監修医師:
井林雄太(田川市立病院)
目次 -INDEX-
強直性脊椎炎の概要
強直性脊椎炎は、体の中心部(背骨や腰など)に炎症が起きる病気で、2015年に国の難病に指定されました。この病気は、ヒト白血球抗原 (HLA)の一つの型である「HLA-B27」という遺伝子と深い関係があり、この遺伝子を持つ人に多く見られます。しかし、日本ではHLA-B27を持つ人が少ないため、患者数も少なく、約3,000人と推定されています。
強直性脊椎炎の原因
まだ完全にはわかっていませんが、いくつかの要因が関係していると考えられています。
遺伝的要因
強直性脊椎炎は「HLA-B27」という遺伝子と強く関係しています。この遺伝子を持っている人は、持っていない人に比べて、強直性脊椎炎になるリスクが高いです。しかし、HLA-B27を持っている人全員がこの病気になるわけではないため、遺伝だけが原因ではありません。
環境要因
ウイルスや細菌の感染など、環境の影響も病気の発症に関係している可能性があります。また、喫煙は病気の症状を悪化させるだけでなく、背骨が固くなる(骨化する)リスクも高めます。
免疫の異常
強直性脊椎炎は、自己免疫疾患と考えられています。これは、免疫システムが自分の体の組織を間違えて攻撃してしまう病気です。特に「インターロイキン23受容体(IL-23)」の異常が関係していて、IL-23/IL-17という免疫の経路により活性化された炎症が骨の硬化に進む原因の一つかもしれないと言われています。
その他の要因
不規則な生活習慣や食生活も、病気の発症に影響を与える可能性があります。
強直性脊椎炎の前兆や初期症状について
初期に最も多くみられる症状は、炎症による腰や背中の痛みです。この痛みは、安静にしていると悪化し、動くと軽くなるのが特徴です。また、朝起きたときに体がこわばることもあり、このこわばりは30分以上続くことがあります。
この病気は、腰やお尻のあたりから始まり、だんだん背中や首の方へと進行します。症状には波があり、痛みが強くなったり、自然に軽くなったりを繰り返すことがあります。特に、40歳未満の若い男性に多くみられる病気です。以下は、強直性脊椎炎の初期に現れる主な症状です。
炎症による腰や背中の痛み
- 安静時に悪化し、運動すると楽になる
- 朝のこわばりが30分以上続く
- 腰やお尻から始まり、背中や首に進行
- 左右両方に痛みが出ることが多い
- 夜中に痛みで目が覚めることもある
関節の痛みや腫れ
- 股関節、膝、肩に痛みや腫れが出る
- 左右対称ではなく、片側にだけ症状が出ることが多い
付着部炎
- アキレス腱や足の裏に痛みや腫れが出ることがある
その他の症状
ぶどう膜炎
目の痛み、充血、視力低下
炎症性腸疾患
腹痛、下痢、血便
乾癬(かんせん)
皮膚に赤い発疹や鱗のようなものが現れる
これらの症状は、ほかの病気でも見られることがあるため、もし当てはまる症状がある場合は自己判断せず、早めに内科や整形外科で診てもらうことが大切です。
強直性脊椎炎の検査・診断
1. 臨床症状の確認
医師は、痛みの特徴や朝のこわばりなどについて患者さんから詳しく話を聞きます。安静にしていると痛みが強くなり、運動で和らぐ腰や背中の痛みが代表的な症状です。また、朝に体が硬くなる(こわばる)ことも特徴で、30分以上続くことがあります。
2. 画像検査
X線検査
強直性脊椎炎に特徴的な「仙腸関節炎」という関節の炎症が確認できます。しかし、早期の段階では見つけにくいことがあります。
MRI検査
X線よりも早く炎症を捉えることができ、骨や関節の変化を詳しく確認します。
CT検査
骨の状態をよりはっきりと確認でき、炎症の程度も詳しくわかります。
3. 血液検査
HLA-B27
この遺伝子を持っている人は強直性脊椎炎になるリスクが高いです。ただし、全ての人が発症するわけではありません。
炎症反応
CRPや赤沈という炎症を示す数値が上がることがありますが、これは他の病気でも上がることがあります。
4. 診断基準
