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房室ブロック
小鷹 悠二

監修医師
小鷹 悠二(おだかクリニック)

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福島県立医科大学医学部卒業 / 専門は循環器内科 / 2009/4月~2013/3月 宮城厚生協会坂総合病院 / 2013/4月~2017/3月 東北大学病院循環器内科・同大学院 医員 / 2017/4月~2018/5月 仙台オープン病院 循環器内科医長 / 2018/5月~ おだかクリニック 副院長 / 診療所での外来業務に加え、産業医、学校医としての業務も行っている。 また、医師業務以外の副業も積極的に行っており、ビザスクなどを通して企業の医療アドバイザー業も副業として行っており、年間70社以上の会社にアドバイザーとして助言を行うなどしている。 ライティングも行っており、m3.comや、Ubie病気のQ&A(https://ubie.app/byoki_qa/doctors/yn8ueqd6kjn)などにて定期的に執筆活動を行っている。

房室ブロックの概要

房室ブロック(AVブロック)とは「心臓の電気信号が心房から心室に正常に伝わらなくなる状態」を指します。

心臓が正常に機能するためには、心房で生成された電気信号が房室結節を通過し、心室に伝わることが必要です。

しかし、房室ブロックではいずれかの部位(房室結節、ヒス束、ヒスープルキンエ系)でこの信号伝達が遅れたり途絶えたりするため、心臓の拍動が不規則になり、場合によっては心停止に至ることもあります。

房室ブロックは、以下のように3つのタイプに分類されます。それぞれの重症度と症状は異なり、特にⅢ度房室ブロックは最も重症で、緊急治療が必要です。

種類 特徴
Ⅰ度房室ブロック 心房から心室に刺激が伝わるのが遅くなっており、PQ間隔(心電図の幅)が正常の0.12〜0.22秒より延長する不整脈
Ⅱ度房室ブロック ウェンケバッハ型 PQ間隔が徐々に延長して、ついにはQRS波が欠落することもある不整脈
モビッツⅡ型 ・PQ時間は一定で正常と変わらないが、突然QRS波が欠落
・P波だけの時間が長くなると脳虚血(血流が不足する)の症状が現れたり、QRS波欠落が続くと致死的な不整脈(死に至る)に移行しやすい
Ⅲ度房室ブロック ・心房からの電気刺激が心室へ伝わらない状態
・脳の虚血状態による失神発作をアダムスストークス発作といい、意識消失、めまい、けいれんの症状がみられる
・致死的な不整脈に移行しやすい

参考:2022 年改訂版 不整脈の診断とリスク評価に関するガイドライン|日本循環器学会/日本不整脈心電学会合同ガイドライン
 

房室ブロックは加齢や心疾患、薬剤の副作用などが原因で発生することもあり、早期の診断と適切な治療が重要です。

房室ブロック

房室ブロックの原因

房室ブロックの原因は多岐にわたりますが、主な原因は次の2つです。

  • 加齢による房室結節の機能不全
  • 心疾患による房室結節の障害

加齢に伴い、心臓の電気系統が劣化して信号伝達がうまく伝わらなくなると、心拍数が遅くなったり、リズムが不規則になったりします。

特に、高齢者ではこの劣化が進行しやすく、房室ブロックのリスクが高まります。

虚血性心疾患(心筋への血流が不足する状態)や心筋炎(心筋の炎症)などの心疾患は、心臓の組織に損傷を与え正常な電気信号の伝達を妨げるため、房室ブロックを引き起こします。

加齢や心疾患の他に、一部の薬剤も房室ブロックの原因になることがあります。β遮断薬やカルシウム拮抗薬などは心臓の電気信号を遅延させる作用があり、効果が強すぎる場合、房室ブロックが発生することがあります。

房室ブロックの前兆や初期症状について

房室ブロックの前兆や初期症状には、心拍の異常が見られます。

徐脈(心拍数の低下)は房室ブロックの一般的な症状で、心拍数が低下することで疲れやすさや息切れが現れる場合があります。

Ⅰ度房室ブロックでは症状がないことも多いですが、Ⅱ度房室ブロックやⅢ度房室ブロックに進行すると、心臓から全身への血液の供給が不十分になるため、めまいや失神などの症状も見られます。

Ⅲ度房室ブロックのような重度の場合、心臓の電気信号が完全に遮断されるため、緊急の治療が必要になる場合があります。

房室ブロックの前兆や初期症状を見逃さず、早期に医療機関での検査を受けることが重要です。

特に、めまいや失神などの症状が現れた場合には、速やかに医師に相談することが大切です。早期に診断し適切な治療を受けることで、症状の進行を防ぎ、健康を守ることができます。

房室ブロックの検査・診断

房室ブロックの検査には、房室ブロックの程度やタイプを特定するために、心電図検査が用いられます。

しかし、房室ブロックが一過性、もしくは間欠的に出現する場合は、通常の心電図検査では全ての異常を検出できないため、ホルター心電図という24時間心電図検査を行います。ホルター心電図を使用することで、日常生活中の心拍の変化を長期間にわたって記録し、房室ブロックのパターンを詳細に分析できます。

さらに、心臓の電気的異常が心筋の異常と関連しているかどうかを調べるために、心エコー検査を行います。

心エコー検査は超音波を用いて心臓の構造や機能を確認でき、房室ブロックの診断において有効な検査です。

重症の場合や他の検査結果が不明瞭な場合は、心臓MRIや心臓CTが追加で行われることもあります。

これらの検査を組み合わせて実施することで、医師は房室ブロックの種類や重症度を評価し、適切な治療方針を決定します。

房室ブロックの治療

房室ブロックの治療は、重症度と患者さんの状態に応じて異なります。軽度の房室ブロックでは、特に治療を必要としないことが多く、定期的な経過観察が行なわれます。

モビッツⅡ型やⅢ度房室ブロックなどの中等度から重度の房室ブロックでは治療が必要です。

主な治療方法は、心臓ペースメーカーの装着です。心臓ペースメーカーは、左肩の血管から電極のついたリードを心臓内に挿入し、本体を皮下に植え込むことで、心臓の電気信号を人工的に調整します。これにより、正常なリズムを維持し、心臓の機能をサポートします。

現在のところ(2024年9月時点)、房室結節の障害を改善する薬物は存在しませんが、必要に応じて症状に応じた治療が行われます。症状が軽度である場合や、心臓ペースメーカーを装着するほどではない場合には、対症療法として薬物療法が選択されることがあります。

治療の選択肢は患者さんそれぞれの脈拍の状況や自覚症状により異なるため、専門医による診断と相談が重要です。適切な治療を受けることで、症状の緩和と心臓機能の維持が期待できます。

房室ブロックになりやすい人・予防の方法

房室ブロックを発症しやすいのは、高齢者や心疾患がある人、β遮断薬(心臓の働きを休めて保護する薬)を飲んでいる人です。

予防方法としては、心臓の健康を保つことが重要です。健康的な食事と定期的な運動を心がけることで、心疾患のリスクが減少します。

高血圧や糖尿病を予防・管理することも、房室ブロックのリスク低下につながります。

また、定期的な健康診断を受けることも、心臓の異常を早期に発見するために大切です。心電図や心エコー検査などで定期的に心臓の状態をチェックすることが、房室ブロックの予防につながります。


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