目次 -INDEX-

林 良典

監修医師
林 良典(医師)

プロフィールをもっと見る
名古屋市立大学卒業。東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科を経て現職。診療科目は総合診療科、老年科、感染症、緩和医療、消化器内科、呼吸器内科、皮膚科、整形外科、眼科、循環器内科、脳神経内科、精神科、膠原病内科。医学博士。公認心理師。日本専門医機構総合診療特任指導医、日本老年医学会老年科専門医、禁煙サポーター。

洞不全症候群の概要

心臓の拍動が不規則であったり、拍動の頻度が極度に多かったり少なかったりする状態を不整脈といいます。心臓の一分間の拍動の回数を心拍数と呼び、心拍数がおよそ50回/分以下と極端に少ない状態を徐脈といいます。逆に心拍数がおよそ100回/分以上と極端に多い状態を頻脈といいます。徐脈性不整脈(徐脈となる不整脈)には、洞不全症候群や房室ブロックがあります。

本稿ではその中の、洞不全症候群について記載します。洞不全症候群は洞結節周囲の機能の障害により徐脈となり、めまい、失神、易疲労感などの症状をきたす症候群です。

洞不全症候群の原因

心臓は血液を全身に送り出すポンプの働きをしています。肺や全身から戻ってきた血液は心臓の上側の部屋である心房に入り、心房が収縮すると心臓の下側の部屋である心室に入ります。心室が収縮すると、その血液は肺や全身に送られます。このポンプ機能は電気信号によって制御されています。

電気信号が伝わっていく経路を刺激伝導系と呼び、電気的興奮は洞結節と呼ばれる場所から始まります。洞結節で生じた興奮が房室結節、ヒス束、脚、プルキンエ線維という場所に順番に伝わっていきます。この中の洞結節周囲の機能が障害されて徐脈になるのが洞不全症候群です。原因としては特発性のものが多いと言われていますが、副交感神経の緊張、電解質異常、内分泌異常、脳圧の亢進、低体温、薬剤による二次的なものもあります。これらの可逆的・生理的な原因(一過性の原因)に加え、器質的な疾患が原因となる場合があります。

器質的な原因(慢性の原因)
虚血性心疾患、心筋症、アミロイドーシス、心筋炎、心膜炎、高血圧、膠原病などがあります。洞不全症候群は心電図検査により、Ⅰ型(洞徐脈)、Ⅱ型(洞停止または洞房ブロック)、Ⅲ型(徐脈頻脈症候群)の3タイプに分類されます(Rubensteinの分類)。徐脈頻脈症候群は脈拍が遅くなる洞徐脈発作と、心房細動などで脈拍が速くなる頻脈性の不整脈発作が交互にみられる症候群です。

洞不全症候群の前兆や初期症状について

徐脈により心拍出量が低下すると、息切れや全身の倦怠感が出現します。また、脳への血流が減ることで、めまいや失神、眼前暗黒感が出現することがあります。Rubensteinの分類のⅢ型(徐脈頻脈症候群)では、先行する頻拍を動悸として自覚することもあります。また、洞不全症候群は心不全を合併することがあり、その場合は息切れや浮腫などの心不全の症状を認めます。上記のような症状があり、洞不全症候群が心配な場合は循環器内科を受診しましょう。

洞不全症候群の検査・診断

心電図検査

心電図検査は洞不全症候群の検査の中でも重要な検査です。通常、まずは安静時に胸や手足に電極を付けて測定する、12誘導心電図を行います。12誘導心電図では洞不全症候群などの不整脈の診断に加え、虚血性心疾患などの器質的疾患がないか確認するのにも使います。12誘導心電図は検査室で行う検査なので30秒ほどの短時間しか測定できません。

一方でホルター心電図は24時間と長時間の記録が可能な検査です。電極を付けたまま生活し、心電図を記録する検査です。発作性の不整脈の検出にはホルター心電図を使うことがあります。24時間のホルター心電図で不整脈が検出されなかった場合、さらなる長時間の検査となるイベント心電図(イベントレコーダー)を使用することもあります。運動に関連した症状がある場合には、運動負荷心電図を行うことがあります。