強直性脊椎炎の診断には、New York診断基準という方法が使われています。この基準では、症状とX線検査の結果を組み合わせて診断しますが、近年はMRI検査も重要視されています。
5. 鑑別診断(他の病気との区別)
強直性脊椎炎と似た症状を持つ病気はいくつかあります。例えば、以下のような病気です:
- びまん性特発性骨増殖症(DISH)
- 乾癬性関節炎
- 反応性関節炎
- 炎症性腸疾患に伴う関節炎
- 関節リウマチ など
これらの病気と区別するために、詳しい病歴の確認、身体診察、画像や血液検査が必要です。
強直性脊椎炎の治療
治療は、痛みやこわばりをコントロールし、病気の進行を防ぐことが目的です。最終的には、患者さんの生活の質(QOL)を維持し、向上させることが目標です。
1. 薬を使った治療
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)
ASの治療で最初に使われる薬です。痛みや炎症を抑えますが、病気そのものを止める効果はありません。
サラゾスルファピリジン
関節に痛みがある場合に使われることがあります。
TNF阻害薬やIL-17阻害薬
これらの生物学的製剤は、NSAIDsで効果が不十分な場合に使われ、症状を改善し、病気の進行を遅らせる効果が期待できます。
2. 薬を使わない治療
運動療法
ストレッチや筋力トレーニング、水中での運動などが有効です。関節を柔らかく保ち、筋力をつけることで、痛みやこわばりを軽くする効果があります。また、姿勢を改善し、脊椎(せきつい)の変形を防ぐ効果もあります。
患者教育
ASは長く付き合う病気です。患者さん自身が病気についての知識を持ち、積極的に治療に取り組むことが大切です。
禁煙指導
喫煙はASを悪化させ、脊椎の骨化を進行させるリスクがあるため、禁煙が勧められます。
3. 治療の選択
ASの治療は、病気の進行具合や患者さんの状態によって決まります。まずはNSAIDsや運動療法が行われ、効果が足りない場合は生物学的製剤が検討されます。
4. 手術
病気が進行し、股関節や膝関節が壊れてしまった場合には、人工関節置換術などの手術が必要になることもあります。また、脊椎が大きく変形し、日常生活に支障が出る場合は、脊椎の手術が行われることもあります。
5. 早期発見と早期治療の重要性
ASを早く見つけて治療を始めることで、病気の進行を防ぎ、生活の質を保つことができます。進行すると、脊椎が固まってしまうことがあるため、早期発見と早期治療がとても大切です。
強直性脊椎炎になりやすい人・予防の方法
なりやすい人
HLA-B27遺伝子を持つ人
この遺伝子を持っている人は、持っていない人に比べて強直性脊椎炎になるリスクが高くなります。
40歳未満の男性
この病気は特に40歳未満の男性に多く見られます。
家族歴がある人
家族に強直性脊椎炎の人がいる場合、リスクが高まります。
喫煙者
喫煙は症状を悪化させ、脊椎(せきつい)の骨が固くなるリスクも高めます。
炎症性腸疾患がある人
クローン病や潰瘍性大腸炎などの腸の病気があると、強直性脊椎炎になる可能性が高くなります。
乾癬(かんせん)がある人
乾癬という皮膚の病気を持つ人は、強直性脊椎炎になるリスクがあります。
ぶどう膜炎の経験がある人
ぶどう膜炎という目の病気をしたことがある人も、強直性脊椎炎になるリスクが高いです。
予防の方法
禁煙
喫煙はリスクを高めるので、禁煙することで発症リスクを減らせる可能性があります。
適度な運動
運動をすることで関節の柔軟性を保ち、筋肉を強化するため、症状を予防・改善する効果が期待できます。
バランスの取れた食事
健康な免疫を維持するためには、栄養バランスの良い食事が大切です。
早期発見と治療
早めに病気を見つけて治療を始めることで、進行を遅らせて生活の質(QOL)を維持することができます。
参考文献
- 厚生労働省:平成27年7月1日施行の指定難病 (告示番号111~306)
- 冨田哲也.体軸性脊椎関節炎.脊椎関節炎の診療の手引 2020,冨田哲也ほか(編),診断と治療社,東京,p19—59,2020.