

監修医師:
林 良典(医師)
目次 -INDEX-
指骨骨折の概要
指骨骨折とは、指の骨が折れていることを指します。日常的に起こりやすい骨折ですが、適切な初期治療がされないと重篤な機能障害を残す可能性があります。
手足の指骨は、指先から末節骨、中節骨、基節骨の3つの骨から構成されています。親指には、中節骨がなく末節骨と基節骨から構成されています。
指骨骨折には、骨折と脱臼が同時に起こる脱臼を伴う骨折や腱に引っ張られて骨が剥がれる裂離骨折があります。ほかにも、特徴的な骨折パターンがあります。
指先を強く打ち付けて起こるマレット骨折(剥離骨折)や足首を捻って転倒した際に起こる下駄骨折などがあります。
指骨骨折の原因
手の指骨骨折の原因は、外部からの強い衝撃や捻る、挟むなどの強い力が働いて起きる骨折です。足の指骨骨折の原因は、指をぶつける、捻る、重いものを落とすことが原因とされています。
外傷性
指骨骨折の主な原因は外傷性の要因が多いといわれています。転倒し手をついた衝撃や、指を直接打撲することで発生します。また、ドアに指を挟むなどの日常生活のなかでも起きやすい骨折です。
骨粗鬆症
骨粗鬆症によって、骨密度が低下していると軽い外力でも骨折しやすくなります。特に、高齢者や閉経後の女性に多い原因です。
指骨骨折の前兆や初期症状について
指骨骨折の初期症状として以下の症状が見られます。
急性の痛み
骨折直後に強い痛みが生じます。特に指を動かすときに強く感じられ、患部に触れると激痛を伴うことがあります。
腫れと内出血
受傷後数分から数時間以内に指が腫れ上がり、打撲による内出血で青紫色に変色することもあります。
可動域の制限
骨折後には指を曲げたり伸ばしたりする動きが制限されます。これにより日常生活の動作に支障をきたすことがあります。
変形
骨折の重症度が高い場合は、指が曲がったり、短くなったりする明らかな変形が生じます。特に、骨がずれていると変形が顕著になります。
これらの症状が現れた際は、整形外科を受診してください。
指骨骨折の検査・診断
指骨骨折の検査・診断は、主に以下の内容が行われます。
身体診察
医師は初期評価として、以下の内容を診察します。
指の変形、腫れ、皮膚の変色などの視診と、骨折部位の圧痛や不安定性、骨のずれなどの触診を行います。また、指の関節の動きの評価や、神経・血管の状態も確認します。
特に小児では、指のカスケード評価(回転変形や冠状アライメント不良の兆候)が重要です。
画像診断
骨折の評価を詳細に行うために、以下のような画像診断を行います。
X線検査
短時間で骨折の有無や、骨のズレなどを確認できるため、最初の診断時によく使用します。指骨骨折の場合は、正面および側面の2方向からX線の撮影を行い評価します。
CT検査
X線では骨折の有無が確認できない場合や、複雑な骨折の場合など、より詳細な骨の状況を評価したい場合にCT検査が行われることがあります。CT検査を行うことで、手術の必要性や具体的な治療方法を提示するのに役立ちます。
MRI検査
骨折に伴う靭帯や腱の軟部組織の損傷や、神経や血管に骨折部位が近い場合など、より詳細に状態を評価したい場合はMRI検査を行います。
小児の骨折診断の特徴
小児の指骨骨折診断には特有の注意点があります。小児の骨は石灰化が完全でないため、X線で骨折線が見えにくいことがあります。骨膜下骨折や亀裂骨折は臨床症状から骨折が疑われる場合は、骨折として扱うことが推奨されます。また、Salter-Harris分類による骨端線(成長板)の損傷パターンの評価も重要です。
指骨骨折の治療
指骨骨折の治療は、骨折のタイプ、位置、患者さんの年齢や活動レベルなどによって異なります。大きく分けて保存療法と手術療法の2種類があります。
保存療法
骨折のずれが少なかったり、安定した骨折だったりする場合は、基本的に手術は行いません。非転位骨折や安定した骨折には以下のような固定療法を行います。なお、固定期間は、患者さんの年齢や骨折の状態によって異なりますが、通常2~6週間程度となっています。
また、固定期間は、骨に何か問題が生じていないかを確認するために、定期的にX線検査を行います。
固定方法
バディテーピングは骨折した指と隣の指をテープで固定する簡易的な方法で、軽度の安定した骨折に用いられます。アルミ副子やプラスチックキャストは、より強固な固定が必要な場合に使用されます。特定の骨折タイプには専用の装具も用いられ、例えばマレットフィンガースプリントは末節骨のマレット骨折に特化しています。
