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ウルリッヒ病
田頭 秀悟

監修医師
田頭 秀悟(たがしゅうオンラインクリニック)

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鳥取大学医学部卒業。「たがしゅうオンラインクリニック」院長 。脳神経内科(認知症、パーキンソン病、ALSなどの神経難病)領域を専門としている。また、問診によって東洋医学的な病態を推察し、患者の状態に合わせた漢方薬をオンライン診療で選択する治療法も得意としている。日本神経学会神経内科専門医、日本東洋医学会専門医。

ウルリッヒ病の概要

ウルリッヒ病は、生まれつき筋力低下や関節の異常がみられる疾患で、先天性筋ジストロフィーのひとつに分類されています。

筋ジストロフィーとは、筋肉が壊れやすく、再生されにくいという症状をもつ遺伝性の筋疾患の総称です。ウルリッヒ病は先天性筋ジストロフィーに分類されますが、筋ジストロフィーにみられるような筋肉の壊死や再生の変化はあまりみられず、筋ジストロフィーとは異なる病態があるとする見方もあります。

ウルリッヒ病では、生まれたときから力が弱い、肘や膝の関節が固くてまっすぐに伸ばせない、一方で手首や手指の関節は過度にやわらかく、通常では曲げられないところまで曲がってしまう、などの特徴的な症状がみられます。
10歳頃には自力で歩行できなくなる例が多く、総じて予後不良の重い疾患として知られています。ただし、進行の速さや症状の重症度には個人差があり、20歳を過ぎても歩行できる例も報告されています。
症状が進行すると、呼吸筋の筋力低下により、人工呼吸器が必要になる場合もあります。

ウルリッヒ病は遺伝子の変異により発症すると考えられていますが、くわしい発症メカニズムはまだ明らかになっていません。さまざまな研究が進んでいるものの、有効な治療手段や予防方法も確立されていません。日本では約300人の患者がいるとされており、先天性筋ジストロフィーでは、「福山型先天性筋ジストロフィー」についで2番目に多い疾患とされています。

ウルリッヒ病

ウルリッヒ病の原因

ウルリッヒ病は、「Ⅵ型コラーゲン」というタンパク質の形成に関わる遺伝子(COL6A1、COL6A2、COL6A3)に変異や欠損が生じて発症するものと考えられています。

Ⅵ型コラーゲンは細胞外に存在するタンパク質で、心筋や骨格筋などを含むあらゆる場所に存在し、組織同士の結合や支持などの重要な役割があると考えられています。遺伝子変異により、Ⅵ型コラーゲンが完全につくられない、あるいは十分につくられない場合、筋力が低下したり関節に障害がでたりします。
しかし、なぜこのようなことが起こるのかくわしいメカニズムについては明らかになっていないことが多く、研究が進められています。

ウルリッヒ病の前兆や初期症状について

ウルリッヒ病では、生まれたときから筋力の低下がみられることが多いです。具体的には、泣き声が弱かったり、ミルクや母乳を飲む力が弱かったりするほか、呼吸がうまくできない場合があります。母親の妊娠中から胎動が少ないことも多く、胎動の少なさがウルリッヒ病を疑うきっかけとなることもあります。

関節の症状では、肘や膝の関節が固くなり、まっすぐに伸ばせない(近位関節の拘縮)状態がみられる一方、手首や手指の関節が異常にやわらかく、通常では曲げられないところまで曲がってしまう(遠位関節の過伸展)といった特徴的な症状があります。

寝返りやつかまり立ち、ひとり歩きなどの運動発達が遅れることが多く、重症の場合、まったく歩くことができない場合もあります。こうした運動発達の遅れにより、1歳前後までにはウルリッヒ病の診断を受ける例が大半です。

また、生まれつき股関節を脱臼している例や、かかとが後ろ側に突き出した状態(踵骨突出)がみられる例があります。皮膚の傷が治りにくく、ケロイド化しやすいという特徴もみられます。

歩行が可能な場合でも、転びやすく、自力で起き上がるのに時間がかかったり補助が必要になったりすることが多く、一般的には10歳前後で車いすが必要になることが多いです。10歳を過ぎると、背骨が変形する側弯症が起こりやすくなり、さらに呼吸筋の筋力低下によって呼吸機能が低下し、人工呼吸器が必要になる場合もあります。

なお、ウルリッヒ病では運動発達の遅れはみられるものの、知的発達には影響を与えないと考えられています。

ウルリッヒ病の検査・診断

ウルリッヒ病の診断は、臨床症状や筋肉の組織をみる検査(筋生検)、遺伝子検査によって行われます。

筋力の低下や関節の異常(近位関節の拘縮、遠位関節の過伸展)といった特徴的な症状によりウルリッヒ病が疑われる場合、筋生検や遺伝子検査を行います。

筋生検は、筋肉組織を直接採取して顕微鏡でくわしく観察する検査です。これにより、筋組織の異常がないか、Ⅵ型コラーゲンの欠如がないかなどを確認します。

遺伝子検査で、ウルリッヒ病の原因となるⅥ型コラーゲンの形成に関わる遺伝子(COL6A1、COL6A2、COL6A3)の変異が確認された場合、ウルリッヒ病の診断が確定します。

これらの検査は、ほかの筋ジストロフィーの可能性を除外するにも有用な検査です。

ウルリッヒ病の治療

現時点でウルリッヒ病を根本的に治すような治療法は見つかっておらず、リハビリテーションなどの保存的な治療が中心となります。関節が固くなって伸ばせなくなったり、背骨が曲がったりする症状の進行を予防し、筋力を保つために、できるだけ早い段階からリハビリテーションがおこなわれます。

呼吸筋の力が弱まって呼吸機能が低下すると、命にかかわる危険があるため、呼吸機能を定期的にモニタリングすることが重要です。必要に応じて人工呼吸器を導入し、呼吸をサポートする治療が行われます。食事が十分にとれない場合には、「胃ろう」の手術が行われることもあります。

ウルリッヒ病のリハビリテーションでは、関節の可動域を維持するための訓練、背骨の変形(側弯)を予防するための座り姿勢の指導などが行われます。また、筋肉や胸郭が固くなることで起こりやすい呼吸障害を防ぐため、肺や胸郭のしなやかさを維持するリハビリテーションも取り入れられることがあります。

ウルリッヒ病になりやすい人・予防の方法

ウルリッヒ病は先天性疾患の1つでもあり、現時点でウルリッヒ病の発症を予防できる手段は見つかっていません。
ウルリッヒ病は特定の遺伝子変異が原因と考えられており、家系にこれらの遺伝子変異をもつ人がいる場合は、そうでない人と比べて発症リスクが高くなる可能性があります。
具体的には、両親が遺伝子変異をそれぞれ1つずつ持ち、その両方を受け継いでしまう場合に発症する「常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)病」としての側面も持つと指摘されています。

しかし、遺伝的背景とは無関係に発症している患者もいるため、遺伝子の突然変異が関与する例も多いと考えられています。

予防法や治療法に関しては、他の筋ジストロフィー症と同様に、今後の研究の成果が待たれる疾患です。


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