

監修医師:
井林雄太(井林眼科・内科クリニック/福岡ハートネット病院)
目次 -INDEX-
心室頻拍の概要
心臓は、4つの部屋(2つの心房、2つの心室)に分かれています。通常、心臓は電気刺激が流れて収縮・拡張することで血液を全身に送っています。この電気刺激が流れる過程において、心室から異常な刺激が発生して起こる不整脈を心室性不整脈と言います。
心室頻拍(ventricular tachycardia;VT)は、心室性不整脈の1つです。心臓の下部である心室から発生する不整脈で、心拍数が毎分120回以上になる状態を指します。通常、心拍数は毎分60〜100回ですが、VTではこのリズムが乱れ、異常な速さで心臓が拍動します。心室性期外収縮が3回以上連続して発生することで、VTと定義されます。
VTには、持続性と非持続性の2つのタイプがあります。
非持続性VT 30秒未満で自然に停止するものを指します。 持続性VT 30秒以上続くか、または重篤な症状を引き起こす場合を指します。 VTは、心臓に器質的な変化が発生して発症する瘢痕関連VTと、心臓に明らかな器質的変化がなく発生する特発性VTに分けられます。なお、特発性VTは瘢痕関連VTに比べ、予後は良好と言われています。 瘢痕関連VT 器質的心疾患に伴う心室頻拍の基礎心疾患には、心筋梗塞や拡張型・肥大型心筋症、心奇形などの先天性心疾患、不整脈原性右室異形成、心サルコイドーシスなどがあります。 特発性VT 特発性VTは、起源となる部位からの異常な電気刺激によって発生すると言われています。特発性VTには、流出路VT、Purkinje関連VT、房室弁輪VT、乳頭筋VT、Crux VTなどがあります。持続性VTの場合、血液の循環が不十分になったり、血圧が低下することがあります。また、持続することで意識消失や心停止(致死的不整脈)につながる場合があります。特に心不全などの基礎心疾患により心機能低下を伴う場合には、心停止につながるリスクが高いと言われています。致死的不整脈に移行した場合には、速やかに蘇生処置が必要になります。
心室頻拍の原因
VTの原因には、下記のようなものがあります。
瘢痕関連VT
基礎心疾患に伴う瘢痕部位に起因するリエントリーがおもな原因です。リエントリーとは、通常1回の心拍ごとに消失する心臓を収縮させるための電気刺激が、1回の心拍ごとには消失せず再び元の部位に戻り心筋細胞を再収縮させる現象のことです。器質的な心疾患によって、心筋が損傷することで心筋組織に瘢痕が形成され、この部分が電気的異常の焦点となります。また、拡張型心筋症や肥大型心筋症などの心筋症は、心筋の異常な肥厚や拡大が心室頻拍の原因となることがあります。心筋の変化により、電気的な信号の伝導が乱れ、異常な心拍が発生します。先天性心疾患の手術後や弁膜症の手術後にも発生することがあります。瘢痕部位には、心筋細胞と線維組織が混在しています。線維組織に囲まれた心筋細胞は正常な電気刺激の伝導遅延をきたすことで、リエントリー回路が形成されます。そのほかに、手術創による瘢痕なども、同様にリエントリー回路形成に寄与すると言われています。
特発性VT
VTの原因となる明らかな器質的な心疾患が存在しません。何らかの原因で心筋が変性し、異常に速い電気刺激が発生するようになったり、心室の心筋内にリエントリー回路が形成されることがあり、それらが原因で頻拍が発生すると言われています。電解質異常
体内の電解質バランスが崩れることは不整脈を誘発する原因となります。特にカリウムやマグネシウム、カルシウムなどは心筋細胞の電気的な特性に影響を与えると言われており、VTを誘発する可能性があります。抗不整脈薬
抗不整脈薬の中には、VTを引き起こす作用を有する薬剤が存在します。抗精神病薬や抗うつ薬
心筋細胞の電気的な特性に影響を与える作用を有する薬剤が存在します。アルコールや違法薬物
アルコールやコカインの使用が心臓の電気的活動に影響を与え、VTを誘発する可能性があります。遺伝性疾患
