監修医師:
井林雄太(田川市立病院)
嚢胞性線維症の概要
嚢胞性線維症(Cystic fibrosis: CF)は、cystic fibrosis transmembrane conductance regulator (CFTR) 遺伝子の変異が原因となる常染色体劣性遺伝疾患です。
全身性の疾患で、生まれて間もない頃から気道内液、腸管内液、膵液など全身の分泌液(外分泌腺といいます)、粘液が粘稠となります。そのため気管支、消化管、膵管など管腔が閉塞し感染しやすくなり、さまざまな症状が現れます。
膵外分泌異常による脂肪吸収不全やそれに伴う栄養障害、気道分泌異常による排痰困難、または難治性気道感染を発症し、慢性呼吸不全にいたることもあります。
汗中の塩化物イオン(Cl-)濃度が高くなることが特徴的な所見で、汗試験は嚢胞性線維症の診断における重要な検査です。
嚢胞性線維症の白人における発症率は約3000人に1人ですが、アジア人では大変まれで、日本人における患者数は100人未満といわれています。男女の発生率に差はありません。
嚢胞性線維症の原因
嚢胞性線維症はCFTRという遺伝子の変異が原因です。両親から受け継いだ2本の染色体にあるCFTR遺伝子の両方に変異があると発症します。
片方だけに異常がある人はキャリアと呼ばれますが、その場合嚢胞性線維症は発症しません。両親がともにキャリアである場合、その子どもに発症する確率は理論上25%となります。またその際に発症せずキャリアとなる確率は50%です。
CFTR遺伝子はCFTRタンパクの生産に関わる遺伝子です。CFTRタンパクは塩化物イオン(Cl-)、重炭酸イオン、ナトリウムイオンと水の、細胞膜を越えての輸送量を調節します。
CFTR遺伝子の変異により輸送が障害されることで管腔内の粘液が過剰に粘稠となります。
これまでに報告された遺伝子変異は2000弱で、人種や国によりさまざまです。欧米の患者さんで最も頻度の高い変異はΔF508変異(508番目のフェニルアラニン残基1個が欠落する変異)と呼ばれています。全患者さんにおいても約70%がこの変異によるものですが、日本人には通常認められず、それ以外のCFTR遺伝子変異が散発的にみられるということです。
また、同じ遺伝子変異を持つ患者さんであっても、障害される臓器、およびその重症度が異なるため、病態形成の機序に不明な部分が多いです。
嚢胞性線維症の前兆や初期症状について
嚢胞性線維症の代表的な症状は下記の通りです。
胎便性イレウス
新生児の約10%に胎便性イレウスがみられます。胎便性イレウスとは、腸内の分泌物の粘り気が異常に強いことにより、分泌物が腸の粘膜に付着して小腸が閉塞し、嘔吐、腹部の膨満、排便の欠如などを引き起こす症状のことを指します。
胎便性イレウスには腸の穿孔が合併することもあります。これにより感染や腹膜炎を引き起こし、治療しなければショックを起こし死に至ることもあります。
腸捻転や腸の発育不良もしばしばみられます。
胎便性イレウスの新生児には、別の嚢胞性線維症の症状が現れることが多いです。
消化不良、下痢、脂肪便
約80%の患者さんが消化不良、下痢になります。これは膵臓から消化酵素が分泌されなくなることが原因です。
また離乳期から起こる悪臭を伴う脂肪便が約30%の患者さんにみられます。
消化不良による栄養不足、それを原因とした成長不良もみられます。
せき、喘鳴、気道感染症
嚢胞性線維症の患者さんの約半数は、頻繁なせき、喘鳴、気道感染症などを発症します。吐き気、嘔吐、睡眠障害なども伴うことがあります。病気が進行するにつれ、肺の感染症の頻度が高くなることが多い傾向です。胸部がたる状になったり、酸素不足によってばち状指となったり、爪床(そうしょう)という通常ピンク色の部分が青っぽくなったりすることがあります。
また、副鼻腔が粘り気の強い分泌物で満たされることで副鼻腔炎が慢性化し、再発を繰り返すことも多いです。
多くの場合新生児期、または小児期に診断確定されますが、まれに確定せず成人を迎える方もいます。気になる症状がある際は小児科または内科を受診しましょう。
