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骨パジェット病
井林雄太

監修医師
井林雄太(井林眼科・内科クリニック/福岡ハートネット病院)

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大分大学医学部卒業後、救急含む総合病院を中心に初期研修を終了。内分泌代謝/糖尿病の臨床に加え栄養学/アンチエイジング学が専門。大手医学出版社の医師向け専門書執筆の傍ら、医師ライターとして多数の記事作成・監修を行っている。ホルモンや血糖関連だけでなく予防医学の一環として、ワクチンの最新情報、東洋医学(漢方)、健康食品、美容領域に関しても企業と連携し情報発信を行い、正しい医療知識の普及・啓蒙に努めている。また、後進の育成事業として、専門医の知見が、医療を変えるヒントになると信じており、総合内科専門医(内科専門医含む)としては1200名、日本最大の専門医コミュニティを運営。各サブスぺ専門医、マイナー科専門医育成のコミュニティも仲間と運営しており、総勢2000名以上在籍。診療科目は総合内科、内分泌代謝内科、糖尿病内科、皮膚科、耳鼻咽喉科、精神科、整形外科、形成外科。日本内科学会認定医、日本内分泌学会専門医、日本糖尿病学会専門医。

骨パジェット病の概要

骨パジェット病は、骨代謝(リモデリング)が乱れることで骨が弱くなり変形する病気です。
通常、骨では破骨細胞が古い骨を壊し、骨芽細胞が新しい骨を作る代謝が行われていますが、この病気では「骨吸収」と「骨形成」のバランスが崩れて、骨が弱くなってしまいます。
日本では100万人あたり2.8人と稀な病気ですが、欧米では比較的多く見られ、米国では40歳以上の約1%が罹患しています。治療は薬物療法が中心で、骨の過剰な吸収を抑える薬を使用します。完治は難しいものの、早期発見と適切な治療により症状の進行を抑えることが期待できます。

骨パジェット病の原因

骨パジェット病が発生するメカニズムとしては、以下のように考えられています。健康な骨では、古い骨を壊して新しい骨を作る「骨代謝(リモデリング)」が絶えず行われています。具体的には、古い骨を壊す破骨細胞と、新しい骨を作る骨芽細胞によって、骨は常に新しく生まれ変わっています。
骨パジェット病では、特定の部位で骨を壊す働きが異常に活発になり、それを補うように骨を作る働きも過剰になります。その結果、骨の微細な構造が変化し、骨が膨らんで変形するとともに、その部分の骨が弱くなってしまいます。
しかしながら、骨を壊す働きが異常に活性化する原因は未だ解明されていません。現在のところ、骨パジェット病の発症には、主に遺伝的要因とウイルス感染の2つが関与していると考えられています。

遺伝的要因

遺伝的要因としては、破骨細胞の活性化に関わる遺伝子の変異が確認されています。特に家族性や若年性の骨パジェット病では、全身の骨が広範囲に侵される傾向があり、症状も重くなりやすいことがわかっています。若年性の場合は、筋障害や認知症を伴うことがあります。指定難病である筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者さんでも、骨パジェット病の遺伝子異常が見つかることがあります。

ウイルス感染

ウイルス感染については、麻疹ウイルスの関与の報告があります。麻疹ウイルスに感染すると、破骨細胞のビタミンD受容体の感受性が高まり、活性型ビタミンDの影響で破骨細胞が増加して骨の吸収が促進されると考えられています。

骨パジェット病では、このように原因についての研究は進んでいますが、まだ完全には解明されていません。

骨パジェット病の前兆や初期症状について

骨パジェット病は初期段階では症状がないことが多く、気がつきにくい病気です。症状が現れてもほかの疾患との見分けがつきにくく、早期発見が難しくなっています。

骨パジェット病の主な症状は骨の痛みと変形です。頭蓋骨、顎、鎖骨などの目立つ部分が腫れて大きくなったり、太ももの骨が曲がったりします。
骨パジェット病では、その症状が現れる部位によってさまざまな問題が起こります。

