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慢性炎症性脱髄性多発神経炎
田頭 秀悟

監修医師
田頭 秀悟(たがしゅうオンラインクリニック)

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鳥取大学医学部卒業。「たがしゅうオンラインクリニック」院長 。脳神経内科(認知症、パーキンソン病、ALSなどの神経難病)領域を専門としている。また、問診によって東洋医学的な病態を推察し、患者の状態に合わせた漢方薬をオンライン診療で選択する治療法も得意としている。日本神経学会神経内科専門医、日本東洋医学会専門医。

慢性炎症性脱髄性多発神経炎の概要

慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)は、免疫の誤作動によって自分の神経が攻撃される自己免疫疾患のひとつです。この攻撃によって「髄鞘(ずいしょう)」という神経細胞の軸索(じくさく)を覆う脂質の層が損傷し、手足の力が弱くなったり、しびれたりするなどの症状が現れます。

慢性炎症性脱髄性多発神経炎の患者は約5,000人と推計され、乳幼児から高齢者まで幅広い年齢で発症することがあります。男女どちらにも発症しますが、患者数の比率は男性がやや多いと報告されています。

(出典:難病情報センター「慢性炎症性脱髄性多発神経炎/多巣性運動ニューロパチー(指定難病14)」

慢性炎症性脱髄性多発神経炎は、2ヶ月以上にわたって症状がゆっくり進行、もしくは再発がみられることが特徴です。
慢性炎症性脱髄性多発神経炎に似た病気にギラン・バレー症候群があります。どちらも末梢神経の病気で症状が似ていますが、ギランバレーは急に発症し、原則再発しないことが大きな違いです。

慢性炎症性脱髄性多発神経炎は、症状が治まって落ち着くこともありますが、なかには治りにくく長期間続くこともあります。そのため、疑わしい症状がある場合は、早めに診断を受けて治療を始めることが大切です。

慢性炎症性脱髄性多発神経炎

慢性炎症性脱髄性多発神経炎の原因

慢性炎症性脱髄性多発神経炎の原因は、はっきりとは分かっていません。

免疫系が誤って自分の神経を攻撃した結果、髄鞘(ずいしょう)と呼ばれる神経線維を覆う膜が損なわれることが原因と考えられています。ほかにも、感染症や遺伝的な要因、生活環境、ストレスなどの関与も指摘されています。

この髄鞘が損なわれ神経の働きが正常に行われなくなることで、手足の力が弱くなったり、しびれ、感覚の鈍さなどの症状が現れることがあります。

慢性炎症性脱髄性多発神経炎の前兆や初期症状について

慢性炎症性脱髄性多発神経炎の初期症状には手足の筋力低下やしびれ、違和感などがあります。これらの症状は左右対称に現れることが多いです。

筋肉への運動神経の信号がスムーズに伝わらなかったり、手足の感覚神経から脳に情報がいかなかったりすることで、このような症状が現れます。ほかにも、脳神経が障害され、顔面の麻痺やしゃべりにくさなどの症状がみられることもあります。

慢性炎症性脱髄性多発神経炎の症状は、特に足の先や指先から始まり、徐々に広がっていくことが一般的です。また、筋力が低下することで階段の上り下りが難しくなったり、歩行が不安定になったりします。重たい物を持つのが難しくなる場合や、長時間歩くことが難しいと感じることもあります。

これらの症状は数か月間続くこともあるため、症状に気づいたら、できるだけ早く医師に相談することが重要です。

慢性炎症性脱髄性多発神経炎の検査・診断

慢性炎症性脱髄性多発神経炎の主な検査は、末梢神経伝導検査と脳脊髄液検査、MRI検査です。

末梢神経伝達検査では神経がどのように働いているかを確認します。足の神経を検査する場合は、膝の裏やアキレス腱に電気刺激を加えて、筋肉にあらわれる電気活動を記録します。2本以上の運動神経でうまく伝わっていなければ慢性炎症性脱髄性多発神経炎を疑います。

