

監修医師:
伊藤 規絵(医師)
目次 -INDEX-
筋緊張症の概要
筋緊張症は、筋肉の持続的な収縮や緊張状態を特徴とする症候群です。
この状態はさまざまな原因で引き起こされ、神経系や筋肉系の異常に関連していることが多いようです。
発症メカニズムは複雑で、神経系の過活動(中枢神経系や末梢神経系の異常な興奮が持続的な筋収縮を引き起こす可能性)や筋肉自体の異常(筋線維や筋膜の構造的変化が筋緊張を増加させる)、ストレスの影響(慢性的なストレスが筋緊張を引き起こし、痛みや不快感につながる1))など、さまざまな要因が関与していると考えられています。
主な症状には、筋肉の硬直や痛み、運動制限、姿勢の変化、疲労感があります。
診断は主に臨床症状と身体診察に基づいて行われます。筋緊張の評価は他動運動を用いて行われ、筋電図検査などの補助的検査も有用です。
治療は原因に応じて個別化されますが、一般的には、薬物療法(筋弛緩薬や鎮痛薬の使用)や理学療法(ストレッチングや筋力トレーニング)、リラクセーション(ストレス管理や瞑想)などのアプローチが取られます。
筋緊張症は複雑な病態を持つ症候群であり、多角的なアプローチによる管理が必要です。今後の研究により、より効果的な治療法の開発が期待されています1)。
筋緊張症の原因
原因は複雑で多岐にわたりますが、主に神経系の異常と筋肉系の問題が関与しています。
神経系の要因
中枢神経系や末梢神経系の異常な興奮が持続的な筋収縮を引き起こす可能性があります。特に、錐体外路系の障害が筋緊張の異常を引き起こすことがあります。これは、大脳基底核などの神経核の機能不全によって生じる可能性があります。
筋肉系の要因
筋線維や筋膜の構造的変化が筋緊張を増加させることがあります。また、持続的な筋緊張は固有感覚の過活動を引き起こし、脊髄のミクログリアを活性化させることで慢性的な筋痛を引き起こす可能性があります3)。
ストレスの影響
慢性的なストレスが筋緊張を引き起こし、痛みや不快感につながることがあります1)。ストレスによる一部の筋の持続的な緊張は、姿勢維持に働く筋の固有感覚の過活動を引き起こし、脊髄内の神経炎症を誘発する可能性があります3)。
これらの要因が複雑に絡み合って筋緊張症を引き起こすと考えられています。
筋緊張症の前兆や初期症状について
主に筋肉の異常な緊張や弛緩に関連しています。
筋肉の異常な緊張として、握った手が開きにくくなる、まぶたが開きにくくなる、固い物が噛みにくくなるなどがあります2)4)。
運動機能の変化では、転びやすくなる、寝返りをしないなど身体の動きが少なくなる、支えなしで座れないなど、成長に合わせた動きが見られないなどがあります6)。
また、その他の症状として、舌や指先が細かく震えることや、身体がやわらかくなり、マシュマロのようなやわらかさになる(筋緊張低下の場合)、手や足を振ったときに、力が入らず大きく動くなどがあります6)。
これらの症状は、筋緊張症の種類や原因によって異なる場合があります2)。また、症状の現れ方や程度には個人差があり、乳児期から気付かれることもあれば、成人になってから発症することもあります2)。早期発見のためには、これらの症状に注意を払い、異常を感じた場合は速やかに専門医の診察を受けることが重要です。
筋緊張症の病院探し
脳神経内科(または神経内科)や小児科、整形外科などの診療科がある病院やクリニックを受診していただきます。
筋緊張症の検査・診断
主に臨床症状の評価と補助的検査を組み合わせて行われます。
臨床評価
視診と触診
静止時の筋緊張を評価します。筋のボリューム、異常な動き、長さ、肢位を視診で確認し、触診では筋の弾性を評価します。筋硬度計を用いることもあります2)。
他動運動評価
筋を他動的に伸張させ、抵抗感を評価します。ゆっくりとした動作と速い運動の両方で行い、抵抗の差や抵抗を感じる関節角度を確認します5)。
動作時評価
歩行や上肢屈伸などの動作時の筋緊張を評価します。肢位の異常や動作速度を確認します5)。
定量的評価
MAS (アシュワーススケール変法:Modified Ashworth Scale)
筋緊張の程度を6段階で評価する代表的な方法です。関節を他動的に動かし、筋緊張の程度を0から4までのグレードで評価します7)。
深部腱反射検査
筋肉の伸張反射を利用して筋緊張の状態を調べます。反射の程度を5段階で評価します。
