監修医師:
高宮 新之介(医師)
目次 -INDEX-
ブルガダ症候群の概要
ブルガダ症候群は、心電図異常を主な特徴とする症候群です。
12誘導心電図のV1からV2(V3)誘導に見られる特徴的なST上昇の波形と心室細動を主徴として、不整脈原性失神や心室細動、心肺停止などが原因の突然死をきたす可能性があります。
ブルガダ症候群のST上昇には2タイプあり、それぞれSTが上昇するcoved型(Type 1)とSTが低下するsaddle back型(Type 2)です。
このうち、本来の心電図の記録部位よりも一肋間高位での記録や、薬物負荷後でもcoved型のST上昇が見られるものが「ブルガダ症候群」に該当します。
1992年にブルガダらによって報告されたため「ブルガダ症候群」という名前がついています。日本人をはじめアジア人が多い傾向にあり、欧米の成人では有病率が0.02〜0.15%なのに対し、日本の成人では0.1〜0.3%と報告されています。その中でも成人男性の発症が多く認められており、男女比は9:1です。
大多数は無症候性のブルガダ症候群と考えられますが、心室細動や心停止の既往歴を持つ症候性ブルガダ症候群の場合、突然死などイベント発生率は年間で10〜15%である、と報告されています。無症候性ブルガダ症候群のイベント発生率は0.3〜0.4%と言われています。
ブルガダ症候群の原因
ブルガダ症候群の約20%に、SCN5A(ナトリウムチャネル)遺伝子の変異が報告されています。加えて以下のことも分かっています。
- SCN5A変異がある患者は、変異がない患者に比べて致死性不整脈の発症リスクが高い
- SCN5A変異がある患者の中でも、変異の部位が中心孔領域にある症例で致死性不整脈の発症リスクが高い
SCN5A以外の遺伝子異常も関与している可能性がありますが、頻度は稀です。
また、特徴的な心電図波形となる原因について、以下のように考えられています。
- 右室流出路を中心とした再分極異常
- 心室細動発生の原因は、心外膜・心内膜の拡張期に生じる電位差が原因で起こる局所のリエントリー
ブルガダ症候群の前兆や初期症状について
ブルガダ症候群の前兆は特になく、多くの場合は無症状です。
初期に限ったものではありませんが、症状として以下のものが出現します。
- 心室細動
- 心肺停止蘇生の既往歴
- めまい
- 失神
- 胸部不快感
- 苦悶陽呼吸
これらは迷走神経が緊張状態にある安静時、就寝中、飲酒後に多く見られます。また、日中よりも夜間に発生する頻度が高い傾向にあり、運動中や発熱時にも認められます。
失神が起こった場合、反射性失神との鑑別が重要です。
「症候性ブルガダ症候群」と呼ばれる場合は年間で約10%突然死が見られます。
しかし、ブルガダ症候群は無症状に経過する「無症候性ブルガダ症候群」が圧倒的に多く、健康診断で心電図検査を受けた際に発見される場合がほとんどです。無症候性では心停止の発作を起こす頻度は1%もありませんが、健康診断で「ブルガダ心電図」と診断されたら循環器内科を受診しましょう。
ブルガダ症候群の検査・診断
ブルガダ症候群の検査は、主に心電図と臨床症状によって診断します。
日本循環器学会、日本心臓病学会、日本不整脈心電学会の合同研究班参加学会が発表している診断基準では、心電図において以下を必須所見としています。
- A. 自然発生のタイプ1 Brugada心電図(正常肋間あるいは高位肋間記録)
- B. 発熱により誘発されたタイプ1 Brugada心電図(正常肋間あるいは高位肋間記録)
- C. 薬物負荷試験にてタイプ1に移行したタイプ2またはタイプ3 Brugada心電図
主所見は臨床症状の以下四つであると定義しています。
- A. 原因不明の心停止あるいはVFまたは多形性VTが確認されている
- B. 夜間苦悶様呼吸
- C. 不整脈原性が疑われる失神
- D. 機序や原因が不明の失神
心電図の所見1項目+主所見の臨床病歴のいずれか1項目を満たした場合は有症候性ブルガダ症候群、心電図の所見1項目のみで臨床病歴がない場合は無症候性ブルガダ症候群と診断されます。
さらに、無症候性ブルガダ症候群におけるリスク評価の際は、必須所見と主所見に加えて以下の副所見を参考とします。
- A. 他の原因疾患を認めない30歳以下発症の心房粗動・細動の家族歴がある
- B. ブルガダ症候群と確定診断されている
- C. 発熱時発症、夜間就眠時発症、あるいはブルガダ症候群増悪薬物との関係が疑われる心臓突然死
- D. 45歳以下の原因不明の心臓突然死を認め、剖検所見で原因が特定されていない
- E. ブルガダ症候群を特定する病原性遺伝子変異(SCN5A)を認める
(出典:遺伝性不整脈の診療に関するガイドライン(2017 年改訂版))
特徴であるSTの変化を捉えやすくするために薬剤などを用いて負荷試験が行われることもあります。ブルガダ症候群のST上昇には日内変動があるため、時期によっては正常に見えることもあります。
ブルガダ症候群の治療
日常生活では以下の点に注意が必要です。
- 過度の飲酒を控える
- 発熱時はすみやかな解熱
- Naチャネル遮断薬の使用を避ける
- 経過観察中に失神した場合はすぐ受診
家族は市民講習会などに参加し、心肺停止が起きた際の対応を学んでおくことも理想的です。
薬物治療では、キニジン、シロスタゾール、べプリジル、イソプロテレノール(発作時)が検討されます(シロスタゾールとイソプロテレノールは保険適用外)。抗不整脈薬によって発作が誘発される可能性があるため、慎重な投与が求められます。
ブルガダ症候群の突然死予防に有効なのは、植込み型除細動器(ICD)です。
ICD適応は「タイプ1心電図+心肺停止蘇生歴・VF既往あり」がクラスⅠ、「coved型心電図+失神または突然死の家族歴+EPSで心室細動誘発」がクラスⅡaです。
多施設共同研究では、ICD植込み患者の適切作動は年間2.6%、不適切作動などICD関連合併症は年間8.9%と報告されています。10年間の不適切作動発生率は37%、リード不全は29%。活動性が高い年齢層が大半であることから、ICD関連合併症発生の可能性もあります。そのため、リスク層別化して、高リスク例に限定してICD植込みを行うことが推奨されます。
また、カテーテルアブレーションも状況に応じて検討される場合があります。
ブルガダ症候群になりやすい人・予防の方法
ブルガタ症候群になりやすい人
なりやすい人の特徴
- 男性
- 自然発生タイプ1のブルガダ心電図所見
- 突然死の家族歴
- 遺伝子(SCN5A)変異
- 不整脈源性失神
特定の疾患はありませんが、約20%にSCN5A遺伝子異常、約20%で家族歴があり、そのほかは単一の異常では説明できない可能性もあります。
予防の方法
予防としては、ICD植込みや生活習慣の改善が挙げられます。ICDは適応条件がありますが、今後は無症候性ブルガダ症候群における長期的な突然死発生頻度の把握が課題とされています。
関連する病気
- 心室性不整脈
- 家族性突然死症候群
- 特発性心室細動
- 心房細動
- 長QT症候群
- 睡眠時無呼吸症候群
参考文献