

監修医師:
佐伯 信一朗(医師)
目次 -INDEX-
複合性局所疼痛症候群の概要
複合性局所疼痛症候群は、手や足などの四肢に強い痛みが生じる病気です。多くの場合、骨折や手術などの後に発症し、その痛みは元となった怪我の程度から考えられる以上に強く、長く続きます。この病気は10万人に約26人の割合で発症し、特に女性に多く見られ、平均して50歳前後での発症が多いことがわかっています。病気の進行は人によって異なり、発症から数ヶ月で改善する場合もありますが、数年以上続くこともあります。以前は反射性交感神経性ジストロフィーと呼ばれていましたが、複雑な病態が解明されるにつれ、現在の名称に変更されました。
複合性局所疼痛症候群の原因
複合性局所疼痛症候群の原因は単一ではなく、いくつかの要因が重なり合って発症すると考えられています。怪我や手術の後に、神経の働きが変化して炎症が起こりやすくなることが主な原因の一つとされています。また、痛みを感じる神経の感受性が高まってしまったり、手足の血流を調節する神経の働きが乱れたりすることも原因として挙げられています。さらに最近の研究では、体の免疫システムが関係している可能性も指摘されています。特に、自己免疫反応が症状の持続に関与している可能性が示唆されており、新しい治療法の開発にもつながっています。
複合性局所疼痛症候群の前兆や初期症状について
最初に気付く症状は、強い痛みです。この痛みは、火傷をしたような灼けるような感覚を伴うことが多く、軽く触れただけでも痛みを感じることがあります。また、痛みのある部分の皮膚の色が変わったり、温かくなったり冷たくなったりします。さらに、手足がむくんだり、汗の出方が変わったりすることもあります。時間が経つにつれて、関節が硬くなって動きにくくなることもあります。初期段階では、これらの症状が一時的に良くなったり悪くなったりを繰り返すことが特徴的です。
複合性局所疼痛症候群の検査・診断
医師は主に症状の様子を詳しく観察することで診断を行います。痛みの性質や、皮膚の状態、むくみの有無、関節の動きなどを総合的に判断します。特に、通常の怪我では説明のつかないような強い痛みがあること、手足の色や温度が変化していること、むくみや発汗の異常があること、関節が動きにくくなっていることなどが重要な診断の手がかりとなります。必要に応じて、皮膚の温度を測る検査や骨の状態を調べる検査なども行われます。他の病気との区別も重要で、特に神経の圧迫や炎症による痛み、血行障害による痛みなどとの鑑別が必要となります。
複合性局所疼痛症候群の治療
治療は、複数の専門家がチームとなって行います。中心となるのはリハビリテーションで、痛みのある部分をゆっくりと、段階的に動かしていく運動療法を行います。運動療法では、最初は手足を動かすイメージをするところから始め、徐々に実際の動きへと進んでいきます。鏡を使って健康な手足の動きを見ながら行う治療法も効果があることがわかっています。
痛みを和らげるための薬物療法も重要です。炎症を抑える薬、神経の痛みを和らげる薬、骨の状態を改善する薬などが使用されます。これらの薬は、症状や経過に応じて組み合わせを変えながら使用していきます。
心理療法も治療の重要な部分です。これは痛みと上手に付き合っていくための方法を学ぶもので、痛みへの不安や恐れを軽減し、日常生活の質を改善することを目指します。
症状が重い場合には、神経に直接治療を行う神経ブロック療法や、電気で痛みを和らげる脊髄刺激療法などが検討されます。最近では、後根神経節という神経の一部を刺激する新しい治療法も開発され、良好な結果が報告されています。これらの治療は特にペインクリニックや脳神経外科などで行われることが多いとされています。
複合性局所疼痛症候群の日常生活と予後
日常生活では、痛みのある部分を過度に使用することは避けながらも、できる範囲で活動を続けることが重要です。温度変化や圧迫が症状を悪化させることがあるため、極端な温度変化を避け、締め付けの強い服装や靴は控えめにすることをお勧めします。
予後は発症からの期間や治療開始の早さによって大きく異なります。早期に適切な治療を開始できた場合、約70%の患者さんで症状の改善が見られます。ただし、完全に元の状態に戻るまでには時間がかかることが多く、数ヶ月から数年の経過をたどることもあります。
複合性局所疼痛症候群になりやすい人・予防の方法
手足の骨折や手術を受けた人、特に手首の骨折をした人で複合性局所疼痛症候群を発症することが多いことが知られています。また、女性や40歳から60歳の年齢層の方が発症しやすい傾向にあります。予防のためには、怪我や手術の後の痛みを適切にコントロールすることが大切です。また、ギプスなどで手足を長期間固定することは避け、できるだけ早い段階から、痛みの程度を見ながら少しずつ動かしていくことが推奨されています。ビタミンCを摂取することで予防効果が期待できるという報告もありますが、さらなる研究が必要とされています。
最新の研究では、免疫グロブリン療法や、特殊な電気刺激療法など、新しい治療法の開発も進められています。また、なぜある人が発症しやすいのかを解明するための遺伝子研究も行われており、将来的にはより効果的な予防法や治療法の確立が期待されています。
関連する病気
- 自己免疫疾患
- 血管疾患
- 慢性疼痛症候群
- 脳血管障害
- 内分泌疾患
参考文献
- Harden RN, McCabe CS, Goebel A, et al. Complex Regional Pain Syndrome: Practical Diagnostic and Treatment Guidelines, 5th Edition. Pain Med. 2022;23(S1):S1-S53.
- de Mos M, de Bruijn AGJ, Huygen FJPM, Dieleman JP, Stricker BHC, Sturkenboom MCJM. The incidence of complex regional pain syndrome: A population-based study. Pain 2007;129(1-2):12-20.
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