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監修医師:
高宮 新之介(医師)
鳩胸の概要
鳩胸は、胸骨(胸の中央にある骨)が前方に突出する先天的な胸部の異常です。
この異常は通常、成長期に顕著になります。
胸の骨が前に出っ張ることで、外見に大きな影響を及ぼし、特に思春期の若者にとっては心理的な負担が大きくなります。
鳩胸は遺伝的な要因も考えられており、家族内で同じような症状が見られることもあります。
男性に多く見られ、女性に比べて発症率が約5倍高いことが報告されています。
外見的な変化以外に、鳩胸は基本的には痛みや不快感を伴うことが少ないです。
しかし、重度の鳩胸では胸郭が狭くなるため、肺や心臓への圧迫が発生し、呼吸がしづらくなったり、心臓に負担がかかることがあります。
これにより、疲れやすさや運動能力の低下が起こることもありますが、これらの症状は稀です。
社会生活においても自己イメージの低下や自信喪失を引き起こすことがあり、特に思春期の若者においては心理的な影響が大きいです。
重症度は個人差があり、軽度の場合はほとんど影響がない場合もありますが、重度の場合は外科的治療が検討されます。
鳩胸の原因
鳩胸の主な原因ははっきりとはわかっていませんが、遺伝による影響があると考えられています。
家族歴がある場合、遺伝的に鳩胸を発症するリスクが高くなります。
両親や兄弟に鳩胸の既往がある場合、その子どもや兄弟も発症する可能性が高いと考えられています。
鳩胸の発症は、出生時にはあまり目立たず、成長するにつれて胸部の異常が明らかになります。
成長期に入ると胸骨が過度に前方に成長し、鳩の胸のように見えることから「鳩胸」と呼ばれるようになりました。
鳩胸に関連するほかの原因としてマルファン症候群や骨形成不全症などの遺伝的疾患が挙げられます。
これらの疾患は骨や結合組織の発育に影響を与え、骨の成長が不規則になることで、鳩胸の発症を引き起こすことがあります。
これらの基礎疾患がある場合、通常の鳩胸よりも重症化する可能性が高いため、定期的な医師の診察が重要です。
また最近の研究では鳩胸の発症には成長ホルモンや骨の成長に関連する遺伝子の異常も関与している可能性が示唆されています。
成長期において骨の成長が正常に進まず、胸骨が過度に前方に成長してしまうことが原因で鳩胸が発生するという仮説もあります。
環境要因が直接的に鳩胸を引き起こすことは少ないとされていますが、子どもの成長過程における栄養不足や不規則な生活習慣が骨の成長に悪影響を与える可能性があるため、健康的な生活習慣を維持することが推奨されます。
鳩胸の予防は難しいですが、家族歴や基礎疾患がある場合は、早期に小児科や形成外科、胸部外科の医師の診断を受けることで、症状の進行を抑えることができます。
鳩胸の前兆や初期症状について
鳩胸の最も一般的な初期症状は、胸骨が前方に突出することです。
この突出は、成長期に入ると特に目立つようになります。
鳩胸の症状は通常、3歳から10歳頃にかけて明らかになり、思春期にはさらに顕著になることが多い傾向です。
これは成長に伴って胸部の骨が異常に発達するためです。
鳩胸は主に外見上の問題として認識されますが、重度の場合には呼吸や心臓に影響を与えることがあります。
主に3つのタイプに分類されます。
第1型は胸部の下部が最も突出しており、これは鳩胸の中で最も一般的なタイプです。
第2型は胸部の上部が突出しており、比較的まれなタイプです。
第3型は非対称性鳩胸と呼ばれ、片側の胸部が突出しています。
軽度の鳩胸では、日常生活において特に不便を感じることは少ないですが、重度の場合には呼吸がしづらくなったり、疲れやすくなったりすることがあります。
これは、胸部の形が変形することで肺や心臓に圧力がかかるためです。
また、鳩胸の症状が進行すると、姿勢の悪化や背中や肩の痛みが現れることがあります。
これは、胸部の変形により体全体のバランスが崩れ、筋肉や骨に余分な負担がかかるためです。
さらに、外見上の問題による心理的な影響も無視できません。
特に思春期の若者にとって、鳩胸による外見の変化は自己イメージの低下や自信の喪失につながることがあります。
友人や学校での活動において、他者の目を気にするようになり、場合によっては社会的な孤立を感じることもあります。
このため心理的なサポートも重要であり、家族や医療チームによる適切な支援が必要です。
症状が現れたら小児科や形成外科、胸部外科を受診しましょう。
鳩胸の検査・診断
鳩胸の診断は、まず視診と触診によって行われます。