心エコー検査

心エコー検査(経胸壁心エコー検査)は、胸の上から機械を当てて、超音波によって心臓の動きや機能を調べる検査です。侵襲が少なく簡便なため、スクリーニング検査として有用です。

洞不全症候群が疑われる場合は、虚血性心疾患や心筋症などの器質的心疾患を確認するために心エコー検査を行います。洞不全症候群自体の有無を調べる検査ではありません。

胸部X線検査

洞不全症候群では心不全を合併することがあり、その診断のために胸部X線検査を行います。この検査も洞不全症候群自体の有無を調べる検査ではありません。

血液検査

電解質異常などの洞不全症候群の原因の検索や、心不全合併の有無を確認するための補助検査、スクリーニング検査として血液検査を行います。

睡眠時無呼吸検査

夜間に徐脈を認める場合には睡眠時無呼吸の関与があることがあり、その検査を行います。

心臓電気生理学的検査

心臓電気生理学的検査(EPS)は血管にカテーテルと呼ばれる管を入れて、心臓の内部から心臓の電気活動を調べる検査です。
疑わしい症状があるにも関わらず異常な心電図が確認できない症例などで行うことがあります。

洞不全症候群の治療

原因への対処と薬物治療

夜間に見られる洞徐脈などの無症候性の徐脈に対しては、通常、治療適応はありません。有症候性の症例にはペースメーカー植込みが治療の第一選択となりますが、電解質異常や薬剤などによって徐脈が生じている場合にはまずは原因への対処を行います。

電解質の補正は時間がかかることもあり、また薬剤による徐脈の場合でも薬剤を中止してもすぐには薬剤の影響がなくなるわけではありません。そのため、高度の徐脈がある場合は原因への対処と同時に一時的ペーシングを行います。

一時的ペーシングとは機械によって一時的に心臓に電気信号を送る治療です。静脈を経由して心臓の右心室からペーシングを行う右室ペーシングや、胸にパッチ電極をつけて行う経皮的ペーシングがあります。
一時的ペーシングの開始までの橋渡しの治療として、徐脈に対しての薬物治療を行う場合もあります。その際には、アトロピンやイソプロテレノール、アドレナリン、ドパミンなどを使用します。

ペースメーカー植込み

失神や眼前暗黒感がある場合、それが転倒や骨折などの事故につながる可能性があります。
そのため、失神などの症状や心不全があり、それが洞不全症候群によるものと考えられる場合は恒久的なペースメーカー植込みの適応となります。恒久的ペースメーカー治療では、体内にペースメーカーを植込み、心臓の電気活動をサポートします。

ペースメーカーは皮下に留置する本体と、心臓内に留置するリードと呼ばれる管で構成されます。本体で電気刺激を発生させ、リードを通してそれを心臓に伝えます。ペースメーカーは手術によって留置されます。最近ではリードが存在せず直接心臓の中に入れるリードレスペースメーカーが使用可能ですが、その適応は限定されています。

中止可能な薬物によって徐脈が引き起こされている場合は、まずその薬物の中止を試みますが、中には中止できない薬物もあります。そのような必要不可欠な薬物投与により洞不全症候群となっている場合も、ペースメーカー治療の適応となります。たとえば、徐脈頻脈症候群の場合、頻脈を抑える薬が必要なことがあります。
頻脈を抑える薬は徐脈を助長させてしまう場合があり、この場合は頻脈を抑えるのには薬剤を利用して、徐脈になったときの対応のためにペースメーカーを植込みます。

洞不全症候群になりやすい人・予防の方法

洞不全症候群の原因としては特発性のものが多く、加齢が大きな要因とされています。加齢に伴い、洞結節細胞や周囲の心房筋が変性し、線維化する可能性があると考えられています。

虚血性心疾患や心筋症、甲状腺機能低下症などの基礎疾患がある方は洞不全症候群などの不整脈を合併することがあります。また、β遮断薬などの徐脈を引き起こす薬剤を内服している場合、洞不全症候群を発症することがあります。


関連する病気

この記事の監修医師