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井林雄太

監修医師
井林雄太(田川市立病院)

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大分大学医学部卒業後、救急含む総合病院を中心に初期研修を終了。内分泌代謝/糖尿病の臨床に加え栄養学/アンチエイジング学が専門。大手医学出版社の医師向け専門書執筆の傍ら、医師ライターとして多数の記事作成・監修を行っている。ホルモンや血糖関連だけでなく予防医学の一環として、ワクチンの最新情報、東洋医学(漢方)、健康食品、美容領域に関しても企業と連携し情報発信を行い、正しい医療知識の普及・啓蒙に努めている。診療科目は総合内科、内分泌代謝内科、糖尿病内科、皮膚科、耳鼻咽喉科、精神科、整形外科、形成外科。日本内科学会認定医、日本内分泌学会専門医、日本糖尿病学会専門医。

精索静脈瘤の概要

精索静脈瘤は、精巣から心臓へ血液を運ぶ静脈が拡張して、静脈瘤(血管が拡張してコブ状になる状態)ができる疾患です。
蔓状に伸びる陰嚢や鼠径菅内の静脈が、異常に膨らんでいる状態です。

精巣は低い温度を保ち、精子を熱のダメージから守ります。
しかし静脈瘤ができると血流が精巣に逆流し、温まった血液が精巣に留まりやすくなります。
精巣の温度が上がり、精子の品質が低下することがあります。
さらに副腎からホルモンが逆流し精細管障害、精子成熟の阻害を引き起こします。

男性不妊の主な原因で、約40%はこの疾患が原因です。
放置すると精液所見の悪化、男性ホルモン低下、EDなどが進行するため、適切な治療を行うことが必要です。

精索静脈瘤の原因

心臓のポンプの力で流れる動脈と異なり、静脈は血流がゆるやかで逆流しやすくなります。
静脈には逆流防止の弁がありますが、万能ではありません。
腹圧をかけることが多いと静脈内の血圧が上がり、弁が劣化しやすくなります。
弁が劣化すると血流が逆流しやすくなり、やがて静脈瘤ができ、血流が滞留します。

精索静脈は下(陰嚢)から上(腎臓)へ流れます。
重力に逆らうため、物理的に静脈瘤ができやすい部位です。
特に左側の精索静脈は発症しやすい傾向があります。
右より長い、腎臓の静脈へ直角に合流する、大動脈と上腸間膜動脈の間にはさまれた構造で圧迫されやすい、などの要因が重なり、特にリスクが高くなります。精索静脈瘤が発生するのは、ほとんど(約90%)は左側です。

静脈が逆流することで精巣の温度の上昇、副腎からホルモンの逆流などが起こり、精細管障害を発症します。
その結果、精子の成熟を妨げ、男性不妊を発症すると考えられています。
精巣の発育不良や萎縮を起こすこともあります。

精索静脈瘤の前兆や初期症状について

精索静脈瘤は無症状のことが多く、初期段階では気づきにくい疾患です。
中には患部のある側の陰嚢、鼠径部が重いように感じたり、陰嚢の腫れ、不快感、疼痛を感じたりする方もいます。

特に立ち仕事や運動後、トイレの後に、これらの症状が強くなるときは、精索静脈瘤の可能性が考えられます。
座り作業の後に立ち上がったときも、同様の症状が出ることがあります。

症状が進行すると外見から、ある程度は判別することができます。
陰嚢に皺が寄る、デコボコしている場合は精索静脈瘤の可能性があります。
さらに症状が進行すると、陰嚢にミミズ腫れのような血管が浮くことがあります。
外見でも症状が見える状態は、症状が悪化している証拠です。

精索静脈瘤の検査、治療は泌尿器科を受診しましょう。
男性不妊に関わる疾患の多くは泌尿器科が担当します。

精索静脈瘤の検査・診断

問診では患者さんの病状、病歴について尋ねます。
自覚症状や病状がいつ現れ始めたか、いつごろから増悪したか、その原因などを確認します。
たとえば肥満や高血圧など基礎疾患がある、家族に精索静脈瘤の方がいる場合は、特にリスクが高いと判断します。

視診、触診

原則的に視診、触診でおおよそ把握できます。
触診は、陰嚢内の静脈を軽く触れて、静脈に異常な拡張や硬さがないか確認します。
そのままでは分かりにくいときは患者さんに息を止めて腹圧をかけてもらうと、静脈の拡張が分かりやすくなります。

