監修医師:
勝木 将人(医師)
目次 -INDEX-
未破裂脳動脈瘤の概要
未破裂脳動脈瘤とは、脳にできた動脈瘤のうち、未破裂(出血していない状態)のものを指します。
脳の動脈の枝分かれ部分などが、何らかの理由により風船のようにふくらんでしまった状態が「脳動脈瘤」です。脳動脈瘤自体は発症(保持)していても、未破裂のままであれば無症状であることが多く、検査等で偶然発見されるまで存在に気がつかない例もよくあります。
しかし、脳動脈瘤が破裂すると「くも膜下出血」を引き起こし、命の危険にさらされます。
脳動脈瘤ができる原因は、血管の壁が弱くなった部分に血流の負荷がかかることですが、その発症メカニズムはまだ完全には解明されていません。
遺伝的な背景、喫煙や暴飲暴食等の生活習慣、糖尿病等の既往歴、といった要因に影響を受けやすいことがわかっています。
なお、脳動脈瘤自体は決してまれな疾患ではなく、日本人の約3%が未破裂脳動脈瘤を発症(保持)しているとも言われています。したがって、この疾患の予防においては、脳ドックなどの検査による未破裂脳動脈瘤の早期発見と、その後の適切なリスク管理が重要となります。
出典:脳動脈瘤|国立研究開発法人 国立循環器病研究センター 未破裂脳動脈瘤|京都大学医学部付属病院 脳神経外科
未破裂脳動脈瘤の原因
脳動脈瘤ができる原因は、完全には解明されていません。
脳の動脈内において、何らかの理由により血管の壁がもろくなる、柔軟性を失う、傷つく、といったことをきっかけとして発症すると考えられています。
特に、脳動脈の複雑な枝分かれ部分には血流による負荷が集中しやすく、枝分かれ部分が風船のようにふくらんだ形が、脳動脈瘤のもっとも典型的な形状として知られています。
脳動脈瘤の発症リスクを高める主な要因は以下のとおりです。
生活習慣
喫煙の習慣、過度の飲酒、偏った食生活、不規則な生活リズムなど、生活習慣が発症リスクに影響すると考えられています。中でもとくに、喫煙習慣は血管に与える負担が大きいことで知られています。
遺伝的要因
遺伝的特徴による家族歴も、未破裂脳動脈瘤の発症リスクに影響すると考えられています。2等親以内の親族に発症歴があることがわかっている場合は、発症の可能性に注意すべきです。
他の病気の既往歴
糖尿病や高血圧症などの生活習慣病、多発性嚢胞腎症などの既往歴を持つ人は、発症リスクが高いことが知られています。
性別・年齢
脳動脈瘤は男性より女性に多く見つかることが知られており、閉経後のホルモンバランスなどの影響が指摘されています。また患者が高齢であると、発症率や再発率が高いことも報告されています。
未破裂脳動脈瘤の前兆や初期症状について
未破裂脳動脈瘤は、破裂しない限り自覚症状に乏しいことが知られています。まったくの無症状であることも珍しくありません。
しかし、一部のケースでは脳動脈瘤が神経を圧迫し、頭痛や視力の低下、まぶたが下がるなどの症状が出ることがあります。特に、脳動脈瘤のサイズが大きい場合や動脈瘤が神経の近くにある場合に、これらの症状が発生しやすくなります。
また、脳動脈瘤のサイズや位置によっては、慢性的な疲労感、耳鳴り、首や顔の違和感などの症状が現れることもあります。ただし、これらの症状は、未破裂脳動脈瘤を有するすべての人に必ずしも起こるわけではありません。
未破裂脳動脈瘤の検査・診断
未破裂脳動脈瘤を診断するためには、画像検査が必要です。一般的には、CTスキャンやMRIを使用して脳の状態を確認します。これらの検査により、脳動脈瘤の位置やサイズ、形状を詳しく調べることができます。
動脈の状態をより詳しく確認するために、血管造影検査をおこなうこともあります。血管造影検査は、血管内に造影剤を注入して血管の詳しい状態を確認する方法であり、精密な診断に役立ちます。
未破裂脳動脈瘤の治療
未破裂動脈瘤の治療は、破裂を予防することを目的としておこなわれます。どういった治療を選択するのかは、脳動脈瘤のサイズなどからわかる破裂の危険性をもとに、患者さんごとに異なるリスク要因も考慮して慎重に決められます。
