監修医師:
林 良典(医師)
肩鎖関節脱臼の概要
肩鎖関節脱臼は、肩甲骨と鎖骨の接続部分である肩鎖関節が外れた状態を指します。
肩鎖関節は、肩の動きや腕の可動性に重要な役割を果たしています。肩鎖関節脱臼は、特にスポーツや事故による外傷でよく見られます。例えば、アメリカンフットボールや自転車事故など、肩に強い衝撃が加わるときに多く発生します。そのため、男性に多く見られる外傷で、男女比は5:1です。
肩甲骨は左右の背中にある逆三角形で板状の骨です。肩甲骨には、上腕骨の先端にあるボール状の部分を受け止めるソケット状の窪みがあり、その上に肩峰という突起が突き出ています。この肩峰と鎖骨の外側の先端が接して関節を構成しており、周囲は3つの靭帯で強く固定されています。3つの靭帯とは、肩峰と鎖骨を直接つなぐ肩鎖靱帯、鎖骨を下方に引っ張る菱形靭帯と円錐靱帯で、菱形靭帯と円錐靱帯を合わせて烏口鎖骨靭帯といいます。肩鎖関節は肘や指の関節とは異なり、可動性がほとんどありません。
肩鎖関節脱臼の原因
肩鎖関節脱臼の主な原因は、肩への直接的な外力です。特に、転倒転落や接触などにより肩峰に押す強い力がかかると、肩鎖関節を構成する靭帯が耐えきれず断裂して脱臼を起こします。具体的な受傷機転としては以下のような事例があります。
スポーツ活動
コンタクトスポーツで、相手選手との衝突によって肩に強い力が加わり受傷します。とくに柔道、アメリカンフットボール、ラグビーで起こりやすいことが知られています。
転倒
高所からの転落などで、腕を体幹に添えた姿勢で肩から地面に落ちて受傷します。この場合は肩峰に大きな力が直接かかります。
事故
交通事故などで衝撃を受けた際に受傷します。この場合、腕を横方向に突っ張った状態で手を着くことで衝撃が上腕骨から肩甲骨に加わり肩鎖関節が押し上げられます。
肩鎖関節脱臼の前兆や初期症状について
肩鎖関節脱臼は外傷なので通常は救急外来を受診しますが、可能であれば整形外科を直接受診しても構いません。初期の症状には以下のようなものがあります。
痛み
受傷した肩の周囲に激しい痛みが生じます。特に腕を動かすと痛みが増します。
腫れ
肩周辺が腫れることがあります。
変形
受傷した肩周りの形が不自然になることがあります。特に鎖骨が突出して見える場合があります。
可動域制限
肩を動かすことが難しくなります。
しびれや麻痺
神経損傷がある場合には手や指にしびれや麻痺が現れることもあります。
肩鎖関節脱臼の検査・診断
肩鎖関節脱臼は、軽度の場合はレントゲンで異常が検出されないことがあるため、疑いを持って診察や検査を進める必要があります。診断は通常、以下の手順で進めてゆきます。
1. 問診と身体検査
医師は患者さんから症状や受傷時の状況について詳しく聴取し、身体的特徴を観察します。
診察で特に重要なのは、鎖骨の触診です。鎖骨を上から押さえると下に動く「ピアノキーサイン」や、肩鎖関節部分の圧痛を確認します。肩鎖関節脱臼を起こす受傷機転では、鎖骨骨折の可能性もあるため、変形がなくても鎖骨の圧痛を確認することが重要です。
2. 画像診断
X線検査を用いて肩鎖関節周囲の状態を評価します。通常は肩関節正面を撮影します。同様の受傷機転で起こる鎖骨骨折や上腕骨近位部外科頚骨折も、通常このレントゲンで診断が可能です。
レントゲンでチェックすべき点は肩峰と鎖骨の連続性とズレです。正常であれば肩峰と鎖骨は平行に並び下端は同一線上に並びます。
肩鎖関節脱臼を、Rockwood分類に従って以下のように分類されます。
type 1
肩峰と鎖骨をつなぐ肩鎖靭帯の捻挫で、断裂なし。レントゲンは正常。精密な評価が必要な場合は、CT撮影を追加する場合があります。
type 2
肩鎖靭帯が完全断裂、関節は亜脱臼。レントゲンでは肩峰と鎖骨の下端が13mm未満。
type 3
肩鎖靭帯と烏口鎖骨靭帯が完全断裂。完全脱臼。レントゲンでは肩峰と鎖骨の下端が13mm以上。
このほかtype4から6までありますが、稀です。これらは大きな転位を伴うもので、ほかの外傷を合併している可能性があり対応は複雑ですが、治療には手術が必要です。
3. 神経機能検査
神経損傷の有無を確認するために、手指の感覚や運動機能を評価します。
これらの検査結果から総合的に判断し、診断が行われます。
肩鎖関節脱臼の治療
肩鎖関節脱臼には主に以下の治療法があります。
1. 応急処置
- 受傷直後は、三角巾やバストバンドで肩関節を固定します。疼痛対策として鎮痛薬を投与したり、患部の冷却を追加したりすることもあります。
2. 保存療法
- Rockwood のtype 1や2では、応急処置のまま安静と固定を継続します。約2〜3週間の固定を行い、その後リハビリテーションを行います。type 2の場合は、受傷から2ヶ月は重量物の挙上や患側の腕を使ったスポーツを控えます。
- 保存療法はリハビリテーションが短期で済み日常生活へ早期に復帰できる利点がありますが、外観上の変形や、違和感、疲労感が残ることが課題となる場合があります。
3. 手術療法
- type3以上の完全脱臼や、スポーツ選手などで再発防止が必要な場合には手術を考慮します。手術で脱臼した部分を整復し、金属製のピンやプレートで固定します。
- スポーツ選手を保存的に治療して脱臼位が残ると、脱力感や易疲労感が続いたり、腕を水平以上に挙上する筋力の低下が残ったりするため、手術を考慮します。逆に手術のデメリットとしては固定材料の破損やリハビリテーションの長期化などがあります。
- 近年では、内視鏡を使って傷を小さくしたり、靭帯の再建に自家移植ではなく人工靭帯を使ったり、といった方法も試みられています。
- 手術後のリハビリテーションは重要で、早期から運動療法を開始することで機能回復を目指します。
肩鎖関節脱臼になりやすい人・予防の方法
肩鎖関節脱臼になりやすい人
この病気は特に以下のような人々になりやすいです。
スポーツ選手
特にコンタクトスポーツ(アメリカンフットボールなど)を行う人々はリスクが高まります。
子どもや青年
成長期には運動能力未熟からくる転倒事故が多いため注意が必要です。
高齢者
転倒による外傷リスクが高くなるため、高齢者にも注意が必要です。
予防の方法
肩鎖関節脱臼を予防するためには以下の点に注意しましょう。
1. 安全対策
スポーツ活動時には適切な防具(ヘルメットやパッド)を使用し、安全対策を講じることも大切です。また、高所から落ちる危険性のある遊具には注意してください。
2. 運動能力向上
基本的な運動能力(バランス感覚など)を身につけさせることで怪我のリスクを減少させることができます。
3. 高齢者への配慮
高齢者の場合は家中の段差や障害物を取り除き、安全な環境作りを心掛けましょう。
また、定期的な運動によって筋力とバランス感覚を維持することも重要です。
関連する病気
- 肩の靭帯損傷(肩鎖関節靭帯損傷)
- 肩のスポーツ障害