手足の骨:骨折しやすくなる
顎の変形:歯のかみ合わせが悪くなったり、口が開きにくくなったりする
頭蓋骨の変形:頭痛や難聴、視力障害といった症状が現れる可能性がある。これは頭蓋骨の肥厚により神経が圧迫されるためである。
背骨の肥大化:脊柱管が狭くなって神経の障害を引き起こすこともある

若年性の骨パジェット病は全身の骨に影響が出やすく、高齢者に比べて変形や機能障害が重くなります。特に認知症など他の症状を伴う場合は、日常生活への支障がより大きくなります。

また、日本での調査によれば、骨パジェット病の患者さんの約1.8%に、骨肉腫や悪性線維性組織球腫などのがんが発生することが報告されています。

これらの症状は骨粗鬆症などほかの病気でも見られることもありますが、骨の痛みや変形など気になる症状がある場合は、早めに整形外科、内分泌内科で診察を受けることが推奨されます。

骨パジェット病の検査・診断

骨パジェット病の診断は、問診や血液検査、画像検査など複数の検査結果を組み合わせて総合的に判断します。
まず、骨の痛みや変形、神経の症状について詳しく問診と診察を行います。血液検査では骨代謝の指標となる血清アルカリホスファターゼ(ALP)値を測定します。骨パジェット病では約9割の人でALP値が上昇すると報告されています。

画像検査も重要な診断方法です。X線検査では骨の広がりや変形などの特徴的な変化を確認します。さらに詳しい評価が必要な場合は、CTやMRI検査を行うこともあります。
また、画像検査でも診断が難しい場合には、病変部の組織を採取して顕微鏡で調べる病理検査を行うこともあります。

骨パジェット病の明確な診断基準はまだ確立されていませんが、これらの検査結果と症状を総合的に判断して診断を行います。骨粗鬆症や変形性関節症など、似た症状を示す病気との区別も重要です。

骨パジェット病の治療

骨パジェット病の根本的な治療方法は、現在のところ見つかっていません。骨パジェット病の治療は症状や進行度に応じて選択されますが、症状を緩和することを目的としています。
骨パジェット病の治療は薬物療法が中心であり、主にビスフォスフォネート薬が使用されます。この薬は、骨吸収抑制作用があり、異常な骨代謝を正常化する効果が期待できます。
また、骨の痛みを和らげるために必要に応じてイブプロフェンなどの鎮痛剤が処方されます。

薬物療法に加えて、理学療法も行うことがあります。理学療法では、日常生活の動作を楽にするための運動指導を受けたり、必要に応じて杖や専用の靴などの補助具を使用したりします。
また、骨折や重度の変形、関節の損傷がある場合は手術を行うことがあります。手術では骨折の修復や変形した骨の矯正などを行います。

骨パジェット病になりやすい人・予防の方法

骨パジェット病は、主に欧米人、特にアングロサクソン系の人々に多く見られることがわかっており、米国では40歳以上の1%が罹患しています。これに対して、日本では骨パジェット病は100万人あたり2.8人と稀な病気です。また、日本の患者さんの90%以上が45歳以上で、24歳以下での発症は極めて少ないことがわかっています。日本では家族内で発症する割合が6.3%と、欧米の15~40%に比べてかなり低いこともわかっています。これらのことから、日本で若いうちから症状が出る骨パジェット病は珍しいと言えます。ただし、珍しいために見過ごされている可能性もあり、さらなる研究による実態解明が期待されています。

遺伝的な要因が関係していることは分かっていますが、具体的な予防法は現在のところ確立されていません。なお、一般的な骨の健康維持のためには、バランスの良い食事でカルシウムやビタミンDを十分に摂取することが推奨されます。

骨パジェット病は早期発見と適切な治療により、症状の進行を抑え、合併症のリスクを減らすことができます。骨の痛みや変形など気になる症状があれば、早めに医療機関を受診するようにしましょう。


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