

監修医師:
岡田 智彰(医師)
目次 -INDEX-
先天性内反足の概要
先天性内反足は、基礎疾患を伴わない特発性のものと、基礎疾患を伴うものに分けられます。特発性先天性内反足は、特定の病気を伴わずに足部のみが変形するもので、一般的に「先天性内反足」と呼ばれるのはこちらを指します。一方、基礎疾患を伴う内反足には、二分脊椎など神経系の麻痺性疾患によるものや、多発性関節拘縮症など全身性の異常によるもの、先天性脛骨欠損症など骨の先天異常によるものがあります。いずれの場合も、足部には内反、尖足、凹足、前足部内転という4つの特徴的な変形が複合的に現れ、足全体が内側を向いた状態を示します。このような変形は早期の診断と適切な治療によって改善が期待されます。
先天性内反足の原因
先天性内反足の原因は、現在のところ明確には分かっていませんが、いくつかの要因が関与していると考えられています。以下はその主な説です。
先天性内反足の原因と考えられる主な説
- 子宮内の圧迫説
妊娠中に子宮内での胎児の位置が原因で足が圧迫され、形が変わってしまうという説です。 - 発育途中での停止説
胎児が成長する過程で足の発達が途中で止まることが原因とされる説です。 - 距骨(かかとの骨)の異常説
距骨という骨を形成する細胞に異常が生じ、それが原因で足の形が変わるとする説です。 - 遺伝子の影響説
遺伝子の異常が関係している可能性があります。遺伝的な要素が影響していると考えられていますが、具体的な遺伝子はまだ特定されていません。骨や筋肉の発達に関与する遺伝子(HOX遺伝子、PITX1-TBX4など)や、細胞の死(アポトーシス)に関係する経路が影響している可能性が示唆されています。 - ふくらはぎの筋肉とアキレス腱の短縮説
ふくらはぎの筋肉やアキレス腱が短いために足の骨の並びが異常になり、変形が起こるとされています。
これらの説から、先天性内反足はさまざまな要因が絡み合い、胎児期の早い段階で正常な成長過程から外れることで起こると考えられています。
先天性内反足の前兆や初期症状について
ほとんどの先天性内反足は、赤ちゃんが生まれたときに足が変形していることで発見されます。そのため、前兆というよりも、出生直後に明らかな症状として現れます。
主な初期症状
先天性内反足では、以下の4つの特徴的な足の変形が複合的に見られます。
- 後足部内反
かかとが内側に傾いている状態。 - 尖足
足首が下を向いた状態(つま先立ちのような形)。 - 凹足
足の甲が高くなり、アーチ(土踏まず)が強調されている状態。 - 前足部内転
足の前の部分が内側に曲がっている状態。
これらの変形により、足全体が内側を向き、足の甲が前方を向いているように見えます。また、後足部と前足部の位置関係がねじれており、明らかな形状の異常が確認できます。気になる症状がある場合は、小児科または整形外科で受診しましょう。
先天性内反足の検査・診断
先天性内反足は、生まれてすぐに足の形が明らかに変形していることで診断されることが多い疾患です。その診断のポイントを以下に分かりやすくまとめました。
診断のポイント
- 臨床的診断
特徴的な足の変形:後足部内反、尖足、凹足、前足部内転という4つの特徴が組み合わさって見られます。
足の位置の異常:足のうらが内側を向き、足の甲が前方に急角度で曲がった形となります。
足関節の硬さ:足を正常な位置に動かそうとしても矯正が難しく、足首が上に動かせない状態(背屈制限)が見られます。 - 鑑別診断
子宮内肢位遺残との違い:一時的な胎内での姿勢が原因で足が曲がっているだけの場合は、簡単に正常な位置に短期間で矯正できますが、先天性内反足では矯正が困難です。
内転足との違い:内転足は足の前方部分だけが内側に曲がる変形で、足首の動きに制限がない点が異なります。大抵の内転足は経過観察で自然に矯正されます。 - 画像診断
X線検査:足の骨の発達具合を見ることができますが、乳児では足の骨が完全に形成されていないため情報が限られることがあります。
