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前田 佳宏

監修医師
前田 佳宏(医師)

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島根大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科に入局後、東京警察病院、国立精神神経医療研究センター、都内クリニックにて薬物依存症、トラウマ、児童精神科の専門外来を経験。現在は和クリニック院長。愛着障害やトラウマケアを専門に講座や情報発信に努める。診療科目は精神神経科、心療内科、精神科、神経内科、脳神経内科。 精神保健指定医、認定産業医の資格を有する。

前頭側頭型認知症の概要

前頭側頭型認知症(FTD)は認知症の一種です。
主に臨床診断において使われる疾患名であり、歴史的にはPick病とも呼ばれてきた疾患群でもあります。
臨床診断と病理診断が異なる場合もあることから、近年では病理学的または遺伝的に確定診断がついた症例は「前頭側頭葉変性症(FTLD)」と呼ばれるようになりつつあります。
現時点では、指定難病病名として「前頭側頭葉変性症」が採用されています。

臨床症状に基づき、

  • 行動障害型前頭側頭型認知症
  • 意味性認知症
  • 進行性非流暢性失語

の3型に分類され、これらを包括した臨床診断名が「前頭側頭型認知症」です。
また、経過中に運動ニューロン症状を認めた場合は「運動ニューロン神経型前頭側頭型認知症」と呼ばれます。

主に40〜64歳の若年期に発症します。
高齢で発症する例もありますが70歳以上の発症はまれです。
日本には約12,000人程度の患者さんがいると推定されています。
アルツハイマー病に比べて発症頻度は低いですが、正確な頻度は不明です。
欧米では30〜50%に家族歴を認めますが、日本ではほとんど認めません。

若年期に発症することが多く、症状が認知症に思い至らないことがある点、
認知症に伴うものだとわかりにくい症状がさまざまに現れる点が問題となります。
診断が遅れたり社会的に問題となったりする症例も多く認められ、
就労や育児中の年齢で発症した場合は経済的な負担や子どもへの対応なども課題です。

前頭側頭型認知症の原因

大脳の前頭葉や側頭葉を中心とした神経細胞やグリア細胞の変性や脱落が起こって脳が萎縮し、
残存する神経細胞にタウ蛋白、TDP-43、まれにFUSなどの異常蛋白が蓄積するために発症しますが、
なぜこのような現象が起こるのかは解明されていません。
また、家族性の場合、タウ遺伝子、TDP-43遺伝子、プログラニュリン遺伝子などの変異が原因だとわかっています。

蓄積する異常蛋白によって神経病理学的に疾患群を大別した場合、

タウ蛋白が蓄積する疾患群

  • 3リピートタウ蛋白(Pick病)、4リピートタウ蛋白(大脳皮質基底核変性症、進行性核上性麻痺、嗜銀顆粒性認知症など)、3&4リピートタウ蛋白
  • TDP-43が蓄積する疾患群
  • FUSが蓄積する疾患群

と分類されます。

前頭側頭型認知症の前兆や初期症状について

人格変化・行動障害、言語障害が2大症状であり、緩やかに進行します。
その他、運動障害を認めることもあります。
アルツハイマー病とは異なり、脳の後方部が保たれるので記憶や視空間認知がある程度保たれるのが特徴です。
前頭葉の機能が低下するにつれて行動異常が出現します。

前頭葉の内面が障害されて自発性の低下が起こるのに加え、
前頭葉から他の部位の抑制が失われるために症状が現れることもあります。
起こる症状は部位によって特徴があり、

後方連合野の脱抑制
被影響性の亢進(外部環境に敏感に反応して影響を受けやすくなる状態)、環境異常症候群(自分の行動を抑制したり、自分だけの意思で行動決定が難しくなる状態)
辺縁系の脱抑制
社会的な配慮を欠いた行動
大脳基底核の脱抑制
常同行動

と分類されます。

その他、発症初期から現れることが多い症状として、行動異常型前頭側頭型認知症の診断基準では以下が挙げられています。

脱抑制行動
礼儀やマナーの欠如、衝動的な行動、社会的に不適切な行動など
無関心や無気力
共感や感情移入の欠如
他者の要求や感情に対する反応の欠如、共感や感情に対する反応の欠如
固執・常同性
単純動作の反復、強迫的又は儀式的な行動、常同言語
口唇傾向と食習慣の変化
食事嗜好の変化、過食、飲酒、喫煙行動の増加、口唇的探求又は異食症

