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外反母趾
松繁 治

監修医師
松繁 治(医師)

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経歴
岡山大学医学部卒業 / 現在は新東京病院勤務 / 専門は整形外科、脊椎外科
主な研究内容・論文
ガイドワイヤーを用いない経皮的椎弓根スクリュー(PPS)刺入法とその長期成績
著書
保有免許・資格
日本整形外科学会専門医
日本整形外科学会認定 脊椎脊髄病医
日本脊椎脊髄病学会認定 脊椎脊髄外科指導医
日本整形外科学会認定 脊椎内視鏡下手術・技術認定医

外反母趾の概要

外反母趾は、足の親指(母趾)が第2趾の方向へ異常に曲がり、親指の付け根が内側に突出する足の変形症です。この状態は、足の構造や機能に影響を与え、歩行時の痛みや不快感を引き起こすことがあります。
女性に多く見られ、不適切な履物の使用が主な原因の一つとされています。ハイヒールや先が細い靴は、足の親指を不自然な位置に押しやることで、外反母趾のリスクを高めます。

症状は、親指の付け根にバニオンと呼ばれる胼胝(たこ)が形成され、赤く腫れ上がり痛みを伴うことがあります。進行すると、足のアーチ構造の崩れにより扁平足を併発することもあり、足全体に痛みや疲れが生じやすくなります。
また、親指がほかの指に重なるなど、さらなる指の変形を招くこともあります。

外反母趾の原因

外反母趾は足の親指が外側に曲がり、親指の付け根が内側に突出する症状で、足の変形を引き起こします。この状態は多くの場合、外的要因と内的要因によって生じます。

外的要因

外的要因のなかで影響が大きいのは、不適切な靴の使用です。なかでもハイヒールや先が細い靴は、足の前部に過度の圧力を集中させ、足の構造を不自然に変形させます。
ヒールが高いと体重が足の前部にかかり、親指の付け根に強い圧力が加わります。継続すると、親指が外側へと強く曲がり、外反母趾が形成されます。
また、現代の生活環境では靴を履く時間が長く、裸足で過ごす時間が少ないため、足の筋肉やアーチが衰えやすくなっています。

内的要因

内的要因は、遺伝的な足の形態や関節の柔軟性、筋力の低下が挙げられます。
女性は男性に比べて関節がやわらかく、筋力も相対的に弱いため、外反母趾を発症しやすいとされています。また、扁平足や母趾が人差し指より長い足の形(エジプト型)、母趾の付け根の関節が丸い形をしている人もリスクが高いです。

さらに、健康状態、例えば関節リウマチや全身性の結合組織病などが基盤にある場合も、外反母趾のリスクが高まります。これらの疾患は関節や軟部組織の構造に影響を与え、外反母趾の形成を助けることがあります。

外反母趾の前兆や初期症状について

外反母趾の初期段階では、足の構造に関連した軽微な不快感や変化が見られます。よくある初期症状は、親指の付け根が赤くなり、靴やハイヒールを履いた際に痛みを感じることが挙げられます。
この痛みは、足の親指が外側に曲がり始めることによって発生し、足の裏、かかと、指の付け根にも広がることがあります。

足のアーチの崩れ、偏平足や開帳足などの状態が関連しており、これらは足の構造が外反母趾に進行しやすい形に変わることを意味します。
足が疲れやすくなり、普段の歩行時にも不快感を覚えるようになることがあります。
また、足の裏にはタコができやすくなり、さらなる痛みを引き起こすこともあります。

これらの初期症状が見られた場合、整形外科を受診し、早めの対策が重要です。適切なサポートを行うことで、症状の進行を遅らせることが可能とされています。予防は、足にフィットし、足のアーチを支えられる靴の選択や、必要に応じて医師の診断を受けることが推奨されます。

外反母趾の検査・診断

外反母趾の診断には、視覚的評価とレントゲン撮影が主に用いられます。

診断の初期段階では、患者さんの足を直接視認し、親指の異常な曲がりや付け根の突出(バニオン)を確認します。足の親指が明らかに外側へ曲がっている場合、外反母趾の可能性が高いと考えられます。親指を押した際の痛み反応や、靴を履いたときと脱いだときの痛みの有無も重要な診断ポイントです。