追加の検査:必要に応じて、超音波検査やMRI検査が行われることがあります。 - 重症度の評価
初診時にDimeglioスコアという評価方法を用いて、足の変形の重症度を測定する場合があります。 - 合併症のチェック
特発性(原因不明)の場合が多いですが、二分脊椎などほかの疾患が関連している場合もあります。そのため、全身の状態や他の先天性の合併症がないかを確認します。
先天性内反足の治療
先天性内反足は、生後早期からの適切な治療により、多くのケースで正常な足の機能が得られる疾患です。現在の標準治療はPonseti法と呼ばれる保存的治療であり、できるだけ手術を避けることが目標です。以下に治療法をわかりやすくまとめました。
Ponseti法(保存的治療)
Ponseti法は、以下の3つのステップで進められます。
- マニピュレーションとギプス固定
凹足(足の甲が高く曲がる変形)を矯正し、前足部を外側に回す動きを加えながらギプスで固定します。
ギプスは5~7日ごとに巻き替えられ、数ヶ月継続します。
矯正が進むと、足首やかかとを本来の正常な方向へ近づけることができます。 - アキレス腱の皮下切腱
足首の動きが十分に得られない場合、アキレス腱を小さく切る手術を行います(局所麻酔または全身麻酔)。この施術により効果的な矯正が可能になります。
手術後はギプスでさらに3週間固定し、足首の柔軟性を保ちます。 - 装具療法
ギプス治療終了後、再発を防ぐためにデニス・ブラウン装具という特殊な装具(足を外側に広げた状態で固定するバー付きの靴)を装着します。
装具はハイハイや歩行開始までは1日23時間、その後靴型装具を着用し、デニス・ブラウン装具夜間と昼寝時のみとする方針が多用されます。約4歳頃まで続けた後、通常の靴に専用の足底板(インソール)を入れた生活を成長終了まで継続します。
観血的治療(手術)
Ponseti法で十分な矯正が得られない場合や、再発した場合には手術が必要となることがあります。
- 軟部組織解離術:足の腱や靭帯を整えて形を矯正します。
- 骨切り術:骨の形状を修正して足の正常な位置を作ります。
ただし、手術は後遺症(瘢痕や関節の動きの制限)を残す可能性があるため、その決定は慎重に行われます。
治療の目標
- 足底接地可能な状態を作る
→ 足全体で地面に接することができ、日常生活に支障がない足を目指します。 - 再発の防止
→ 長期的な装具療法や家族の協力が重要です。
先天性内反足になりやすい人・予防の方法
なりやすい人
先天性内反足は、いくつかの要因が関係して発症します。
- 人種
発生頻度には人種差があり、以下のような傾向があります。
白人:1,000人に1人
黒人:白人の約3~4倍
ポリネシア人:白人の約6~7倍(1,000出生あたり約7人)
日本人:0.5~0.6人/1,000人(2,000出生に1人程度) - 性別
男児に多く発症し、男女比は約2:1です。 - 家族歴
兄弟や双子、家族性の発症が見られ、その発生頻度は通常の10-20倍になると言われていることから、遺伝的要因の関与が考えられています。しかしながら、原因となる具体的な遺伝子は特定されていません。 - 合併症
先天性内反足は他の先天異常を伴うことがあります。例えば:
染色体異常
非染色体異常
多発性先天異常
予防法
先天性内反足は、発生原因が複数の要因により複雑に絡み合っているため、現在のところ明確な予防法は確立されていません。
関連する病気
- ポンペ病
- 神経筋疾患
- 股関節脱臼
参考文献
- 薩摩眞一,小林大介,康 暁博:Ponseti 法による先天性内反足の治療経験.日小整会誌 14:12-16,2005
- 町田治郎:先天性内反足と外反足.周産期医学 46 (増):859–861,2016
- 薩摩眞一,小林大介,衣笠真紀,他:先天性内反足に対するPonseti法の初期治療成績―Ponseti法導入前の治療群と比較して―.日小児整形会誌19:394–397,2010