

監修医師:
近藤 類(医師)
所属
平鹿総合病院
科長
目次 -INDEX-
もやもや病(Willis動脈輪閉塞症)の概要
もやもや病は、またの名をウィリス動脈輪塞栓症とも呼ばれ、1950年代に日本で初めて発見され、命名されました。そのため、英語でもMoyamoya diseaseと呼ばれています。
もやもや病は主に日本や東アジアに多く見られる希少な脳血管疾患であり、厚生労働省により難病に指定されています。
内頚動脈という太い血管の終末部が徐々に狭窄し、脳に供給される血流が減少します。その結果、足りない血流を補おうとして脳内に新たな異常血管が形成されていきます。
形成された異常血管(もやもや血管)は、脳細胞へ多量の血液を送る形になるため、キャパシティを超える負荷がかかって破綻しやすくなり、脳出血を起こすことがあります。脳への血液が補いきれなくなる場合は、脳梗塞として発症することもあります。
この異常血管が画像診断で、煙が立ち上るようにもやもやと見えることからもやもや病という名前が付けられました。
もやもや病(Willis動脈輪閉塞症)の原因
もやもや病の正確な原因はまだ完全には解明されていませんが、遺伝的要因があることは示されています。
RNF213遺伝子がもやもや病に関連していることが、最近の研究で明らかとなっています。
もやもや病(Willis動脈輪閉塞症)の前兆や初期症状について
もやもや病の病態は、脳血流が不足することで生じる虚血型と、もやもや血管が破綻することで生じる出血型に大別されます。
一過性脳虚血発作(TIA)
もやもや病によって形成された異常血管はとても細く、脳の血流不足を起こしやすくなります。短時間の脳血流不足により、手足のしびれや脱力、言語障害が一時的に現れます。一過性脳虚血発作の場合、症状の持続時間は数分から数十分の間です。脳梗塞の前段階といえます。
脳梗塞
もやもや病では脳動脈の狭窄や梗塞が進行し、虚血発作が起こりますが、重篤な場合は脳梗塞を発症する場合があります。脳梗塞は一過性脳虚血発作とは異なり、元の状態に戻ることはなく、長時間にわたる血流不足により脳の神経細胞が壊死し、麻痺や言語障害などの症状が持続します。
脳出血
もやもや病で形成された異常血管は破れやすく、破綻して出血を起こすことがあります。
出血部位により症状は異なりますが、激しい頭痛や意識障害、手足の麻痺、言語障害などが起こる可能性があり、出血が多い場合は、生命に関わることもあります。
頭痛
激しい頭痛に限らず、軽い頭痛をきっかけにして、検査によってもやもや病が見つかる場合もあります。
てんかん発作
多くはありませんが、痙攣発作が症状として出現することもあります。
不随意運動
手足が自分の意思に関わらず、ガクガクと動いてしまう不随意運動が見られる場合も稀にあります。
無症状
脳ドックなどで偶然に発見される場合があります。もやもや病は家族発症例が10%以上みられることから、血縁でもやもや病と診断された方がいる場合は、脳ドックの受診が推奨されます。
もやもや病(Willis動脈輪閉塞症)の検査・診断
もやもや病の検査は、
- 診断の確定
- 手術を行う必要があるかどうか
を目的に行います。
主に以下の検査を行います。検査によって通院で行えるものもあれば、入院が必要となる検査もあります。
MRI(磁気共鳴画像)
脳の構造や内頚動脈の状態、異常血管の有無を観察できます。
脳血管造影(DSA)
カテーテルを用いて造影剤を注入し、X線で脳血管の詳細な画像を得る方法です。もやもや病の確定診断に重要な情報が得られます。
MRIでは描出できないような細い血管まで描出することができます。
SPECT(単一光子放射断層撮影)
脳血流の評価を行い、脳梗塞のリスク判定を行います。手術が必要かどうかを判断する材料となります。
もやもや病(Willis動脈輪閉塞症)の治療
上述の検査結果をもとに、最適な治療方針を決めていきます。
もやもや病の治療は、主に以下の二つの方法に分かれます。
内科的治療
もやもや病と診断されても、必ずしも手術が必要となるわけではありません。
症状がない場合や脳の血流が安定している状態であれば、生活習慣病の管理や定期的な検査で進行状況を観察し、予防を図ります。
薬物療法
抗血小板薬を使用して、脳梗塞を予防します。てんかん発作で発症した場合は、抗てんかん薬も使用されることがあります。
生活習慣の改善
規則正しい生活やバランスの取れた食事、ストレスの軽減などが推奨されます。動脈硬化の進行を防ぐことは、もやもや病による脳卒中症状の予防となります。
外科的治療
脳の血流が大きく低下していたり、脳梗塞のリスクが高いと判断される場合は、外科的治療、つまり手術が必要となります。
手術は多くの場合、下記の直接血行再建術と間接血行再建術を組み合わせたハイブリッド型の方法が取られます。
直接血行再建術
浅側頭動脈と中大脳動脈を直接接続する手術で、即時的に脳血流を改善することを目指す手術です。
間接血行再建術
筋膜など血流豊富な組織を脳表面に接着させ、新たな血管が自然に形成されるのを待つ手術です。
ハイブリッド手術
直接血行再建術と間接血行再建術を組み合わせる手術で、効果を高めることを目的としています。
もやもや病(Willis動脈輪閉塞症)になりやすい人・予防の方法
もやもや病は日本、韓国、中国の東アジアに多く見られる疾患です。人種的要因や遺伝的要因が示唆されています。
日本ではおよそ1万人にひとりの頻度で、女性に多い傾向が見られます。
もやもや病は現時点で明確な発症メカニズムが解明されていないこともあり、有効な予防法はありません。
ですが、一般的な脳血管疾患の危険因子としては、喫煙、肥満、高血圧、脂質異常症、糖尿病などが挙げられます。
これらを意識することで脳血管障害のリスクを下げることができるため、これらの基礎疾患がある場合は治療を受け、バランスの良い食事、適度な運動、飲酒や喫煙習慣の見直しなど、生活習慣の見直しが重要になります。
関連する病気
- 脳卒中
- 一過性脳虚血発作
- 神経学的障害