より詳細な診断のために、レントゲン撮影が行われます。立位での撮影が推奨されることが多く、体重がかかった状態で足の骨格の実際の負担と配置を正確に評価するためです。レントゲン画像では、第1中足骨と第1基節骨がなす角度(外反母趾角)と、第1中足骨と第2中足骨間の角度(M1M2角)が測定されます。
この角度に基づいて、外反母趾の重症度が評価され、15°までが正常、15°から30°が軽度、30°から40°が中等度、40°以上が重度と分類されます。

このほかにも、足のアーチの低下やほかの趾との関係性を評価することがあり、偏平足や開帳足の有無も診断に含まれることがあります。この状態は外反母趾の形成に寄与するため、全体的な足の構造評価が治療方針を決定するうえで重要となります。

外反母趾の診断と治療は、症状の緩和と足の機能の改善を目的としています。痛みの程度や生活への影響を抑えるために、早期の正確な診断と適切な治療の選択が重要です。

外反母趾の治療

外反母趾の治療には大きく分けて2種類あります。以下で詳しく解説します。

保存療法

外反母趾の保存療法には靴指導、装具療法、運動療法、薬物療法があります。適切な靴選びは重要で、親指のつけ根がフィットし、指先がゆったりとしていて、ヒールの低いやわらかい素材の靴が推奨されます。
また、アーチを支えるインソールの使用が適しているとされています。
運動療法では、Hohmann体操や母趾外転筋運動があり、痛みの軽減や変形の矯正効果が期待できます。装具療法には、痛みを除圧するパッドや矯正用装具が使用され、痛みを和らげる効果が期待できるとされています。薬物療法は、消炎鎮痛剤入りの外用薬が痛みの管理に役立ちます。これらの治療は症状の緩和を目的とし、痛みを軽減しながら日常生活の質を向上させます。

手術療法

外反母趾の手術療法は、保存療法での改善が見られない重症例や、日常生活に支障をきたす場合に行われます。
主な手術方法は、第1中足骨の骨切り術があります。この手術では、骨の一部を切除し、母趾の変形を矯正します。骨切りは中足骨の遠位部(趾先に近い方)または近位部(足首に近い方)で行われ、変形の程度や患者さんの状態に応じて適切な部位が選ばれます。

手術後は、痛みや腫れを管理するためのケアが必要です。
また、足の動きが以前より硬くなることや、骨癒合後も腫れが数ヵ月間残ることがあります。これにより、手術後は靴が履きにくくなることがあるため、リハビリテーションが重要となります。

外反母趾の手術にはさまざまな方法が存在し、100種類以上の手術法があるといわれています。そのため、患者さんの足の形、体形、年齢、仕事内容、合併症の有無などを総合的に考慮して、適切な手術法を選択する必要があります。手術を受ける際には、医師から手術のメリットとデメリットについて十分な説明を受け、納得のうえで治療法を選ぶことが大切です。

外反母趾になりやすい人・予防の方法

外反母趾になりやすいのは、運動不足で足指の筋力が低下している方、適切でない靴(ヒールの高い靴や先の細い靴)を常用している方、また体質的に関節がやわらかく筋力が弱い方です。足の変形を引き起こす遺伝的要因がある場合もリスクが高まります。

外反母趾の予防には、日常的に足にフィットし、足の健康を支える靴を選ぶことが重要です。ハイヒールや細いつま先の靴は避け、ゆったりとしたつま先の部分を持ち、低いヒールの靴を選びましょう。
また、日常生活に足指を使う運動を取り入れることもおすすめです。例えば、足趾でタオルを引き寄せる訓練やホーマン体操などが推奨されています。

外反母趾の症状が現れた場合には、適切な靴への変更のほか、症状の進行を抑えるために適切なインソールの使用や、必要に応じて医師と相談しながら治療計画を立てることが大切です。手術を要する場合もありますが、多くの場合は日常の対策で症状を管理できます。


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