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脳幹出血
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

脳幹出血の概要

脳幹出血とは、名前の通り「脳幹」とよばれる部位で起こる出血のことです。脳幹という部位は中脳・橋・延髄という部位から構成されています。この脳幹という部位は、眼球の働き、顔面の感覚、咽頭や喉頭の動き、消化管の働きをコントロールする神経が含まれる「脳神経」の経路や、身体の運動・感覚を支配する経路、呼吸をつかさどる部位、そのほか生命維持に重要な場所が多く含まれています。
脳幹出血では出血によってこれらの重要な機能が障害されるため、その発症は命の危険を意味します。命が助かったとしても身体や神経系の機能に重大な後遺障害を残すことがあり、脳出血の中でも最も予後が不良なものとされています (参考文献 1, 2)。したがって脳幹出血の患者を助けるためには速やかに救急要請して適切な医療につなげることが重要です。
危険因子には生活習慣に関連するものも多いため、日々の習慣の見直しが予防につながると言えるでしょう。

脳幹出血の原因

脳幹出血は脳幹を栄養する血管が何らかの理由で破れ 、脳幹の周辺で出血が起こることで発症します。脳周辺の血管が破れる理由には、交通事故などの一時的な大きなエネルギーによるもののほかに、高血圧や動脈硬化、種々の原因による血管へのアミロイド沈着によって起こる出血があります (参考文献 3) 。
脳幹出血に限らず脳出血の症状は、出血によってできた血種によって神経組織が圧迫されることで出現します (参考文献 3)。脳や脳幹の周りは余っているスペースが少ないので、少しの出血でも神経組織が圧力を逃がすスペースがなく、組織にかかる圧力がすぐに上がってしまい、神経組織は正常なはたらきができなくなってしまいます。

脳幹出血の前兆や初期症状について

脳幹出血は急激な発症をすることが多く、重篤な意識障害が速やかに症状として出てくることが多いため、その前兆や初期症状を自ら察知することは難しいかもしれません。
脳幹出血に多い症状としては意識障害や、運動機能が障害を受けることによる麻痺、呼吸をつかさどる部位が障害されることによる呼吸障害、体温を自分で調整する機能が障害されることによる高体温や各種自律神経障害、目の向きを変える機能や瞳孔の異常などがあります (参考文献 1, 2, 3)。

脳卒中の有名な症状として「急にいびきをかいて寝始めた」というものを聞いたことがあるかもしれません。脳幹出血でも正常な呼吸ができなくなることがあります。脳幹出血ではいびきのような呼吸の他にも、呼吸のリズムが普段と異なったりなど、呼吸に様々な変化が起こることがありますが、正確な評価することは難しいので「いつもと違う呼吸」であれば異常と考えてもらって大丈夫です。

脳幹出血は急に重篤な症状が出るため、119番で救急要請をして速やかな治療につなげることが重要です。

脳幹出血の検査・診断

発症のしかたの問診や身体診察の所見などから脳神経系の出血が疑わしいと判断された段階で、患者の状態を安定させた後に、速やかに CT MRI といった画像検査を受けます。
これらの画像検査は、似たような症状がでる脳梗塞と区別するために有用な検査となっています。脳出血は出血によって症状が出ているわけですから、血管が詰まることによって症状が出る脳梗塞とは反対の治療をしなければいけないので、画像検査は治療を次のステップに進めるために必須となる検査です (参考文献 3) 。

また、時間をおいて何度か CT や MRI の撮影をすることで、出血が増えていないかや、周辺の組織の状態を評価する場合があります (参考文献 1, 3)。

脳幹出血の治療

脳幹出血の治療では患者本人の状態を安定させたり、出血の拡大を防ぐことが最優先されます。具体的には次のような治療をしていきます(参考文献 3, 4)。

  • 血圧を適切な範囲に保つ
  • 体温が調整できなくなっている患者の体温をコントロールする
  • 血が固まりにくくなるような薬を飲んでいる場合はそれらの薬を中断する
  • 出血によって頭蓋内圧が高くなりすぎないように、投薬治療や外科的な処置をする
  • けいれんが起きた場合はけいれんを止めたり、予防したりする

脳幹出血に対する血種除去手術の有用性については意見が分かれていて、どのような症例に対して手術が有用なのか研究が続けられています (参考文献 1, 5)。

脳幹出血になりやすい人・予防の方法

一般的に、脳幹出血を含む脳出血の危険因子には次のようなものがあると言われます (参考文献 3)。

  • 年齢:高齢であるほど発症率が高いことが知られています。
  • お酒をたくさん飲む人
  • 喫煙
  • 肥満や運動不足:肥満や運動不足の人では脳出血の発症率が高いことが知られています。肥満や運動不足が高血圧につながることや、血液さらさら系の薬を使わなければいけなくなるような病気の発症につながることで、間接的に脳出血のリスクとなっていると考えられています。
  • 高血圧:脳出血において最も重要な危険因子とされています。
  • いわゆる「血を固まりにくくする薬」を使っている人:ワーファリンやヘパリン、 DOACなどの血液凝固を抑制する薬剤や、血小板の働きを抑える薬などは多くの病気に対して使用されます。血を固まりにくくするくすりですので、出血性の病態である脳出血・脳幹出血では危険因子となります。

これらのほかには特定の人種や特定の遺伝子多型が危険因子として報告されています。年齢や人種、遺伝子は変えようがないですが、肥満や運動習慣、お酒やタバコなどの危険因子は、生活習慣を改善することでコントロールすることができ、生活習慣の改善は脳出血のみならず多くの病気の予防につながります。
少しずつでもよいので、できることを少しずつ始めていきましょう。


参考文献

  • 1.Chen D, et al. Primary Brainstem Hemorrhage: A Review of Prognostic Factors and Surgical Management. Front Neurol. 2021 Sep 10;12:727962.
  • 2.有本祐彦ら. 脳幹出血の予後に関する臨床的検討. 脳卒中 30:38-44. 2008
  • 3.UpToDate. Spontaneous intracerebral hemorrhage: Pathogenesis, clinical features, and diagnosis
  • 4.UpToDate. Spontaneous intracerebral hemorrhage: Acute treatment and prognosis
  • 5.Chen P,et al. Management of Primary Brainstem Hemorrhage: A Review of Outcome Prediction, Surgical Treatment, and Animal Model. Dis Markers. 2022 Jul 12;2022:4293590.

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