補助的検査
筋生検
確定診断には筋生検による筋病理検査が重要です。特徴的な所見から、ネマリンミオパチーやセントラルコア病などの病型を識別します6)。
遺伝子検査
先天性ミオパチーの原因遺伝子の変異を同定することで、診断の確定に役立ちます6)。
画像検査
骨格筋のCTやMRIで萎縮や異常信号輝度を確認します6) 。
これらの検査結果と臨床症状を総合的に評価し、筋緊張症の診断を行います。診断基準には、筋力低下や筋緊張、腱反射の亢進・低下などの臨床症状と、特徴的な筋病理所見や遺伝子変異の同定が含まれます。
筋緊張症の治療
症状の程度や原因に応じて多角的なアプローチが取られます。
薬物療法
全身の筋緊張が強い場合に経口筋弛緩薬が用いられます。主な薬剤には、ジアゼパム(抗不安・鎮静作用も有する)やチザニジン(中枢性のアドレナリンα2作動効果を持つ)、エペリゾン(脊髄反射を抑制し、γ(ガンマ)系に作用)、ダントロレン(筋肉に直接作用し、収縮力を弱める)などがあります8)。
局所治療
ボツリヌス療法が用いられることがあります。この治療は、神経筋接合部でアセチルコリンの放出を抑制し、筋肉の過剰な収縮を緩和させ、筋弛緩を促します。効果は4〜6ヶ月持続し、定期的な治療が必要です8)。
外科的治療
脊髄性筋弛緩薬として、バクロフェン髄腔内投与療法があります。この治療は、ポンプを体内に埋め込み、脊髄周囲に薬液を直接送ります。全身性の強い筋緊張がある場合に適用されます8)。
リハビリテーション
筋の柔軟性を維持・改善することが期待されます。
筋緊張症になりやすい人・予防の方法
筋緊張症になりやすい人には、以下のような特徴があります。
遺伝的要因を持つ方
特定の遺伝子変異を持つ方は、筋緊張症のリスクが高くなります。例えば、Duchenne/Becker型筋ジストロフィーは男児や、福山型筋ジストロフィーなどです。
神経系の疾患を持つ方
脳卒中や脳性麻痺、急性脳症などの中枢神経障害を持つ方は、筋緊張症を発症するリスクが高くなります。
自己免疫疾患を持つ方
重症筋無力症などの自己免疫疾患を持つ方は、筋力低下や筋緊張の異常を引き起こす可能性があります。
新生児や幼児
多くの筋緊張症は新生児や幼児期に発症します。特に、発達段階で筋緊張の異常が見られる場合は注意が必要です。
特定の症候群を持つ方
ダウン症候群やプラダー・ウィリ症候群、エーラス・ダンロス症候群などの染色体や遺伝子の異常を持つ方は、筋緊張低下のリスクが高くなります。
姿勢や運動に課題がある子ども
まっすぐ立つことが難しかったり、椅子に座っていても姿勢が崩れやすかったりする子どもは、筋緊張に課題がある可能性があります。
これらの特徴を持つ方は、筋緊張症のリスクが高くなる可能性があるため、早期の診断と適切な管理が重要です。
予防方法としては、ストレス管理(リラクセーション技法の実践や十分な睡眠と休息)や適度な運動(ストレッチングの定期的な実施、バランス訓練や筋力トレーニングなど)、姿勢改善(作業者の身体的特徴や作業内容に合わせて、効率的で快適な作業空間を設計するエルゴノミクスに配慮した作業環境の整備、定期的な姿勢チェックと修正など)、環境調整(自宅や職場での安全な環境づくり、手すりの設置など必要に応じた補助具の活用)、そして、定期的な健康チェックによる神経系疾患の早期発見と管理です。
これらの予防法を日常生活に取り入れることで、筋緊張症のリスクを軽減できる可能性があります。個人の状態に応じて、適切な方法を選択することが重要です。
参考文献
- 1) ストレス下での持続的な筋緊張が慢性的な痛みにつながる仕組みを解明 ~筋痛性脳脊髄炎/線維
- 2) 筋緊張 の 評価 と治療
- 3) 線維筋痛症における慢性疼痛発症メカニズムの解明 ~固有感覚異常による疼痛誘導とミクログリアによる疼痛記憶~ – 名古屋大学研究成果情報
- 4) 筋疾患分野|筋強直性ジストロフィー(筋緊張性ジストロフィー)(平成22年度)
- 5) 筋緊張異常とリハビリテーション
- 6) 先天性ミオパチー(指定難病111)
- 7) 痙縮(痙性麻痺)
- 8) https://kcmc.kanagawa-pho.jp/data/media/08_taiinzaitaku/2023kennshyuukai/2023.pdf