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井林雄太

監修医師
井林雄太(田川市立病院)

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大分大学医学部卒業後、救急含む総合病院を中心に初期研修を終了。内分泌代謝/糖尿病の臨床に加え栄養学/アンチエイジング学が専門。大手医学出版社の医師向け専門書執筆の傍ら、医師ライターとして多数の記事作成・監修を行っている。ホルモンや血糖関連だけでなく予防医学の一環として、ワクチンの最新情報、東洋医学(漢方)、健康食品、美容領域に関しても企業と連携し情報発信を行い、正しい医療知識の普及・啓蒙に努めている。診療科目は総合内科、内分泌代謝内科、糖尿病内科、皮膚科、耳鼻咽喉科、精神科、整形外科、形成外科。日本内科学会認定医、日本内分泌学会専門医、日本糖尿病学会専門医。

心室中隔欠損症の概要

心室中隔欠損症は、心臓にある左右の部屋(心室)を区切る壁に穴があく病気です。
子どもがうまれつきもつ心臓の病気のなかでよくみられる疾患の1つですが、穴が小さければ症状はほとんどありません。ただし穴が大きいと、肺高血圧を引き起こすリスクがあります。病気の特徴や合併症、発症率を具体的にみていきましょう。

病気の特徴

心室中隔欠損症は心臓の壁に穴があく病気です。
右心室と左心室の間の壁に穴があくことにより、左心室の血液が右心室に流れてしまいます。左心室の筋肉は右心室に比べ強いので、左右の壁に穴があいてしまうと左心室から右心室に血液が流れやすくなります。
その結果、右心室と繋がっている肺動脈に血液が多く流れ、肺で血液がとどこおってしまう肺うっ血や、肺動脈の血圧が上昇する肺高血圧を引き起こすことが特徴です。

穴が小さい場合、症状はみられにくいとされていますが、穴が大きいと肺高血圧のリスクは高まります。早期に手術を行えば、肺高血圧は改善される可能性が高いです。
ただし、長い間血液が流れる状態が続いてしまうと、術後も肺高血圧が改善されず、さらに悪化する場合もあります。

合併症

心室中隔欠損症は単独で起こることもありますが、ほかの心疾患の合併も少なくありません。
重症の場合、大動脈狭窄、僧帽弁閉鎖不全、動脈管開存などを合併することがあります。
そのため、これらの疾患の合併も視野に入れて診断を進めることが大切です。

発症率

心室中核欠損症は、うまれつき心臓に異常を伴う病気(先天性心疾患)です。
おおよそ1%(100人に1人)の割合で起こる病気とされています。
子どもの心臓の病気のなかでは多く、先天性心疾患の約20%以上を占めています。

心室中隔欠損症の原因

心室中隔欠損症は、母親の胎内で赤ちゃんの心臓が作られる過程で何らかの異常が起こり、心臓の形成が不完全になってしまったことで起こる病気です。原因は今のところ明らかにされていませんが、原因となる因子は以下のようなものが考えられています。

  • 染色体異常や遺伝子因子
  • 風疹などの先天性ウィルス疾患
  • 母体の糖尿病や貧血などの疾患
  • 母親や父親の飲酒や喫煙、薬などの影響

これらの因子が単独で影響するわけではなく、さまざまな因子が重なり合うことで病気が起こる可能性が高いとされています。

心室中隔欠損症の前兆や初期症状について

穴の大きさやあいている場所によって症状は異なります。
穴の大きさによる症状をそれぞれ紹介します。

穴が小さい場合の症状

穴が小さい場合、穴から流れる血液の量は少なく、症状もほとんどありません。
穴が極端に小さい場合、自然に閉じることもあるので、成長するまで様子をみるケースもあります。
大体生後1〜2年以内に穴が自然に閉じる方も少なくありません。
ただし、大動脈弁の変形があるなど、心臓の穴の場所によっては、小さくても手術を検討するケースもあります。

穴が大きい場合の症状

穴が大きい場合、乳幼児の時期からミルクを飲む量が減ったり、体重が増えにくくなったりといった症状がみられます。
ほかにも呼吸が早くなる、汗をよくかくなどが症状の特徴です。
穴が大きいほど肺高血圧や心不全になるリスクが高いため、早めに手術をする必要があります。

受診する診療科

心室中隔欠損症の診療科は乳幼児や子供の場合は小児科や小児循環器科、成人の場合は循環器内科です。
早期の診断と治療で病気の悪化を予防できるので、初期症状や異常を感じたら速やかに受診することが重要です。また、赤ちゃんの場合乳幼児検診で発見されやすいので、乳幼児検診は必ず受けるようにしましょう。