未破裂動脈瘤の治療方法は主に以下の3つです。
慎重な経過観察
脳動脈瘤の大きさが5mm未満の場合など、破裂の危険性がそれほど高くないと判断された場合は、慎重な経過観察をとることがあります。
ただし、大きさが5mm未満であっても、すでに自覚症状が現れているケースや、脳動脈瘤の数、位置、形状などから危険性が高いと判断されるケースでは、別の治療法が検討されます。経過観察では定期的な画像検査をおこない、脳動脈瘤が大きくなっていないか、新たな脳動脈瘤が発生していないかなどを、しっかりと確認します。
経過観察中は医師の指導のもとで慎重にリスク管理をおこない、必要に応じて、血圧をコントロールするための薬物療法などもおこないながら、脳動脈瘤の破裂の危険性が高まらないようにします。
一度できた脳動脈瘤は基本的に自然治癒することはないため、経過観察をしながら他の治療法の適用についても考える必要があります。その際は、患者の年齢や健康状態など、さまざまな要素をじゅうぶんに考慮する必要があり、担当医師が患者やその家族とよく相談したうえで検討されます。
外科的手術(開頭クリッピング術)
脳動脈瘤の外科的手術では、開頭クリッピング術と呼ばれる手術がもっともよく知られています。
開頭クリッピング術は、チタンなどでできたクリップ(小さな洗濯ばさみのような形状の器具)を用いて、脳動脈瘤を挟みこみ、瘤を消失させる手術です。
適用範囲が広く、ほぼ全ての脳動脈瘤に対する治療が可能なこと、緊急性の高い場合にも適用できることなどがメリットです。
一方で、全身麻酔による比較的長時間の手術が必要となることや、患者の頭蓋骨の一部を切り取ったり、穴をあけたりする必要があることなど、手術時に患者への身体的な負担が大きいことがデメリットです。
血管内治療
血管内治療は、患者の血管内にごく細いカテーテルを通し、コイル、ステント、バルーンといった特殊な形状の器具を脳動脈瘤付近に設置(留置)して、脳動脈瘤を消失、あるいは破裂の危険性を下げる手術です。
脳動脈瘤における血管内治療でもっとも代表的なものは、コイル塞栓術です。コイルと呼ばれるごく細い金属製の器具で動脈瘤の内部を満たし塞いでしまうことで、動脈瘤の中に血液が流れ込まないようにします。
他にも、ステントと呼ばれる金属製の筒形の網で血管を補強する手法や、バルーンと呼ばれる器具を使う手法など、さまざまな治療法が開発されていて、血管内治療では、一度に複数の手法を組み合わせておこなうこともあります。
血管内治療は外科的手術よりも低侵襲(患者の身体への負担が少ない)であることが大きなメリットですが、必ずしも全ての症例に適用できるわけではありません。また、開頭クリッピング術に比べると、治療に成功しても再発のリスクがやや高いとされているため、術後も慎重な経過観察が必要になります。
未破裂脳動脈瘤になりやすい人・予防の方法
脳動脈瘤の発症原因がはっきりとはわかっていないため、未破裂脳動脈瘤になりやすい人を断定することはできません。
ただし、脳動脈瘤の原因として挙げられている要素を持つ人は、この病気の発症リスクがやや高まると考えられます。
すなわち「生活習慣が乱れがちな人」「遺伝的背景(家族に発症例がある)を持つ人」「生活習慣病等の既往歴を持つ人」「高齢者や女性」は定期的な検査を受け、未破裂脳動脈瘤の早期発見に努めることが推奨されます。
未破裂脳動脈瘤はそれほどまれな疾患ではなく、誰にでも起こり得る病気ですので、脳動脈瘤が発見されないまま大きくなったり、破裂したりするリスクを予防するという観点から、脳ドックなどの検査を受けることは有効といえるでしょう。
「喫煙や過度の飲酒を控える」「適度な運動を取り入れる」「食生活や睡眠など、健康的な生活習慣の維持を心がける」「過度なストレスを避ける」といった日常的な行動も、脳動脈瘤の発症予防につながります。
参考文献