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水頭症
勝木 将人

監修医師
勝木 将人(医師)

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2016年東北大学卒業 / 現在は諏訪日赤に脳外科医、頭痛外来で勤務。 / 専門は頭痛、データサイエンス、AI.

水頭症の概要

水頭症は、脳内に過剰な脳脊髄液がたまることで生じる病気です。通常、脳脊髄液は脳の中で1日に約500mL産生されて、脳や脊髄を包み込みながら循環し、吸収されることで均衡を保っています。このバランスが崩れ、脳室内に脳脊髄液が異常にたまる結果、脳室が拡大し、脳組織が圧迫されることで水頭症になります。この病気は、新生児から高齢者まで発生する可能性があり、症状や治療法も、年齢や原因によって異なります。

水頭症には先天性水頭症と後天性水頭症の2つがあります。先天性水頭症は出生前または出生直後に発症し、しばしば遺伝的要因や胎児期の感染、発育異常が原因となります。後天性水頭症は、頭部外傷、くも膜下出血、髄膜炎などの生まれた後の疾患に伴って生じる水頭症のことを言います。脳腫瘍の場合は、原因の腫瘍を取り除くことで水頭症の改善が見込めます。

水頭症の原因

水頭症の原因は、脳脊髄液の過剰生成や循環障害、吸収障害があります。

脳脊髄液の過剰産生

通常、脳脊髄液は脳の中の脈絡叢で生成されますが、何らかの原因でこの生成量が増加すると、水頭症を引き起こします。

脳脊髄液の循環障害

脳脊髄液は脳内を循環し、脊髄に達し、その後再び脳に戻ります。この循環が何らかの障害によって阻害されると、脳脊髄液がたまり、水頭症が生じます。このタイプの水頭症は、脳腫瘍や脳出血、炎症などが原因となることが多いです。

脳脊髄液の吸収障害

脳脊髄液は脳の表面にあるクモ膜顆粒で吸収されますが、この吸収が障害されると、水頭症が発症します。吸収障害は、出血や感染、炎症などが原因で起こります。

水頭症の前兆や初期症状について

 
水頭症の初期症状は、年齢や病状の進行具合によって変わります。それぞれ順番に分けてご紹介します。

新生児や乳児

頭囲の急激な拡大が最も顕著な症状です。頭蓋の縫合が閉じていないため(頭蓋が柔らかいため)髄液の圧が上昇すると頭全体が大きくなります。症状としては、異常な眠気や食欲不振、嘔吐、けいれんなどが見られます。

幼児や学齢期

頭痛や嘔吐、視力低下、平衡感覚の喪失が初期症状として現れます。そのほかに学校での学習障害や行動の変化も見られることがあります。このような症状は、脳圧の上昇によって引き起こされるため、早期の診断と治療が必要です。

成人

初期症状は頭痛や嘔吐、視力障害、二重視などが見られます。ほかにも認知機能の低下や記憶障害、歩行困難なども一般的な症状です。これらの症状は、ゆっくりと進行することが多く、他の疾患と誤診されることがあります。

高齢者

初期症状は、正常圧水頭症として知られる特有の症候群で現れます。正常圧水頭症は、歩行障害、認知症状、尿失禁の三大症状が特徴です。歩行障害は、歩行が不安定で小刻みな歩き方になり、認知症状はゆっくりとした思考や記憶力の低下が見られます。突然の尿失禁や頻尿も特徴の1つです。

これらの症状がみられた場合、 神経内科、脳神経外科などを受診して適切な検査・治療を受けることをおすすめします。

水頭症の検査・診断

水頭症の診断は、臨床症状の評価と画像診断を組み合わせて行われます。最初に医師は患者さんの症状や病歴を詳しく聞き取り、身体検査を行います。特に、頭囲の測定や神経心理学的検査(HDS-R、MMSEなど)が重要です。

次に、画像診断としては、頭部超音波検査、コンピュータ断層撮影(CTスキャン)、磁気共鳴画像(MRI)などが使用されます。頭部超音波検査は、新生児や乳児の頭蓋骨がまだ柔らかい時に有効であり、脳室の拡大を確認することができます。CTスキャンやMRIは、脳内の詳細な構造を可視化し、脳室の拡大や脳脊髄液の流れを確認するのに役立ちます。

さらに、脳脊髄液の圧力を測定するために、腰椎穿刺(ルンバールパンクチャー)を行うことがあります。この検査では、脳脊髄液を採取して圧力を測定し、感染や出血の有無を確認します。正常圧水頭症が疑われる場合には、脳脊髄液の排出テスト(タップテスト)や外部ドレナージ試験を行い、症状の改善を確認することがあります。

水頭症の治療

水頭症の治療は、脳脊髄液の過剰産生を排除し、脳圧を正常に保つことを目的とします。最も一般的な治療法は、シャント手術です。シャント手術とは脳室内にカテーテルを挿入し、余分な脳脊髄液を体内の他の部位(通常は腹腔や心臓)に排出するシステムを設置します。この手術は、多くの患者さんにおいて症状の改善をもたらし、生活の質を向上させます。

シャント手術には、脳室腹腔シャント(VPシャント)や脳室心房シャント(VAシャント)など、複数の方法があります。VPシャントとは、脳室内の脳脊髄液を腹腔に排出する方法であり、最も一般的な手術です。VAシャントは、脳室内の脳脊髄液を心臓の右心房に排出する方法で、VPシャントが適用できない場合に使用されます。

シャント手術以外の治療法としては、内視鏡的第三脳室底開窓術(ETV)があります。この手術は、内視鏡を使用して第三脳室の底に小さな開口部を作り、脳脊髄液の流れを改善する方法です。ETVは、特にシャント手術が困難な場合やシャントの合併症が懸念される場合に行われる治療法です。

薬物療法も、水頭症の症状管理に使用されることがあります。利尿薬(例えば、アセタゾラミド)は、脳脊髄液の生成を減少させる効果がありますが、根本的な治療ではなく、症状の一時的な軽減を目的としています。

水頭症になりやすい人・予防の方法

水頭症になりやすい人の特徴

水頭症になりやすい人は、新生児や乳児、高齢者、頭部外傷や脳出血、脳腫瘍などの既往がある方々です。特に、早産児や低出生体重児は、脳室内出血のリスクが高く、それに関係して水頭症の発生率も高くなります。また、感染症(例えば、髄膜炎)や脳の発育異常がある場合も、水頭症のリスクが高まります。

予防の方法

水頭症の予防は、原因となる要因の管理と早期発見が大切になります。

新生児や乳児に対する予防接種は、感染症を防ぎ、水頭症のリスクを低減するのに役立ちます。また、妊婦の健康管理や定期的な妊婦検診も重要であり、胎児の発育異常や感染症を早期に発見し、適切な対応を行うことができます。

成人や高齢者においては、頭部外傷のリスクを減少させるために、安全対策を徹底することが必要です。例えば、スポーツや交通事故などで頭部を保護するためにヘルメットの着用を徹底することが大切です。さらに、脳出血や脳腫瘍の早期発見と治療も、水頭症の予防に繋がります。定期的な健康診断や、症状が現れた場合の早めの医療機関の受診が必要です。

水頭症のリスクを減少させるためには、生活習慣見直しなどの健康管理が欠かせません。適切な栄養管理、定期的な運動、ストレスの軽減など、全体的な健康状態を良好に保つことが、水頭症の予防に強く影響します。また、家族歴がある場合や、既往歴がある場合は、医療機関での定期的なチェックアップと適切なフォローアップが重要です。


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