また、

  • 言語障害:意味記憶障害、意味性失語、運動性失語
  • 筋萎縮や筋力低下を呈する運動ニューロン疾患
  • パーキンソニズム
  • 認知機能障害
  • 運動障害
  • 進行性核上性麻痺や大脳皮質基底核症候群の臨床症状

といった症状を示すことがあります。

以上のように、症状が多岐にわたるため本疾患の症状かどうか分かりにくいケースがあります。
また、発症年齢が若年期に多いことから、自覚がなく発症に気が付かないこともあります。
もしご家族が初期症状のような変化に気が付いた場合、脳神経内科、脳神経外科、精神神経科、心療内科などを受診します。
かかりつけ医を受診し、適切な診療科につなげてもらってもいいでしょう。

症状進行の経過

症状の重症度分類は行動異常と言語障害それぞれで行われます。

行動異常の重症度

  • 0:社会的に適切な行動を行える。
  • 1:態度、共感、行為の適切さに最低限であっても明らかな変化を認める。
  • 2:行動、態度、共感、行為の適切さにおいて、軽度ではあるが明らかな変化を認める。
  • 3:対人関係や相互のやり取りにかなり影響を及ぼす中等度の行動変化を認める。
  • 4:対人相互関係が総て一方向性である高度の障害を認める。

言語障害の重症度

  • 0:正常な発語、正常な理解が可能。
  • 1:最低限だが明らかな喚語障害(言いたい語が出てこない)を認める。通常会話では、理解は正常。
  • 2:しばしば生じる発語を大きく阻害するほどではない程度の軽度の喚語障害、軽度の理解障害を認める。
  • 3:コミュニケーションを阻害する中等度の喚語障害や、通常会話における中等度の理解障害を認める。
  • 4:高度の喚語障害、言語表出障害、理解障害により実質的にコミュニケーションが不能の状態。

とされており、それぞれ重症度3以上で指定難病の対象となります。
(厚生労働省作成:概要・診断基準等より引用)

これらの症状に運動障害を合併することがあり、
その場合は嚥下性肺炎、誤嚥による窒息、転倒による外傷には注意が必要です。

前頭側頭型認知症の検査・診断

臨床症状によって分類された分類ごとの診断基準が用いられます。
それぞれの診断基準から前頭側頭型認知症が疑われた場合、画像検査を行って診断の一助とすることがあります。

画像検査では、

  • CTやMRIで前頭葉や側頭葉前部に境界明瞭な萎縮を認め、白質病変を伴うことがある。
  • PETやSPECTで代謝や血流の低下がみられる。

といった特徴を示しますが、分類や病気の進行度によって所見を認める部位は異なります。

さらに他の種類の認知症や精神疾患など(アルツハイマー病、レヴィ小体型認知症、血管性認知症、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、うつ病など)を除外診断できた場合には前頭側頭型認知症と診断されます。

前頭側頭型認知症の治療

前頭側頭型認知症は進行性の変性疾患であり、根本的な治療法は現在開発されていません
その一方、行動障害の改善目的でSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)の使用が有効だったという報告や、
オキシトシンの経鼻投与で改善したという報告があります。

また、行動療法をはじめとする非薬物療法も有用です。
治療の中心となる可能性があり、保持されている機能の活用や、それまでの生活様式の利用によって行動異常が軽減できることもあります。

近年、前頭側頭型認知症の病態解明は急激に進んでおり、
病態に関連する異常タンパクをターゲットにした治療法の開発も積極的に行われています。
治療法の開発と同時に、従来よりも早期に診断する方法や治療効果を客観的に判定する方法の開発も重要な課題です。

前頭側頭型認知症になりやすい人・予防の方法

家族歴や原因となる遺伝子変異を持っている場合、前頭側頭型認知症になりやすいと言えます。
今のところ有効な予防法は明らかになっていませんが、
症状の理解と適切な工夫によって、患者さん本人だけでなく介護するご家族の負担が軽減することが知られています。
早期発見が早期の適切な対応につながるでしょう。

残されている認知機能を上手に利用した対応や、
デイケア施設の利用が介護負担の軽減や患者さんと介護者のQOL維持・改善に繋がる可能性があります。
介護者となるご家族を含め、社会的に孤立しないことも大切です。


関連する病気

  • アルツハイマー病
  • パーキンソン病(Parkinson's Disease)
  • レビー小体型認知症(Dementia with Lewy Bodies
  • DLB)

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