心室中隔欠損症の検査・診断

心室中隔欠損症の診断は、まず聴診で可能性を疑い、胸部X線や心電図で心臓の状態を確認し、心エコー検査によって確定します。それぞれの詳細は以下の通りです。

聴診所見

聴診器を使用し、心臓の音を確認します。
穴が小さい場合、聴診すると心雑音(血液が流れる際に生じる異常音)が聴かれます。穴が大きい場合も同じく心雑音が聴かれますが、小さい場合に比べ音は小さいです。また、小児の検診時に心雑音が聴かれたことで、心室中隔欠損症に初めて気付くケースも少なくありません。

胸部X線検査

胸部X線検査とはレントゲンのことです。穴が小さい場合、X線で異常はみられませんが、穴が大きいと心臓が通常より大きく見え、肺の血管もはっきりと見える特徴があります。

心電図

心室中隔欠損症の心電図所見では、心臓の右下の部屋(右心室)もしくは左右両方の下の部屋(両室)が通常より大きくなっている状態を認めます。ときには、左上の部屋(左心房)の拡大が認められる場合もあります。

心エコー

心エコーは聴診、胸部X線、心電図を実施後、詳しく診る際に実施します。
心エコー検査でわかる所見は次の通りです。

  • 心臓の壁にあいている穴の場所
  • 穴を通って流れる血液の量
  • 肺の血圧が高くなっていないかどうか
  • そのほか、心臓の形や働きに異常がないか

また、似たような心雑音になる疾患には次のようなものがあります。

  • 大動脈狭窄
  • 肺動脈狭窄
  • 僧帽弁閉鎖不全
  • 三尖弁閉鎖不全
  • 左室右房交通症
  • 総動脈幹症

これらの疾患との鑑別を行うためにも、心エコー検査を実施します。
聴診所見や胸部X線検査、心電図検査を行う中で心疾患の可能性が疑われた場合、心エコー検査を行い確定診断がつきます。

心室中隔欠損症の治療

心室中隔欠損症の治療は定期的な受診による経過観察で済む場合もあれば、手術が必要なケースもあります。
具体的にみていきましょう。

経過観察

穴が小さい場合、穴を流れる血液の量は少なく症状が見られにくいです。なかには1、2歳までに自然に穴がふさがるケースも多く、外来で経過観察となります。

手術

穴が大きい場合や心不全の症状が強い場合、手術が必要です。また、穴が小さくてもあいている場所によっては手術が必要な場合もあります。特に重症の場合は生後1〜2ヵ月で手術を行うことも少なくありません。

手術は、人工心肺という心臓の代わりに血液を送り出す装置を用いて行います。
心臓を一度停止させ、パッチと呼ばれる人工のあて布を用いて細かい針と糸で縫合し、穴の部分を閉鎖します。

予後

適切なタイミングで手術を受けた場合、ほとんどの方が普通に生活ができます。運動制限も少なく、長期の服薬などもほぼありません。ただし、患者さんの病状によってはこの通りではないケースもあります。

また、穴が大きく肺高血圧症や心不全が長く続いた場合、手術をした後に症状が残ってしまう可能性があります。
病状は患者さんにより異なるため、主治医の説明をよく聞き、理解することが重要です。

心室中隔欠損症になりやすい人・予防の方法

心室中隔欠損症は先天性の病気であるため予防は難しいです。
染色体や遺伝子の異常が関係している可能性がありますが、原因ははっきりとわかっていないため、どのような人がなりやすいかも解明されていません。

ただし、心室中隔欠損症の乳児はRSウイルスに感染すると重症化しやすいことがわかっています。
RSウイルスは有効な治療薬がないため、感染しないよう予防することが重要です。
重症化のリスクがある場合、シナジスという重症化を抑制する注射薬を使用することがあります。

また、心室中隔欠損症の場合、感染性心内膜炎になりやすいとされています。
感染性心内膜炎は心臓内で細菌が繁殖してしまう病気です。
これは手術で治療した場合と経過観察の場合のどちらでも発症するリスクがあります。
外科的処置をする際に細菌が入る恐れがあるため、心室中隔欠損症の方は歯医者で抜歯をする際や
大怪我をしたときには抗生物質を予防的に使用する必要があります。


関連する病気

  • 肺高血圧症(Pulmonary Hypertension)
  • 心不全(Heart Failure)
  • 心房中隔欠損症(Atrial Septal Defect
  • ASD)

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