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軟骨無形成症
井林雄太

監修医師
井林雄太(田川市立病院)

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大分大学医学部卒業後、救急含む総合病院を中心に初期研修を終了。内分泌代謝/糖尿病の臨床に加え栄養学/アンチエイジング学が専門。大手医学出版社の医師向け専門書執筆の傍ら、医師ライターとして多数の記事作成・監修を行っている。ホルモンや血糖関連だけでなく予防医学の一環として、ワクチンの最新情報、東洋医学(漢方)、健康食品、美容領域に関しても企業と連携し情報発信を行い、正しい医療知識の普及・啓蒙に努めている。診療科目は総合内科、内分泌代謝内科、糖尿病内科、皮膚科、耳鼻咽喉科、精神科、整形外科、形成外科。日本内科学会認定医、日本内分泌学会専門医、日本糖尿病学会専門医。

軟骨無形成症概要

軟骨無形成症(なんこつむけいせいしょう)は、遺伝子の異常によって骨の成長が妨げられる先天性の病気です。厚生労働省の指定難病にも認定されています。この病気は特に手足が短くなることが特徴で、全体的に低身長になります。軟骨異栄養症と呼ばれることもあります。
2万人に1人くらいの割合で生まれるとされ、日本国内に6000人程度の患者さんがいると推定されています。

この病気は、出生時から四肢短縮や特徴的な顔貌(大きな頭、突出した額など)が見られます。乳幼児期には運動発達が一時的に遅れることがありますが、知能には通常問題がありません。合併症として中耳炎や睡眠時無呼吸症候群などもあり、多様な症状が現れることがあります。

軟骨無形成症の原因

軟骨無形成症の主な原因はFGFR3(線維芽細胞増殖因子受容体3型)という遺伝子の変異であることがわかっています。多くの場合、新たな突然変異によって発生します。つまり、両親がこの病気を持っていない場合でも、生まれてくる子どもに発症することがあります。ただし、この遺伝子は常染色体優性遺伝の形式で受け継がれるため、発症者のこどもには理論上約50%の確率で変異が遺伝します。

FGFR3遺伝子は骨の成長に重要な役割を果たしています。具体的には、軟骨細胞の成長を調整する働きがありますが、この遺伝子に変異が生じると、軟骨細胞の正常な成長が妨げられます。特に長管骨(腕や脚の骨)の成長が阻害されるため手足の長さが短くなり、全体的に低身長になる特徴があります。成人になると、男性は約130cm、女性は約124cmほどの身長になります。
そのほかに特徴的な顔つき、狭い大後頭孔、水頭症、無呼吸、呼吸障害、中耳炎、伝音性難聴、狭い脊柱管(しびれ、脱力、間欠性跛行、下肢麻痺、神経因性膀胱による排尿障害)、背骨の変形、腰痛、下肢痛、歯の咬合不整、歯列不整などがみられます。

軟骨無形成症の前兆や初期症状について

軟骨無形成症は出生時から明らかな特徴を持っています。そのため多くの場合、出生前の胎児期に超音波検査で骨が短いことを指摘されたり、生後早期に特徴的な顔つきと短い四肢や指で気づかれたりして、専門医に紹介されます。多くの場合、小児科が窓口になりますが、治療にあたっては整形外科や脳外科など、多くの診療科が関わります。
以下に代表的な初期症状を挙げますが、これらの症状は個々によって異なります。

低身長

出生時から四肢短縮を伴いながら、出生身長自体はそれほど小さくないことがあります。

特徴的な顔貌

大きな頭部や突出した額、低い鼻根などがあります。

運動発達の遅れ

乳幼児期には運動発達が一時的に遅れることがあります。

中耳炎

乳幼児期には中耳炎を発症することが多く、この病気を持つ約90%が2歳までに中耳炎を経験します。その多くが慢性中耳炎に移行し、30~40%で伝音性難聴を伴うとされます。

