

監修医師:
岡田 智彰(医師)
目次 -INDEX-
変形性肘関節症の概要
変形性肘関節症とは変形性関節症のひとつで、肘関節の関節軟骨がすり減ってしまい、骨が関節面にむき出しとなり、内側に過剰な骨の突起(骨棘)ができる疾患です。骨棘が出っ張り隣接する骨にぶつかるため、物理的に関節の動きを制限してしまいます。さらに進行すると、骨棘が折れてかけらとなり、関節内の遊離体(関節ネズミ)となって引っかかり、ロッキング(急に屈伸すると、ある角度で肘が動かない固まった状態で、少しでも動かそうとすると激痛を生じる症状)の原因となります。
変形性関節症の発症には、いくつかの異なる生物学的プロセスを原因とし、さらにそれらがほかの危険因子と協調して作用してしまうことで、症状の出現を促すと考えられています。肘関節は膝関節のような体重の圧力はかかりませんが、曲げている状態から伸ばしている状態になるとき、関節軟骨に圧力がかかります。
変形性肘関節症の原因
変形性肘関節症の主な原因は肘の酷使やケガです。主な原因により関節軟骨がすり減ってしまうことで骨同士がぶつかりやすくなり、痛みが出たり骨が変形したりします。
スポーツや重労働、肘関節内骨折などの肘関節外傷、関節炎などが原因として挙げられます。また、変形性肘関節症を発症するリスクは、肘の損傷状態、肘に加わる圧力、肘の外傷の状態によって異なります。
また、変形性肘関節症は老若男女を問わず罹患する可能性がありますが、加齢に伴い発症するリスクは高まるため注意が必要です。
変形性肘関節症の前兆や初期症状について
変形性肘関節症の前兆や初期症状は軽度であることが多く、日常生活に影響が及ばないこともあり得ます。
なお、変形性肘関節症には以下のような症状があります。
運動時痛
肘を動かす際に痛みが強くなり、安静時では痛みが軽減します。
可動域の制限、ロッキング
肘の屈伸の動きが制限され、手が口に届かないなど日常生活動作に支障がでます。ロッキングとは、ある角度で肘が固まり動かせない状態で、少しでも動かそうとすると激痛を生じます。
肘部管症候群
変形性肘関節症が進むと肘内側を走行する尺骨神経が圧迫されて麻痺することがあり、薬指の半分と小指の感覚が鈍くなり、手指の動きが不自由になります。
なお、外傷後関節炎を起こした患者さんは全可動域にわたって痛みを経験します。もし長引く痛みがあるならば、おそらく晩期症状でしょう。変形性肘関節症の症状を放置してしまうと、病状が進行して症状が悪化することがあるため、早めに整形外科を受診しましょう。
変形性肘関節症の検査・診断
変形性肘関節症では、X線(レントゲン)やCT検査の画像診断で病状を評価します。また、職業歴、スポーツ外傷の有無、外傷歴、ロッキングのエピソードと変形性肘関節症の症状があれば本疾患を疑います。
X線検査では関節の隙間(関節裂隙)が狭くなり、骨棘形成、橈骨頭の肥大、軟骨下骨の硬化像を確認することが可能です。骨棘は鉤状突起と肘頭周囲や腕尺関節内側に多くみられます。肘関節内に「関節内遊離体(関節ネズミ)」と呼ばれる、骨や軟骨の一部が剥がれてかけらとなり、自由に動き回るようになったものがみられることもあります。CT検査は骨棘や遊離体の位置・大きさなどを把握するために有効です。もし、肥大した骨棘がなく、関節腔の狭小化が激しい場合は、典型的には炎症性関節炎が考えられます。
変形性肘関節症は整形外科を受診し、検査は問診をしてもらうことで診断されるため、肘に違和感がある方は早めに整形外科を受診してみてください。
変形性肘関節症の治療
変形性肘関節症の治療には「保存療法」と「外科手術」の2種類があります。それぞれ解説します。
保存療法
変形性肘関節症の保存療法には、以下の方法があります。
- 三角巾、シーネ・装具を用いた安静・外固定
- 消炎鎮痛剤や関節内に注射をする薬物療法
- 温熱療法・レーザーなどを用いたり、筋力トレーニング・ストレッチングなどの理学療法
変形性肘関節症の初期段階では、外科手術を必要とせずに保存療法で対応することが一般的です。肘を曲げて、口に手が届き、トイレの始末ができるなど日常生活に支障がなければ、保存療法が行われます。
外科手術
変形性肘関節症の症状が日常生活に支障をきたすときには、可動域の改善と疼痛の軽減を目的とした外科手術が行われます。手術方法は直視下で行う方法と関節鏡視下で行う方法があります。手術では、骨棘・滑膜の切除と関節内遊離体の摘出術が行われます。
変形性肘関節症になりやすい人・予防の方法
変形性肘関節症になりやすい人の特徴、予防の方法や悪化しないための方法について解説します。
変形性肘関節症になりやすい人
変形性肘関節症になりやすい人は以下のとおりです。
- 日常的に腕を酷使する大工や、削岩機・チェーンソーなど振動する機材を扱う職業
- 重量挙げの選手
- バレーボール、ゴルフ、テニス、野球などのスポーツ選手
- ラグビーや格闘技のような競技者同士が接触するスポーツ選手
- 体操選手
- 過去に肘のケガをしたことがある人など
上記で変形性肘関節症のリスクが高いのは、腕を酷使する職業や重量挙げなどを行う人です。理由としては、日常的に機械的なストレスを受けることで、肘への負担が大きくなるからです。そのため、腕を上げた状態で仕事やスポーツを行う人は変形性肘関節症を発症するリスクがあるため注意が必要です。
また、バレーボール、ゴルフ、テニス、野球選手の投球やスイングは繰り返しの屈伸運動によって変形性肘関節症になるリスクがあります。また、ラグビーや格闘技のような接触するスポーツや体操のようなスポーツでも、軸圧という重みがかかり潰されるような力によって関節が損傷することがあるので注意が必要です。
変形性肘関節症の予防方法
変形性肘関節症には、以下の予防方法があります。
- 肘の損傷を避ける
- 肘の筋力低下を避ける
- 肘関節が不安定になることを避けるなど
変形性肘関節症の予防には、危険因子を避け、筋肉量を増やし、全体的な機能を高める運動が重要であると考えられています。また、変形性肘関節症が疑われる場合、肘の損傷や肘関節が不安定になることを避けるため、投球動作などは数ヶ月の休養をとることが望ましいとされています。
参考文献