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脳挫傷
勝木 将人

監修医師
勝木 将人(医師)

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2016年東北大学卒業 / 現在は諏訪日赤に脳外科医、頭痛外来で勤務。 / 専門は頭痛、データサイエンス、AI.

脳挫傷の概要

脳挫傷とは、外部からの強い打撃や激しい揺れが起こることで脳が損傷した状態です。脳の損傷と同時に頭蓋骨が骨折したり、硬膜の外側や内側に血液がたまって急性硬膜下血腫や急性硬膜外血腫を引き起こす場合があります。外力によって脳が打ち付けられるため、打撃を受けた部位や対角の部位に出血や浮腫が生じやすいです。

脳挫傷の損傷には、外力によって直接損傷を受けた一次性損傷と、脳浮腫や脳腫脹など受傷後の出血で損傷が加わった二次性損傷にわかれます。

二次性損傷は時間が経過するほど悪化しやすいため、できるだけ早めに治療することが重要です。損傷を受けた最初の12時間程度で出血や浮腫が広がる場合が多いですが、3~4日後に症状が進行する場合もあります。

出典:National Library of Medicine「Cerebral Contusion」

脳挫傷

脳挫傷の原因

脳挫傷の原因は、交通事故やスポーツ、階段からの転落、家庭内暴力などで、脳に強い打撃や激しい揺れが起こることです。外力が加わった直下の頭蓋骨や脳部位が損傷したり、外力が加わった反対側の脳部位が損傷して出血や浮腫、腫れが生じます。

脳挫傷の前兆や初期症状について

脳挫傷は打撃や激しい揺れが起きることで生じるため、前兆はありません。初期症状は、頭痛や瘤(こぶ)のほか、損傷された脳がつかさどる部位の障害が起こります。

脳挫傷では脳の側頭葉や前頭葉を損傷するケースが多いため、思考や判断、感情、記憶、運動、感覚、言語などに関する症状があらわれることが多いです。

損傷がごく限られた範囲であれば、脳が受けるダメージも小さいため、症状がほとんどない場合もあります。しかし、損傷が小さくても出血部位が意識を司る延髄などにおよんでいれば意識障害を起こしたり、小脳におよんでいれば嘔吐やめまい、歩くときのふらつきなどが起こります。

意識障害

意識障害とは周りからの呼びかけに正しく反応できなかったり、無反応になったりする状態です。脳挫傷では一時的に意識が消失する場合と、継続的に意識レベルが低くなる場合があります。

運動麻痺

前頭葉の運動をつかさどる部分が損傷された場合、上手く手足を動かせなくなる運動麻痺をきたす可能性があります。損傷部位が左の前頭葉であれば右側の麻痺、右の前頭葉であれば左側の麻痺といったように、交差的に障害が生じるのが特徴です。

言語障害

前頭葉や側頭葉の言語をつかさどる部分が損傷されると、人が話している内容を理解できなくなる言語障害が起こる可能性があります。

記憶障害

前頭葉や側頭葉の記憶をつかさどる部分が損傷されると、過去の記憶を忘れたり、新しいことが覚えられなくなる場合があります。軽症の場合は部分的に覚えていることがありますが、重症になると全ての記憶が失われてしまいます。

注意障害

前頭葉の注意機能をつかさどる部分が損傷されると、ひとつのことに長時間集中することが難しくなる注意障害が起こります。注意障害は何らかの課題を行った場合、時間の経過とともに成績の低下が見られるのが特徴です。

てんかん

てんかん発作は、脳の損傷をきっかけとして、脳に過剰な電気的興奮が起こることで生じます。てんかんには意識障害や記憶障害を伴うものと、これらを伴わないものがあります。

脳挫傷の検査・診断

外傷や意識状態の確認を行った後、重篤な場合は蘇生措置を行います。その後、CT検査やMRI検査で脳の状態を確認します。

状態が落ち着いた後は、画像検査から予測できる症状を考慮したうえで、必要に応じて運動麻痺や注意障害の程度などを調べる検査を行います。

CT検査

CT検査はX線を使用して脳の状態を撮影する検査で、受傷してからできるだけ早く行います。脳挫傷が生じている場合、正常の脳よりも黒くなっている部位(浮腫や壊死)のなかに白い部分(出血)が見られることがあります。

MRI検査

MRI検査は磁気を使用して脳の状態を撮影する検査で、CT検査を行った数日後、医師が必要だと判断したケースで行います。CT検査より解像度が高いため、脳出血のほかに脳梗塞が起きている部位も確かめられます。高次脳機能障害の判断材料としても用いられることが多いです。

脳挫傷の治療

脳挫傷の治療は、保存療法や手術、リハビリテーションなどを行います。これらの治療を行っても、脳挫傷によって損傷した脳の部位は完治できません。しかし、損傷の程度によりますが、継続的な治療で限りなく正常に近い機能を取り戻せる可能性はあります。

脳内の出血や浮腫がわずかで、脳の損傷がほとんど見られない場合は短期間で退院できます。しかし、出血や浮腫の範囲が広く、損傷部位も多い場合は、意識障害や運動麻痺、高次脳機能障害など症状が多岐にわたるため長期間の入院が必要になる場合があります。

保存療法

出血や浮腫による症状が抑えられている場合は、保存療法で経過を観察します。安静を基本に頭蓋内圧を下げる脳圧降下薬や、発熱に対する解熱剤などを投与します。

手術

出血や浮腫が徐々に大きくなって過度に頭蓋内圧が亢進している場合は、減圧開頭手術や開頭血腫除去術を行うことがあります。減圧開頭手術は頭蓋骨を切除して浮腫による脳への圧迫を減らす方法で、開頭血腫除去術は脳内の出血や血腫を除去する方法です。これらの手術で頭蓋内圧を適切に下げ、脳が押し出されるのを防ぐことによって、血圧の低下や呼吸停止などのリスクを減らせます。

リハビリテーション

リハビリテーションは、運動麻痺や感覚麻痺、高次脳機能障害などが起きている場合に行います。

脳挫傷になりやすい人・予防の方法

脳挫傷を予防するには、交通事故やスポーツ、転倒などによる受傷をできるだけ避けることが重要です。高齢者が家庭にいる場合は住居内の転倒を防ぐために、手すりの設置や段差の解消を行ったり、居住スペースを2階から1階に移動すると効果的です。

脳挫傷が起こると徐々に出血や浮腫が進行し、症状が悪化するため、交通事故やスポーツで頭部の強い打撃が起こった後などは、早めに脳神経外科を受診してください。


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