![](https://media.medicaldoc.jp/wp-content/uploads/2024/12/DI0622.png)
![高宮 新之介](https://media.medicaldoc.jp/wp-content/uploads/2024/09/img_d2226_dr.takamiya.jpg)
監修医師:
高宮 新之介(医師)
大動脈弁狭窄症の概要
心臓はポンプの機能があり、全身に血液を送っています。右心房、右心室、左心房、左心室の4つの部屋に分かれており、血液が逆流しないようそれぞれの部屋に弁と呼ばれる扉のような組織があります。
この弁の機能不全によって、血行動態に異常が生じた状態を心臓弁膜症と呼びます。
心臓弁膜症は心不全の原因となる疾患の一つです。心臓弁膜症の中で左心室の出口にある大動脈弁の機能不全により出口が狭くなった状態を大動脈弁狭窄症といいます。
大動脈弁が狭くなると左心室に慢性的な圧負荷がかかります。その結果として左室肥大の進行、左室線維化の亢進が生じ、左室機能障害をきたします。
大動脈弁狭窄症の原因
先進国では加齢による大動脈弁の変性が最も大きな大動脈弁狭窄症の原因です。
加齢に伴って動脈硬化が進んで、弁が硬くなります。手術が必要な重症大動脈弁狭窄症のおよそ8割以上が加齢による弁の変性が原因と言われています。
その他の原因として、リウマチ性の大動脈弁狭窄症があります。リウマチ熱に罹患すると弁の炎症によりリウマチ性の弁膜症になることがあります。
最近ではリウマチ熱に対しての適切な治療が行われるようになってきているので、リウマチ性の弁膜症は減っています。
通常の大動脈弁は3つの弁尖と呼ばれる膜がくっついて閉じる三尖弁ですが、一尖弁、二尖弁、四尖弁など、先天的に弁尖の数が違う方がいます。
この場合は若くても大動脈弁狭窄症になることがあります。この中で最も多いのが二尖弁で、一尖弁や四尖弁は稀です。
大動脈弁狭窄症の前兆や初期症状について
労作時の息切れなどの心不全症状や狭心症のような胸の痛み、失神などが主な症状です。
大動脈弁狭窄症では心雑音を聴取することがあり、健康診断などの聴診で発見されることもあります。
また、稀ではありますが、重症例では突然死の危険もある病気です。
大動脈弁狭窄症が心配な場合は循環器内科を受診しましょう。
大動脈弁狭窄症の検査・診断
身体所見
聴診では心雑音を聴取します。心臓が収縮する期間である収縮期に聞こえるので、収縮期雑音と呼びます。
収縮期雑音は胸から首まで広がる場合があります。
大動脈弁狭窄症が進行すると左心室の機能が障害されます。その場合は心臓から出る血液が少なくなるので、収縮期雑音は小さくなります。
このように、収縮期雑音の強さに比例して大動脈弁狭窄症が重症になるとは限りません。
血液検査
心不全マーカーである、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP:brain natriuretic peptide)を測定し、弁膜症の重症度評価や予後予測に用いる場合があります。
大動脈弁狭窄症があるかないかを確認する検査ではありません。
心エコー図検査
心エコー図検査は大動脈弁狭窄症の診断および重症度の評価に重要な検査です。
胸の外から機械を当てて超音波で心臓の形や動きを測定します。
大動脈弁の形態や開放の程度、石灰化の有無などを確認して大動脈弁狭窄があると考えられたら、大動脈弁付近での血流の速度や弁の前後での圧較差を計測します。
血流速度から弁口面積を算出することができます。弁の断面をトレースすることでも弁口面積を求めることができますが、進行した大動脈弁狭窄症の場合は石灰化沈着のために正確なトレースが困難なことがあります。
心エコー図検査では心臓の動き(収縮能)や壁の厚さ、大動脈の拡大、その他の弁についても観察を行います。
一般的な胸の外から機械を当てる経胸壁心エコー図検査では画質が不良となり、十分に評価ができないことがあります。その場合は食道から心臓を観察する経食道心エコー図検査を行います。
経食道心エコー図検査は、胃カメラのように口から心エコーの機械を挿入して心臓を観察する検査であり、経胸壁心エコー図検査よりも侵襲が大きく適応は限られています。
安静時の心エコー図検査だけでは評価が不十分な場合、運動負荷心エコー図検査やドブタミンという薬剤を用いたドブタミン負荷心エコー図検査を行うことがあります。