ブルガタ症候群やQT延長症候群、カテコラミン誘発性多形性VTなどの遺伝性疾患では、特定の遺伝子変異が心筋細胞の電気的な特性に影響を与える働きがあり心室頻拍のリスクが高まると言われています。心室頻拍の前兆や初期症状について
VTによって心拍数が速くなることで、心臓が十分に収縮・拡張できなくなり、全身に送り出す血液量が減少します。血液は酸素や栄養を運搬する役割を担っています。そのため、VTによって全身に送り出す血液量が減少することで、下記のような症状を呈することがあります。その場合は、循環器内科を受診しましょう。
動悸 心拍数が急激に増加するため、胸部で強い鼓動を感じることがあります。 息切れや呼吸困難 全身に十分な血液が行き渡らずに、息切れや呼吸困難を起こすことがあります。 めまいやふらつき 脳に十分な血液が行き渡らずに、めまいやふらつきを起こすことがあります。 胸部の不快感や痛み 心筋への酸素供給が不足することで、胸部に圧迫感や痛みを感じることがあります。 失神 VTが持続することで心臓から脳への血流が不足するために、失神することがあります。 心停止 長時間に渡りVTが持続することや、VTから致死性の不整脈に移行した場合には、心停止を起こす可能性があります。心室頻拍の検査・診断
VTの診断には、下記のようなものがあります。
心電図 VTは、心電図で異常な波形の出現を確認することで診断されます。通常の心電図検査だけでなく、ホルター心電図やイベントモニターを使用して持続的な不整脈を確認することもあります。 ホルター心電図 24時間に渡り装置を装着します。装着中の心電図波形は全て記録され、後に24時間分の心電図波形を解析することで不整脈などを調べます。 イベントモニター 専用のモニターを1週間程度装着します。症状を自覚した時に装着したモニターのボタンを押します。モニターにはボタンを押した時の波形が記録され、不整脈などを調べます。 心エコー検査 心エコーは心臓の構造や機能を評価するために使用されます。心筋症や心臓弁膜症などVTの原因となる器質的な心疾患や、心臓の動きを確認できます。 心臓カテーテル検査 冠動脈の状態や心筋の酸素供給状態を評価するために行われます。心筋梗塞や狭心症によるVTのリスクが高い場合に実施されることがあります。 電気生理学的検査(electrophysiologic test;EPS) 心臓カテーテル検査において、心室頻拍の発生源や回路を特定するために実施されることがあります。カテーテルを使用して心臓の電気活動を詳細に調べるために実施されることがあります。 血液検査 特にカリウムやマグネシウム、カルシウムなどは心筋細胞の電気的な特性に影響を与えるVTの原因となると言われているため、これらの値を調べることがあります。心室頻拍の治療
VTの治療には緊急時の処置と長期的な予防としての治療があります。治療方法はVTの持続時間、症状の重症度、基礎疾患の有無によって異なります。
抗不整脈薬 アミオダロンやリドカインなど不整脈の発生を予防・抑える薬が使用されることがあります。これらの抗不整脈薬は、心臓の異常な電気の興奮を制御し、急性の不整脈を抑制します。 カテーテルアブレーション 足の付け根の血管から心臓へカテーテルを入れ、異常な電気信号を発生させる心筋を焼灼する治療法です。近年では、カテーテルアブレーションを実施できる施設が増えており、不整脈の根治術として良好な成績をあげています。 植込み型除細動器(Implantable cardioverter-defibrillator;ICD) 再発するVTや心停止のリスクが高い患者さんに適応されます。この装置は、手術により前胸部に埋め込まれ、危険な不整脈を検出した際に、自動的に電気ショックを与えて心臓を正常な動きに戻すことができます。 除細動(DCショック) VTが持続し、命に危険が及んでいる場合、瞬間電気の除細動が必要です。これは心臓の電気活動をリセットして正常なリズムを回復させる治療です。