次に、脳脊髄液検査では、腰部に針を刺して髄液を取り出し髄液中に炎症があるかどうかを確認します。さらに、MRI検査も実施し、神経やその周辺の状態を画像で詳しく調べます。

これらの検査に加えて、患者の症状やこれまでの経過などから総合的に判断して慢性炎症性脱髄性多発神経炎と診断します。

慢性炎症性脱髄性多発神経炎の治療

慢性炎症性脱髄性多発神経炎の主な治療方法は、ステロイド療法と免疫グロブリン療法、血液浄化療法です。これら3つの治療方法が標準治療として確立されています。

ステロイド療法

ステロイド療法は、体内で起きている炎症を抑えるための治療法です。ステロイド薬を投与して免疫の過剰な反応を抑えることで、神経へのダメージを減らし、症状の進行を防ぎます。

ただし、長期間使うと高血圧、胃潰瘍、糖尿病、骨粗鬆症、感染症などの副作用が出ることもあるため、医師の指示のもと適切に使うことが大切です。

免疫グロブリン療法

免疫グロブリン療法は、健康な人から採取した抗体を静脈注射で投与する治療法です。

これにより、免疫の異常な反応を抑え、神経へのダメージを減らす効果が期待できます。免疫グロブリン療法は、慢性炎症性脱髄性多発神経炎症状の治療に広く使われており、特に症状の進行を抑えたい場合に効果が見込めます。近年では、より効果的で副作用の少ない生物学的製剤の研究も進められています。

副作用はステロイド療法やステロイド治療や血液化療法と比較すると少ないと言われていますが、血栓症のリスクを高めたり、無菌性髄膜炎を起こしたりすることがあると報告されています。

血液浄化療法

血液浄化療法は、血液中に含まれる悪い抗体を取り除いて、体の免疫の働きを正常に戻す治療法です。

透析という機械で患者の血液を一度体の外に取り出してから、血液中から有害な物質を取り除いて、きれいになった血液を体の中に戻します。

ただ、比較的太い血管にチューブを留置し、機械と接続する必要があったり、機械を扱う専門家(臨床工学技士)のサポートが必要になったり、ステロイド療法や免疫グロブリン療法に比べると実施が技術的に難しい部分があります。よって実施できる医療機関が限られる点にも注意が必要です。

血漿浄化療法の主な副作用には、血液を体外に取り出すことや機械の使用に伴う副作用として、感染、出血、血栓、接続部分の外れ、血圧低下、低体温などがあります。また、交換する血漿液・補充液に含まれる成分による副作用として、クエン酸中毒、アレルギー反応、高血圧・低血圧などがあります。

さらに、リハビリテーションを通じて筋力を維持し、日常生活での機能を向上させることも重要です。早期に治療を始めて症状の進行を抑えつつ、リハビリテーションによって生活の質を向上させることを目指します。

慢性炎症性脱髄性多発神経炎になりやすい人・予防の方法

慢性炎症性脱髄性多発神経炎を発症する平均年齢は40~50代と報告されていますが、幅広い年齢で発症することがあります。また、他の自己免疫疾患を抱えている方もリスクが高まることが知られています。

慢性炎症性脱髄性多発神経炎を発症する明確な原因は分かっていないため、予防は困難ですが、日頃から免疫力を高めることは非常に重要です。栄養バランスのとれた食事、適度な運動、そして十分な睡眠を心がけるようにしましょう。また、感染症にかからないように注意することも大切で、手洗いやうがいなど基本的な感染対策を行いましょう。

ストレスを溜めずに軽減することも、免疫の維持には欠かせない要素です。定期的に健康チェックを受けることも、異常を早期に見つけるための有効な手段です。早期発見と早期の適切な治療は、症状の進行を抑えるために非常に重要です。


関連する病気

  • 多巣性運動ニューロパチー
  • ギラン・バレー症候群

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