心電図検査
大動脈弁狭窄症により左室肥大の所見が認められることがあります。
また、大動脈弁狭窄症に虚血性心疾患や不整脈を合併していることもあり、それらの所見を確認します。
胸部X線検査
弁膜症は心不全の原因となります。
胸部X線検査によって、心不全の際に認める肺うっ血や心臓の拡大の有無を確認することができます。
心臓カテーテル検査
大動脈弁狭窄症の手術を行う場合、術前検査に心臓カテーテル検査を行うことがあります。
冠動脈に造影剤を流して冠動脈狭窄が無いかを確認します。
心エコー図検査で大動脈弁狭窄症の重症度の評価が困難な場合は、大動脈左室同時圧測定を行う場合があります。
CT検査
大動脈弁狭窄症の手術を行う場合、術前検査として行う場合があります。
心臓カテーテル検査よりも安全に行えるため、冠動脈狭窄の評価に冠動脈CT検査が選択されることがあります。
心臓CTは大動脈弁の形態や石灰化の評価に優れており、TAVIを行う場合は重要な検査です。
大動脈弁狭窄症の治療
外科手術
大動脈弁狭窄症の主な治療は外科手術です。
大動脈弁を人工弁に置き換える、大動脈弁置換術を行います。
人工弁は機械弁と生体弁があり、それぞれ特徴が違います。
機械弁は耐久性の面で生体弁よりも優れていますが、血栓を防ぐために生涯にわたり抗凝固薬を飲む必要があります。
一方で生体弁は抗凝固療法をずっと続ける必要は無いものの耐久性の面で機械弁に劣ります。
そのため、高齢の場合には生体弁を、若年の場合には機械弁を選択することが一般的です。
大動脈弁狭窄症の中でも手術適応があるのは一部であり、すべての大動脈弁狭窄症に手術を行うわけではありません。
症状があって、重症の大動脈弁狭窄症が主な適応です。
症状がない重症大動脈弁狭窄症の場合は、左心機能や手術リスク、その他の開心術の施行予定などを踏まえて総合的に判断します。
軽症~中等症の大動脈弁狭窄症では一般的に手術は行わず、定期的に経過を見ます。
他の疾患で開心術を行う場合には、中等症の大動脈弁狭窄症でも同時に手術を行うことはあります。
重症であれば半年から一年ごと、中等症であれば一年から二年ごと、軽症であれば三年から五年ごとの経過観察が推奨されています。
経過観察時は心エコー図検査や血液検査で心不全のマーカーであるBNPの測定を行います。
カテーテル治療
高齢やその他の疾患による影響で、外科手術を行う危険性が高い方には経カテーテル大動脈弁植え込み術(TAVI:transcatheter aortic valve implantation)を行う場合があります。
TAVIはカテーテルという管を用いて、人工弁を植え込む治療法です。
脚の付け根から管を入れる経大腿アプローチが第一選択とされていますが、血管に問題があり他の部位からのアプローチを採用する場合もあります。
その場合は経心尖、経鎖骨下、経大動脈アプローチなどでTAVIを行います。
内科的治療
大動脈弁狭窄症は内科的治療のみでは改善しません。
しかしながら、高血圧を合併する場合は虚血性心血管イベントや死亡の危険性が高いという研究結果もあり、高血圧治療は重要と考えられています。
降圧剤を使う場合は、急激な血圧の低下を避けるために少量からゆっくりと漸増していくことが推奨されています。
大動脈弁狭窄症の進行抑制に脂質異常症の治療薬であるスタチンの有効性が期待され、さまざまな研究が行われてきました。
しかしながら、現時点で大動脈弁狭窄症の進行抑制に対するスタチンの有効性は証明されていません。
大動脈弁狭窄症になりやすい人・予防の方法
大動脈弁狭窄症の主な原因は、大動脈弁の変性によるものです。
高血圧、高LDL血症、喫煙などの動脈硬化の危険因子が、大動脈弁の石灰化を進行させ、大動脈弁狭窄症を悪化させる可能性があることが報告されています。
しかしながら、これらの因子がすべての患者において同じように進行に影響を与えるわけではなく、個々のリスクプロファイルによって異なる可能性があります。
したがって、現時点では完全に統一された見解が確立されているわけではありませんが、動脈硬化リスク因子の管理が進行を遅らせる可能性があると考えられています。
関連する病気
- 弁膜症(Valve Disease)
- 高血圧(Hypertension)
- 動脈硬化(Atherosclerosis)
参考文献