頭蓋の形成遅延

乳幼児期(3歳頃まで)に、大後頭孔狭窄及び頭蓋底の低形成による症状が問題になります。
大後頭孔は頭蓋骨の底にある丸い穴で、真下に背骨があります。脳にぶら下がっている延髄はこの穴から出て背骨の中に入り脊髄になります。
軟骨無形成症ではこの大後頭孔が狭く、延髄や上位頸髄を圧迫することがあるため、頚部の屈曲制限、後弓反張、四肢麻痺、深部腱反射の亢進、下肢のクローヌス、中枢性無呼吸といった症状を起こすことがあります。
*クローヌス:足首や膝の関節がほんの少しの刺激でピクピクとリズミカルに何度も動いてしまう現象のこと

骨格異常

脊柱管狭窄は必発で、小児期は無症状ですが成長とともに狭窄が増強し、しびれ、脱力、間欠性跛行、下肢麻痺、神経因性膀胱による排尿障害などが出現しやすくなります。側彎や亀背といった脊柱の成長障害や腰痛、下肢痛もよく起こります。

呼吸器系の問題

上気道閉塞や呼吸困難なども見られることがあります。胸郭の変形や低形成が強い場合は、拘束性肺疾患や呼吸器感染症の反復、重症化も問題になります。無呼吸や呼吸障害は水頭症や延髄圧迫による中枢性と、鼻咽頭狭窄による閉塞性と、どちらの要因からも起こります。

水頭症

水頭症は2歳までに生じる可能性がもっとも高いとされています。

口腔障害

咬合不整、歯列不整がみられます。

軟骨無形成症の検査・診断

軟骨無形成症は特徴的な外見をもつため、胎児期や新生児〜乳児期に可能性を指摘されることが多い疾患です。もし疑われた場合、診断には以下の方法が用いられます。

身体検査

特徴的な身体的特徴(低身長や顔貌)を確認します。

X線検査

骨のレントゲン写真を撮影し、太く短い骨や特有の形状を確認します。特に膝下の脛骨と腓骨の比率などが診断に役立ちます。

遺伝子検査

FGFR3遺伝子の変異を確認する検査も行われます。

これらの検査によって、ほかの病気との区別を行いながら正確な診断を下します。

軟骨無形成症の治療

軟骨無形成症は遺伝子変異による先天異常なので、根本的な治療法は存在しません。しかし、さまざまな症状に対して個別に治療することが可能です。

手術療法

大後頭孔狭窄により神経症状が出現した場合は減圧手術、水頭症で頭蓋内圧亢進症状や進行性の脳室拡大が現れた場合はシャント手術を、脊柱管狭窄症に対しては除圧術(椎弓形成術や固定術)を、それぞれ行います。また、手足の短さを改善するために創外固定を用いた四肢延長術が行われることもあります。

成長ホルモン治療

低身長に対して成長ホルモンを使用することで身長増加を促進する治療法があります。

軟骨内骨化促進薬

2022年8月、ボソリチド(商品名ボックスゾゴ皮下注用)が発売されました。これは、FGFR3遺伝子変異による影響をブロックすることで、軟骨細胞の増殖や分化を促進する作用を発揮します。骨端線閉鎖を伴わない軟骨無形成症に対して、年齢と体重で容量を調整して毎日皮下注射します。薬価は1本約12万円と高額ですが、各種の医療費助成制度が利用できます。

リハビリテーション

運動能力向上や日常生活への適応を助けるためにリハビリテーションも重要です。

生活習慣

過体重は骨格への悪影響が大きいため、健康な食生活により肥満を予防することが重要です。

これらの治療法によって患者さんの日常生活の質を向上させることが目指されています。多くの患者さんは知能や平均余命は正常ですが、積極的な医学的評価を行わないと、主に無呼吸によって乳幼児期に約2~5%が突然死するとされています。

軟骨無形成症になりやすい人・予防の方法

この病気は主に以下のような人々になりやすいとされています。

家族歴

両親または親戚に軟骨無形成症患者さんがいる場合、その子どもにも発症する可能性があります。

新規変異

健康な両親からも新たに突然変異として生まれる場合も多いため一概には言えませんが、特定の家系で多く見られる傾向があります。
軟骨無形成症は遺伝性疾患であるため完全な予防は難しいですが、以下の点に留意することでリスクを減少させることができるかもしれません。

妊娠前検査

妊娠前に遺伝カウンセリングを受けることでリスク評価を行うことができます。

健康管理

妊娠中は健康管理を徹底し、ストレスや栄養不足を避けるよう心掛けましょう。


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