監修医師:
井林雄太(田川市立病院)
精巣捻転の概要
精巣捻転(せいそうねんてん)は、精巣を支える精索(せいさく)がねじれてしまい、精巣への血流が悪くなる急性の病気です。
これは緊急を要する病気であり、迅速な診断と治療が求められます。
治療が遅れると、精巣が壊死してしまう可能性があります。
特に思春期の男性に多く見られますが、新生児期にも発生することがあります。
精巣捻転は精巣への血流が阻害されることで、精巣組織が酸素不足になり、組織の壊死に至ることがあるため、注意が必要です。
精巣捻転の原因
精巣捻転は精索がねじれることで発生しますが、その原因は完全には解明されていません。
しかし、いくつかの要因が考えられています。
精巣挙筋の収縮
思春期の男性では、睡眠中に精巣挙筋が収縮し、精巣が引き上げられる際にねじれることが多いとされています。
精巣の固定のゆるみ
新生児期には、精巣鞘膜と陰嚢の固定が緩いことが原因となることがあります。
解剖学的な異常
「Bell-Clapper奇形」と呼ばれる、精巣が鞘膜内で動きやすい状態であると、捻転を起こしやすくなります。
精巣捻転の前兆や初期症状について
精巣捻転の前兆や初期症状は、急激に発生することが多い傾向です。以下のような症状が見られます。
突然の激しい陰嚢部の痛み
多くの場合、急に激しい痛みが発生します。
悪心・嘔吐
痛みと共に、吐き気や嘔吐が見られることがあります。
同側の下腹部痛
精巣捻転に伴い、同じ側の下腹部にも痛みが広がることがあります。
陰嚢の腫脹と発赤
初期には見られないこともありますが、時間が経つにつれて腫れや赤みが出てくることがあります。
精巣挙筋反射の消失
精巣挙筋反射が消失することがありますが、これは診断の決定的な要素とはなりません。
精巣挙筋反射
精巣挙筋反射(cremasteric reflex)は、陰嚢や大腿内側部を軽く擦ると同側の精巣が引き上げられる反射現象です。
この反射は、L1およびL2脊髄神経根によって制御されています。
正常な反射機能を持つ男性では、この刺激によって精巣が上昇するのが観察されます。
精巣挙筋反射の評価方法
精巣挙筋反射を評価する方法は簡単です。
患者さんを仰向けに寝かせる
リラックスした状態で仰向けに寝てもらいます。
大腿内側部を擦る
指や小さな器具を使って、大腿内側部を軽く擦ります。
精巣の動きを観察する
正常な反射がある場合、同側の精巣が引き上げられるのが確認されます。
どの診療科目を受診すればよいか
精巣捻転が疑われる場合は、速やかに泌尿器科を受診することが重要です。
泌尿器科がない場合は、小児外科を受診するのが良いでしょう。
いずれにせよ、緊急性が高いため、早急な対応が求められます。
精巣捻転の検査・診断
精巣捻転の検査と診断は、迅速に行われる必要があります。以下の方法が用いられます。
理学診断
医師による視診、触診が行われます。
超音波検査(エコー検査)
精巣の血流を確認します。精巣捻転では、患側の精巣への血流が途絶えているか、低下している所見が見られます。
カラードプラ超音波検査
血流の状態をより詳しく調べることができ、精巣への血流消失や低下が確認されます。
尿検査
精巣上体炎との鑑別に役立ちます。通常、精巣捻転では尿検査に異常は見られません。
血液検査
精巣上体炎との鑑別に用いられますが、精巣捻転で有意な情報が得られることは少ないです。
精巣捻転の鑑別診断
精巣捻転は緊急を要する病気ですが、同じような痛みを引き起こす他の病気もいくつかあります。これらの病気を区別するためには、診断が重要です。以下に、精巣捻転と似た症状を示す病気について説明します。
精巣付属小体捻転
精巣や精巣上体には「付属小体」という小さな部分があります。これらがねじれると、精巣捻転と同様の激しい痛みを感じます。
特徴的な兆候として、「blue dot sign(ブルードットサイン)」という捻転した付属小体が皮膚を通して青く見える症状があります。
精巣上体炎
精巣上体炎は炎症による病気で、血液検査で炎症反応が見られたり、尿検査で膿尿(白血球が混じった尿)が見られることがあります。
ドップラー超音波検査では、精巣上体への血流が増加していることが確認でき、これが精巣捻転との違いです。
その他の病気
以下の病気も精巣捻転と似た症状を引き起こすことがあります。
IgA血管炎(Henoch-Schönlein紫斑病
- 血管に炎症が起きる病気で、皮膚に紫斑が出ることがあります。
- 陰嚢外傷: 陰嚢に直接の外傷があった場合も痛みが生じます。
- 特発性陰嚢浮腫: 陰嚢が突然腫れる病気です。
- 精巣腫瘍: 精巣にできる腫瘍も痛みを引き起こすことがあります。
- 精索静脈瘤: 精索の静脈が拡張する病気で、痛みを伴うことがあります。
- 尿路結石: 下腹部や陰嚢に痛みが放散することがあります。
精巣捻転の治療
精巣捻転は、早期の治療が必要です。
発症から6〜8時間以内が「ゴールデンタイム」とされており、この時間内に治療を始めることで精巣を救う可能性が高まります。
しかし、たとえこの時間を過ぎてしまっても、症状がある場合はすぐに病院で検査と治療を受けることが重要です。
精巣捻転の治療は緊急手術が基本です。
以下に治療方法を示します。
用手的整復
緊急手術までの時間を稼ぐために、医師が手を使って精巣を元の位置に戻す治療が行われることがあります。
しかし、捻転を悪化させるリスクがあるため、必ず医師の判断のもとで行われます。
手術療法
手術では陰嚢を切開し、捻転を解除して精巣を正常な位置に戻します。
壊死が認められる場合は、壊死した精巣を摘出し、健側の精巣のみを固定します。
壊死が認められない場合は、捻転を解除した精巣と健側の精巣を固定します。
精巣捻転になりやすい人・予防の方法
精巣捻転になりやすい人
精巣捻転になりやすい人には以下の特徴があります。
新生児
特に生後3~4週までの男児は、精巣鞘膜と陰嚢の固定が緩いため、精巣捻転症を起こしやすくなっています。
思春期の男性
特に13~14歳は、精巣が急激に発達する時期であるため、精巣捻転症になりやすい年齢です。
過去に精巣捻転症になったことがある人
一度精巣捻転症になると、再発するリスクが高くなります。
停留精巣
停留精巣とは、精巣が陰嚢内におさまらず、お腹の中や鼠径部にとどまっている状態のことです。
停留精巣があると、精巣捻転症のリスクが約10倍に高まると報告されています。
家族に精巣捻転症になった人がいる人
遺伝的な要因も考えられるため、家族歴がある場合も注意が必要です。
予防の方法
精巣捻転を完全に予防する方法は現時点ではありませんが、早期発見・早期治療によって精巣を温存できる可能性が高まります。
そのため、日頃から自身の体に関心を持ち、異変を感じたらすぐに医療機関を受診することが重要です。
関連する病気
- 精巣上体炎(Epididymitis)
- 精索静脈瘤(Varicocele)
参考文献
- 日本泌尿器科学会(編):急性陰囊症診療ガイドライン 2014 年版,金原出版,東京,2014
- 小児外科 55巻 9号 pp. 932-936(2023年09月)
- 臨床外科 59巻 11号 pp. 254-256(2004年10月)