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封入体筋炎
勝木 将人

監修医師
勝木 将人(医師)

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2016年東北大学卒業 / 現在は諏訪日赤に脳外科医、頭痛外来で勤務。 / 専門は頭痛、データサイエンス、AI.

封入体筋炎の概要

封入体筋炎(ふうにゅうたいきんえん)は、中高年以降に多く見られる進行性の筋肉の病気です。とくに50歳以上の男性に多く発症すると報告されています。
推定患者数は100万人あたりおよそ30.8人であり、国の指定難病に登録されている疾患です。

筋力の低下と筋肉の萎縮が徐々に進み、手足の特定の筋肉、特に太ももの前側や手の指や手首を曲げる筋肉の力が徐々に弱くなっていくことが特徴です。

出典:日本神経学会「封入体筋炎 診療の手引き 2023 年 改訂版

診断が難しいことから、正しい診断を受けるまでに時間がかかることも少なくありません。

また、封入体筋炎には確立された治療法がないため、筋力をできるだけ維持し、日常生活の質を保つことを目標にした、リハビリテーションや生活支援が行われています。

封入体筋炎

封入体筋炎の原因

封入体筋炎の正確な原因は、現在でもまだ完全には解明されていません。

封入体筋炎では、大きく分けて2つの異常が見られます。1つは「筋肉の細胞が壊れていく現象」、もう1つは「炎症」です。どちらが先に起こるのか、またどちらがより重要なのかについては、まだ明らかになっていないのが現状です。

通常、人の体には不要なタンパク質を分解して処理する仕組みがあります。しかし、封入体筋炎では分解と処理がうまく働かなくなることで、異常なタンパク質が溜まっていくと考えられています。これにより筋肉の細胞が正常に働けなくなり、最終的に壊れていくという状態です。

また、炎症に関しては、免疫システムの異常が関係していると考えられています。免疫細胞は、ウイルスなどの異物から体を守る役割がありますが、封入体筋炎では、その細胞が自分の正常な筋肉を攻撃してしまうと考えられています。

封入体筋炎の前兆や初期症状について

封入体筋炎は進行性の疾患であり、徐々に筋力低下などの症状が現れます。そのため発症初期には症状を自覚しづらいこともありますが、「太腿の筋力の低下」や「手の指・手首を曲げる筋力が弱くなった」、「歩きづらくなった」という症状があれば、医療機関の受診が推奨されます。

手の指や手首を曲げる筋力の低下

手の指や手首を曲げる筋力が低下し、物をつかむ力が弱くなってきます。初期の段階では、ペットボトルのふたが開けにくい、財布からお金を取り出しにくいといった症状が出始めます。

進行すると、ボタンをかけることが難しくなったり、箸やペンをうまく使えなくなったり、歯ブラシをしっかり握れなくなったりと、手先を使う細かな動作に支障が出てくるのが特徴です。

大腿部の筋力低下と歩行障害

もう一つの大きな特徴が、太ももの前側の筋肉低下です。椅子から立ち上がる時や階段を上る時に、足に力が入りにくくなってきます。また、歩いているときにつまずきやすくなり、転倒のリスクも高まります。
症状が進行すると、歩行に補助具が必要になることもあります。

筋肉のこわばりや痛み

朝起きたときや、同じ姿勢を長く続けた後に筋肉のこわばりや痛みが出ることがあります。体を動かし始めると症状が和らぐことが多いですが、日常生活に支障をきたすこともあります。

ただし、このような筋肉のこわばりや痛みは、他の筋肉の病気でも一般的に見られる症状のため、それだけで封入体筋炎と判断することは難しいとされています。

封入体筋炎の検査・診断

封入体筋炎の症状は他の筋肉の病気と似ているため、他の病気との鑑別が重要です。診断を行うためには、いくつかの検査を組み合わせて総合的な判断が求められます。

血液検査

血液検査では、クレアチンキナーゼ(CK)という筋肉の損傷を示す物質を調べます。

ほかの筋肉の病気では、CKの数値が大きく上昇することが多いですが、封入体筋炎では、それほど上昇しないことが特徴です。血液検査だけでは診断をつけることは難しく、さらに詳しい検査が必要となります。

筋電図(EMG)検査

筋電図検査は、筋肉に小さな電極を付けて、筋肉の活動を電気の信号として記録する検査です。この検査により、筋力低下が筋肉自体の問題なのか、それとも筋肉を動かす神経の問題なのかを見分けることができます。

筋生検

筋生検は、筋肉の一部を採取して、顕微鏡で詳しく調べる検査です。封入体筋炎に特徴的な異常なタンパク質の蓄積や炎症の様子を直接確認することができます。筋生検の検査結果が、確定診断において最も重要な情報です。

封入体筋炎の治療

封入体筋炎は、現時点では有効な治療法は見つかっていません。そのため、できるだけ長く自分の力で動けるようにすること、日常生活の質を保つことを目標に治療が進められます。

リハビリテーション

封入体筋炎では、リハビリテーションが治療の中心となります。理学療法士や作業療法士の指導のもと、筋力を維持するための運動や、日常生活の動作を工夫する方法を学んでいきます。

例えば、手の力が弱くなってきた場合は太めのペンを使う、食器を持ちやすい形のものに変える、といった工夫を教えてもらいながら練習します。また、転倒を防ぐための歩き方や、安全に階段を昇り降りする方法なども練習します。

薬物療法

痛みがある場合には、痛み止めの薬を使用することがあります。ただし、他の筋肉の病気でよく使われるステロイド薬や免疫抑制薬は、封入体筋炎ではあまり効果が期待できません。長期使用による副作用のリスクもあるため、使用は慎重に検討されます。

生活環境の整備

生活環境の整備も重要です。手すりの設置や段差の解消など、自宅での安全な移動を確保するための工夫が必要になることがあります。また、必要に応じて杖や歩行器などの補助具を使うことも検討します。
リハビリテーションと並行して、理学療法士や作業療法士の意見を聞きながら、患者さんに合った生活環境を整備していく必要があります。

封入体筋炎になりやすい人・予防の方法

封入体筋炎は50歳以上の中高年、特に男性に多く見られる病気です。しかし、現時点では発症を予防する確実な方法は見つかっていません。

遺伝子の違いが発症に関係している可能性がありますが、家族内で発症することは珍しく、どのような人がなりやすいのかについても、まだ十分には分かっていません。

なお、一般的な健康維持法として、バランスの良い食事を心がけ、適度な運動を続けることは大切ですが、これらが封入体筋炎の予防に直接つながるという根拠は今のところないのが現状です。


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