医師は胸部の形状や突出具合を確認し、鳩胸の可能性があるかどうかを判断します。
軽度の鳩胸であれば、これらの診察だけで診断が下ることもありますが、正確な診断と治療方針を決定するためには、追加の検査が必要です。
画像診断は、胸部X線検査(レントゲン)やCTスキャンが行われ、胸骨や肋骨の状態を詳細に確認します。
これにより、胸部の骨の形状や突出の程度を把握し、治療計画を立てるための重要な情報が得られます。
また、画像診断によって、肺や心臓への圧迫がないかも確認されます。
さらに、肺機能検査も行われることがあります。
この検査では、肺の働きを確認し、鳩胸が呼吸にどのような影響を与えているかを調べます。
特に、重度の鳩胸では、胸郭の形状が肺の動きを制限していることがあるため、肺機能検査は重要です。
検査結果によっては、手術の必要性が高まることがあります。
また、心エコー検査も重要な検査の一つです。
心臓の働きを確認し、胸部の変形が心臓に負担をかけていないかを調べます。
特に、鳩胸が重度の場合、心臓に圧力がかかり、正常な機能を阻害することがあります。
最終的に、これらの検査結果を基に、鳩胸の重症度や治療の必要性が判断されます。
軽度の場合は経過観察が行われることが多いですが、重度の場合は外科的な治療が検討されます。
早期の診断と適切な検査が、患者さんの生活の質を向上させるために重要です。
鳩胸の治療
鳩胸の治療は、患者さんの年齢、症状の重さ、心理的な影響を考慮して決定されます。
軽度の鳩胸であれば、特に治療を必要とせず、経過観察を行うことが一般的です。
この場合、医師の指示に従い、定期的に胸部の状態を確認し、症状の進行がないかを見守ることが大切です。
一方で、重度の鳩胸では、外科的治療が検討されます。
治療法にはいくつかの選択肢がありますが、最も一般的な方法の一つはAbramson法です。
この手術は、胸の中に金属製のバーを挿入し、突出した胸骨を内側に押し戻すことで胸郭の形状を改善します。
Abramson法は、低侵襲(体にかかる負担が少ない)手術とされ、胸部に大きな切開を行わないため、術後の回復が早く、傷跡も目立ちません。
バーは通常、2~3年間挿入されたままになり、その後、再手術で取り出します。
もう一つの治療法は、胸骨軟骨切除術です。
この手術では、突出している肋軟骨(肋骨と胸骨をつなぐ柔らかい部分)を切除し、胸の形を整えます。
この方法は特に幼少期の患者さんに対して行われることが多く、胸骨の形を直接整えるため、効果的な改善が期待されます。
手術後はリハビリテーションが必要であり、数週間にわたって安静にする必要があります。
さらに、Nuss法(ナス法)という手術法もあります。
この方法は、もともと漏斗胸の治療法として開発されたものですが、鳩胸にも応用されることがあります。
Nuss法では、胸骨の下に金属バーを挿入し、胸郭の形を整えることで外見を改善します。
低侵襲手術として知られ、体への負担が少なく、手術後の回復が早いのが特徴です。
手術後の経過は、患者さんの年齢や手術内容によって異なりますが、通常は数日から1週間程度の入院が必要です。
術後は胸部に痛みを感じることがありますが、これは時間とともに軽減します。
また、術後の運動制限が必要な場合もあり、特に術後数ヶ月は激しい運動を避けることが推奨されます。
鳩胸になりやすい人・予防の方法
鳩胸は、主に遺伝的要因によって発症します。
家族に鳩胸の病歴がある場合、その子どもや兄弟も発症する可能性が高いため、特に成長期の間は注意が必要です。
家族内で同様の症例が見られた場合、早期に胸部の状態を確認することが推奨されます。
現時点では、鳩胸そのものを完全に予防する方法は確立されていませんが、早期発見と適切な治療が重要です。
また外見の変化が大きくなる前に対応することで、心理的な負担を軽減することも可能です。
子どもが成長する過程で胸部の異常が見られた場合は、早めに医師に相談することが重要です。
小児外科や胸部外科で診察を受け、症状の進行を防ぐための治療法を検討することが推奨されます。
家族歴がある場合は、定期的な健康診断や自己チェックが役立ちます。
また見た目の変化による心理的な影響が大きいため、心理的サポートも必要です。
特に思春期の若者にとって、外見上の問題は社会生活に大きな影響を与えることがあるためカウンセリングや家族のサポートが有効です。
関連する病気
- マルファン症候群(Marfan Syndrome)
- エーラス・ダンロス症候群(Ehlers-Danlos Syndrome)
- 脊柱側弯(Scoliosis)
参考文献