視診、触診は症状の重さに応じて、3つのグレードに分けられます。

  • グレード1は、息を止めて腹部に力を入れた状態で、触診で分かるもの
  • グレード2は、簡単な触診で分かるもの
  • グレード3は、視診だけで分かるもの

超音波検査など

視診・触診である程度病状を把握したら、超音波検査を行います。
超音波検査は精索静脈瘤の検査では一般的で、身体へダメージを与えず症状の詳細を調べることができます。

  • 血流をみる評価で血液の逆流所見が確認された
  • 血管がスイスチーズのように膨らんで見える

これらは精索静脈瘤に特徴的な所見です。
超音波検査でも原因がはっきりしない場合や、精巣周辺にほかの病変が疑われる場合は、
CTやMRIなどを使い、より詳細な画像診断を行うことがあります。

精液検査

併せて精液検査を行い、精子数、精子奇形率、運動率などを確認します。

精索静脈瘤の治療

精索静脈瘤の治療は、症状の重さや患者さんの年齢、将来的な妊娠希望などを考慮して決定します。
精索静脈瘤は放置すると、精巣の発育不良、萎縮が起こることがあります。
たとえ軽度でも定期観察が必要です。

経過観察

痛みや不快感がなく、精子の質にも問題がないほど症状が軽い場合は、経過観察を行います。

患者さんには定期的に受診を促し、視診、触診、精液所見の確認を行うことで、現状を把握します。
症状が悪化するタイミングで治療を行います。

保存的治療

ホルモン療法、サプリメント、漢方薬で症状が緩和する可能性があります。
しかし、すべての患者さんに効果が出るとは限りません。

経皮的静脈塞栓術

静脈瘤のある場所にコイルなど塞栓物を入れ、血流の逆流を防ぎます。
身体への負担が少なく、処置もすぐ完了します。
滞りなく血流が通るようになれば、疼痛など諸症状の緩和、精液所見の改善などが期待できます。

手術療法

男子不妊症、または鼠径部や陰嚢の痛みや不快感が改善しない場合、
小児では精巣の発育障害・萎縮がある場合は、手術適応を視野に入れます。
手術を受けても必ず改善するとは限らず、再発、後遺症が発症することがあります。
患者さんには丁寧に説明し、メリットとデメリットを提示しましょう。

結紮
内精索静脈を結紮して、静脈瘤に血流が回らないようにします。
鼠径管より上で切断する高位結紮術、鼠径管より下で切断する低位結紮術があります。
手術の難易度は低位結紮術のほうが高く、細い静脈をすべて結紮する必要があります。
しかし後遺症が少なく、再発を起こしにくいため、患者さんの回復が期待できる方法です。

腹腔鏡下手術
腹腔鏡下で精巣とつながる動静脈を遮断します。
患部にかかわりのある血管を遮断すると血行路が新たに形成され、症状が回復します。
開腹手術に比べると回復が早いのが特徴です。
どの手術法が良いかは症状や医療機関により異なります。
手術後は日帰り手術から数日間入院など、手法により異なります。
1週間ほどで日常生活に戻れるケースが大半です。

精液所見の改善には3~6ヶ月かかります。
精子の元の細胞から精子まで成長するには、3ヶ月以上の期間が必要です。
経過観察と再発防止のため、手術後も定期的なフォローアップが必要です。

精索静脈瘤になりやすい人・予防の方法

以下の人は発症リスクが高い傾向にあります。

立ち仕事、重量物を持つことが多い人

腹圧がかかりやすいと静脈の血圧が高まりやすくなります。
立ち仕事、特に重いものを日常的に持つ機会が多い男性は、リスクが上がります。

肥満・便秘

肥満や便秘は、腹腔内圧を高めるリスクが上がります。
これらの症状を放置すると静脈に負担がかかり、精索静脈瘤のリスクを高める原因になります。

遺伝

家族に精索静脈瘤の既往歴がある場合もリスクが高まります。
遺伝的に静脈の弁が弱い可能性があると考えられます。

10代から成人

この世代は血流が強くなり、静脈への負担が増えるのが原因と言われています。
精索静脈瘤は成人男性の約15%が発症します。
小児精索静脈瘤もありますが、10~15歳から発症者が増える傾向があります。

高身長

身長が高い人、痩せ型の人は静脈の弁が弱く、血液の逆流が起こるリスクが上がります。

予防法

予防の方法はいくつかありますが、まずは「精巣を過度に温めない」ことです。
精巣は体温より数度低いことが正常です。
精子は熱に弱く、精巣が温まるだけでも精液所見が悪化することがあります。

  • サウナなど、下半身が温まる行為はほどほどに
  • 座り作業は適度な感覚で立ち、股間を冷やす
  • 締め付ける下着、ロードバイクなど股間を摩擦、圧迫する行為は控えましょう。
    下着はボクサーパンツなど緩いものに替え、バイクは股間の負担になりにくいサドルに交換しましょう。

肥満の方は適正体重までダイエットすることも有効です。
肥満は血管に負担をかけるため、適正体重まで減らすと悪化を防ぐことができます。


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  • 睾丸萎縮(Testicular Atrophy)

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