ナックルキャスト法
ナックルキャスト法は基節骨・中手骨骨折に特に有効で、MP関節を屈曲位に保持することで側副靭帯の短縮を防ぎ、隣接指とともに早期運動することで回旋変形や腱の癒着、関節拘縮を予防できます。
固定期間
固定期間は、患者さんの年齢や骨折の状態によって異なりますが、通常2〜6週間程度となっています。一般的に、末節骨の骨折は4〜6週間、中節骨と基節骨の骨折は6〜8週間の固定が必要です。小児の場合は、骨の治癒が早いため、大人より固定期間が短いことが多いです。
手術療法
骨折のズレが大きい場合や、保存療法では十分な効果が得られない場合は、以下のような手術が検討されます。
一般的な内固定術
骨折の部位、軟部組織の損傷の有無によって変わりますが、軟部組織のない骨折では、マレット骨折やPIP関節内骨折に対して、Kワイヤーを用いた固定が行われます。Kワイヤー固定は細い金属ワイヤーを用いて骨片の固定をする方法です。スクリュー固定は小さなスクリューで骨片を固定する方法で、主に中節骨や基節骨の骨折に用いられます。プレート固定は金属プレートとスクリューで骨を固定する方法で、不安定な基節骨骨折や複雑な中節骨骨折に適しています。
特殊な内固定術
特殊な固定術としては、フックプレート(腱や靭帯付着部の裂離小骨折用)、Mini hook plate(PIP関節掌側脱臼骨折用)、ヘッドレス圧縮スクリュー(アスリートの単顆骨折用)などがあります。
小児の手術治療
小児の不安定で転位のある骨折では、非観血的整復と経皮的ピン固定による治療が優先されます。開放性整復は骨端線損傷のリスクがあるため、可能な限り避けられます。
リハビリテーション
骨折の部位が安定した後に、手指足趾の機能回復を中心としたリハビリテーションを行います。初期は可動域訓練、血流改善のためマッサージや温熱療法を行います。後期では、筋力トレーニングや物をつかむなどの日常生活動作を中心に行います。
骨端線の損傷がある小児の骨折や軟部組織の損傷がある高齢者の骨折では、術後の可動域に大きな影響が残ることがあるので注意が必要です。
指骨骨折になりやすい人・予防の方法
以下の要因に該当する方は、指骨骨折を発症する可能性が高くなります。
指骨骨折になりやすい人
高齢者
加齢に伴って、筋力やバランス能力が低下し、転倒しやすくなります。特に骨粗鬆症の場合は、骨がもろくなっているため、弱い外力でも骨折する可能性があります。
女性
閉経後の女性は、ホルモンの変化により骨密度が急激に低下し、骨折の危険性が高くなります。
球技・コンタクトストポーツ
スポーツや格闘技による強い衝撃も指骨骨折の原因となります。特に格闘技では打撃による指への負担は大きな原因になります。スポーツでは、バスケットボールやバレーボールなどの球技でボールが指に当たったときの強い外力や、スキーやスノーボードで転倒した際に発生することが多いといわれています。
環境要因
地面が濡れて滑りやすい環境では、転倒のリスクが高くなり骨折の発症率も上がります。また、工場などの作業環境も環境要因としてあげられます。
予防の方法
以下の方法を実践することで、指骨骨折の発生を予防できる可能性があります。
運動
普段から足を中心に、筋力トレーニングやバランス訓練を行うことで、転倒する危険性を減らすことができます。
骨密度の管理
カルシウム、ビタミンD、タンパク質などを適切に摂取し、骨の状態を管理しましょう。また、定期的に骨密度検査を受けて、骨粗鬆症の場合は治療を受けることも重要です。
環境の安全性向上
夜間時の適切な照明の使用や、滑りやすい場所の改善、手すりの設置など、転倒の危険性を下げるために、住環境の整備を行いましょう。
参考文献
- 主題1.指骨骨折の治療
- 指節骨骨折は小児に起こる最も一般的な手の骨折
Abzug, Joshua M. MD; Dua, Karan MD; Bauer, Andrea Sesko MD; Cornwall, Roger MD; Wyrick, Theresa O. MD. Pediatric Phalanx Fractures. Journal of the American Academy of Orthopaedic Surgeons 24(11):p e174-e183, November 2016. | DOI: 10.5435/JAAOS-D-16-00199