嚢胞性線維症の検査・診断
嚢胞性線維症は汗試験により汗中の塩分量を測定し、一定以上の濃度を認め、かつ後述する3つの検査において2項目以上を満たした際に診断されます。診断項目を以下に挙げます。
汗試験
患者さんの汗中における塩化物イオン(Cl-)濃度を測定します。
基準は、60mEq/L以上の汗中Cl濃度高値が持続するかどうかです。
膵外分泌不全
大量かつ頻回の悪臭を伴う脂肪便があるかを調べます。
またはPFD試験(BT-PABA試験)を用い、尿中のPABA排泄率、便中キモトリプシンの活性低下があるかを調べます。
呼吸器症状
気道外分泌異常から引き起こされる以下の疾患が繰り返し発症しているかどうかを確認します。
- 肺炎
- 気管支炎
- 無気肺
また、気管支拡張、肺性心(肺の病気による心臓病)、趾端末端の肥大(指先が膨らんでいる)、樽状胸郭(胸部がたる状になる)などの出現も確かめます。
その他
生後まもなく胎便性イレウスを起こしていることや、嚢胞性線維症の家族歴の有無も確認します。
嚢胞性線維症の治療
現在、根本的な治療法はなく、呼吸器感染症と栄養状態のコントロールを中心とした治療を生涯にわたり継続する必要があります。
上記に加え、合併症の長期的な予防と治療も行います。
また、普通の小児が行う活動に参加できないことで疎外感を持ってしまうこともあるため、精神的、社会的な助けも必要となります。
そのために小児科や内科医に加え、症状に応じた専門医、栄養士、理学療法士などによる包括的な治療プログラムを必要とします。
肺疾患の具体的な治療においては、感染症の管理と、気道の閉塞を防ぐことに重点が置かれます。感染症の管理として、患者さんはインフルエンザウイルス、肺炎球菌、百日ぜき、麻疹、水痘など、呼吸器に関わる感染症に対する予防接種を受ける必要があります。
気道内の痰や異物の排除のために気道クリアランス法の習得も重要です。
また、症状に応じて、気管支拡張薬や、気道の粘稠な粘液を薄くする薬などの投薬も行います。
膵臓から消化酵素が分泌されないことによる消化不良で十分なカロリーや栄養が接種できない場合は、膵酵素のサプリメントを用いることで消化不良の改善を促します。それでも消化吸収に異常が出るようであれば、通常推奨量よりも多くカロリーや脂肪の摂取が必要となります。食事でのカバーが難しいときは、高カロリーの経口サプリメントを使用します。
嚢胞性線維症の症状は人によって大きく異なり、重症度も年齢とは無関係です。肺炎や気管支炎を繰り返すことで徐々に肺機能が失われていき、呼吸不全となります。
1994年では、嚢胞性線維症の患者さんの約20%以上が5歳未満で亡くなっていました。しかし現在、早期の診断の増加や、症例数の多い欧米での治療法の発達により予後の改善が見込まれて、成人症例は確実に増加してきています。
嚢胞性線維症になりやすい人・予防の方法
嚢胞性線維症は遺伝性の疾患であり、特定の遺伝子の変異によって発症します。特定の遺伝子とはCFTR遺伝子を指し、両親から受け継いだ2本の染色体にあるCFTR遺伝子の両方に変異があることで発症します。片方だけに異常があるキャリアでは発症しませんが、両親がともにキャリアである場合、その子どもに発症する確率は理論上25%となります。発症せずキャリアとなる確率は50%で、異常遺伝子を保有しない確率は25%です。
つまり、両親ともに嚢胞性線維症に関わる遺伝子の、少なくとも片方に変異が認められなければ、まず子どもが嚢胞性線維症になることはありません。
子どもをもうけたいときに、心配であれば保因者検査を受けることも可能です。血液サンプルを用いて、嚢胞性線維症に関わる遺伝子に変異があるかどうか判定する検査です。
関連する病気
- 慢性閉塞性肺疾患(COPD)
- 肺炎(Pneumonia)
- 膵炎(Pancreatitis)
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