度や換気状況、真菌やダニの存在も確認します。
アレルギー検査
血液検査や皮膚試験により、特定のアレルゲンに対する感受性を評価します。
特に、真菌やダニに対する反応が確認されることがあります。
シックハウス症候群の治療
シックハウス症候群の治療は、原因物質の除去と症状の緩和が目的になります。そのためには、以下のようなアプローチが一般的です。
環境改善
揮発性有機化合物(VOC)、準揮発性有機化合物(sVOC)の放出源を特定し、これを除去するか、低減させます。
具体的には、換気を改善し、空気清浄機を使用することが推奨されます。また、カビやダニの除去も重要です。
薬物療法
症状に応じて抗ヒスタミン薬やステロイド薬が使用されます。
特にアレルギー症状が強い場合には、これらの薬物が有効になることがあります。
生活環境の見直し
症状が強い場合には、建物からの一時的な離脱や引越しが考慮されることがあります。
今日までに、シックハウス対策として、厚生労働省は化学物質の室内濃度に関する指針値を定めました。
また、国土交通省は建築基準法に、建材の内装仕上げの制限などを定めるなどの改正が行われてきました。
結果的に、新築・改築住宅のホルムアルデヒドや揮発性有機化合物濃度などの減少の効果を上げています。
①汚染の発生を抑制すること、④大気汚染の影響を抑制すること、の 4 つがあげられています(Indoor Air 2013)。従って、シックビルディング症候群・シックハウス症候群の対策としては、化学物質による 要因のみならず、湿度環境や生物学的要因を含めて原因を究明し、室内環境汚染を改善することが重 要です。
シックハウス症候群になりやすい人・予防の方法
シックハウス症候群にかかりやすい人としては、以下のような要因が関係しているとされています。
アレルギー体質の人
もともとアレルギー性鼻炎や喘息を持つ人は、シックハウス症候群に対する感受性が高い傾向があります。
免疫力が低下している人
高齢者や慢性疾患を持つ人、服薬などで免疫力が低下している人は、シックハウス症候群のリスクが高まる可能性が高いです。
化学物質に敏感な人
特定の化学物質に対して過敏な反応を示す人も、シックハウス症候群にかかりやすいです。
ストレスが多い人
ストレスが多い人も、シックハウス症候群にかかりやすいようです。
予防方法
予防方法としては、以下の方法が有効だと言われています。
換気を良くする
定期的に窓を開けて、室内の空気を外部と入れ替えることが重要です。
低VOC製品の使用
揮発性有機化合物を含まない、または含有量が少ない製品を選ぶことが推奨されています。
湿度管理
真菌やダニの繁殖を防ぐために、室内の湿度を適切に保つことが大切です。
定期的な掃除
真菌やダニを防ぐために、定期的な掃除を行い、特にカーペットや家具の下などを清潔に保つことが必要です。
関連する病気
- アレルギー性鼻炎(Allergic Rhinitis)
- 喘息(Asthma)
- アトピー性皮膚炎(Atopic Dermatitis)
参考文献